アメリカ音楽の新しい地図

4.音楽メディアとランキング・システム

トランプ後のアメリカ音楽はいかなる変貌を遂げるのか――。激変するアメリカ音楽の最新事情を追い、21世紀の文化=政治の新たな地図を描き出す!

ジャンル別のランキング
 では、それぞれのジャンルのランキングはどのように序列化されるのだろうか。ここでは主として黒人音楽とカントリー・ミュージックのジャンルを中心にみてみよう。
 ビルボード誌に最初の黒人音楽チャートが現れるのは1942年10月24日号である。「ハーレム・ヒット・パレード」と名付けられたチャートは、ニューヨークのハーレム地区のレコード店6店舗のセールスにもとづくランキングであり、その週の1位を獲得した黒人ジャズ・ミュージシャン、アンディー・カークの「テイク・イット・アンド・ギット」をはじめに上位10曲が並んでいる。
 ビルボード誌の黒人音楽チャートが「ハーレムでヒットしている曲」として始動した点はいくら強調してもしすぎることはない。つまり、ここで「黒人音楽」というジャンルはミュージシャン/アーティストではなく、それを享受するコミュニティーをベースに定義づけられている。「ハーレム・ヒット・パレード」は黒人コミュニティーでヒットした曲のランキングであり、アフリカ系のアーティストの作品を序列化しているわけではない。だからこそ、本稿の冒頭に示したように、ビルボード誌のR&Bチャートに白人ミュージシャンが上がってくるクロスオーバー現象が問題になりうるのだ。
 その後、ビルボード誌は1945年2月17日号に「ジュークボックスでもっともかかったレイス・レコード」という黒人音楽のチャートを掲載する。「レイス・レコード」とあるように、このチャートはあらかじめレコード会社が黒人コミュニティー向けにリリースしたレコードのランキングだが、その三年後に登場する「販売店でもっとも売れたレイス・レコード」というリストには次のような但し書きが付いている


次に記載するランキングは、顧客の大半がレイス・レコードを購入する販売店の中からビルボード誌が厳選した店舗でもっとも売れたリズム&ブルースのレコード、その週ごとの調査にもとづいている。


 つまり、ここでビルボード誌はレコード会社のマーケティング上のジャンル区分に止まらない独自の市場調査──「ビルボード誌が厳選した店舗」──を重視しているといえるのだ。もちろん、後述するようにこのランキングの手法も多くの問題を孕んでいたことが明らかになっている。しかし、ビルボード誌が一貫してレコード会社やミュージシャン側ではなく、リスナーあるいはそのカルチャーを受容するコミュニティーにもとづいてポピュラリティーを計測しようとしていたとひとまずまとめることはできるだろう。
 1949年、ビルボード誌は「レイス・レコード」という名称を改め、「リズム&ブルース」というジャンル名を採用する。一般的に、この名称を発案したのはジェリー・ウェクスラーだと言われている。アトランティック・レコードに入社する前にビルボード誌のレポーターを務めていたウェクスラーは次のように振り返る。

 レイス・レコードという名前はどことなく響きが悪かった。「レイス」はあまりにも「レイシスト」(差別主義者)という言葉に近かったからだろう。1949年に私の提案はビルボード誌に採用された。その音楽にふさわしいと思える名称を思いついたのだ──リズム&ブルース(10)


  翻って、カントリー・ミュージックのチャートは1944年1月8日号――「ハーレム・ヒット・パレード」の一年三ヶ月後――に初めて発表される。興味深いのは、そのチャートに「ジュークボックスでもっともかかったフォーク・レコード」とタイトルがついている点で、副題として「ヒルビリーズ、スピリチュアルズ、カウボーイ・ソングズなど」とサブジャンル名が続く。その四年後には黒人音楽チャートと同じように「販売店でもっとも売れたレコード」のランキングも加わるが、そこで説明されるランキングの手法もレイス・レコードと同じ文言である。すなわち、「顧客の大半がフォーク・レコードを購入する販売店の中からビルボード誌が厳選した店舗の週ごとの調査」をもとにランキングは作成されるのだ。
 さらにカントリー・ミュージックのチャートについて特筆すべきことは、そのジャンル名の変遷である。しばらく「フォーク・レコード」という名称で掲載されたランキングは1949年6月25日号から「フォーク(カントリー&ウェスタン)」と括弧が添えられるようになり、52年11月15日号には「カントリー&ウェスタン」へと移行する。1940年代末から50年代初頭にかけてチャートの名称が緩やかに変化したことは、本連載第一回のテイラー・スウィフトの稿で論じたジャンル名と社会的背景の関係をあらためて想起させる。カントリー・ミュージックというジャンル名そのものが第二次世界大戦後に成立したものだが、それはフォークという左翼的な響きを持つ言葉からの離反が大きな理由のひとつであった。戦後の保守的な雰囲気に後押しされるように非米活動委員会が活発化し、赤狩りの恐怖がアメリカ社会を覆うなか、「フォーク」はあまりにも政治的にラディカルなニュアンスを持ち過ぎてしまったのだ。

(10) Jerry Wexler and David Ritz, Rhythm and the Blues: A Life in American Music (New York: Alfred Knopf, 1993), 62.
 

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