荒内佑

第12回
(ア)シンメトリック・ビューティ

今、注目のバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、<日常>とそこに流れる音楽の話を綴る初めての連載が「webちくま」にて大好評、公開中です。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。


 いきなり手前の話で申し訳ないが、しかし地球上の全人類と同じく、自分の顔は左右非対称である。右目より左目が少し大きく、下顎が右側にずれていて、後天的なものだが子供の頃の怪我により、おでこの右上が若干の不毛地帯になっている(余談だが同じく怪我により後頭部に3ミリほどの円形ハゲがある。更に言えば右投げ左喰い、マルクスが好きだが名前は<右の人>である)。顔面に限らず身体全体も多かれ少なかれ誰もが歪んでいる。背骨の歪みが音楽をつくらせる、と言ったのはたしか細野晴臣さんだが、先天的にアシンメトリーな人類は身体の上下左右のズレを正そうとする。もちろん整体が心身ともに有用であると信じている、がしかし、である。


 昔の話、小学生と関わるバイトをしていた(ヒモ期間後に見つけた仕事である。第10回参照)。彼等彼女等が遊技場なんかで遊んでるのを(半分寝ながら)見守るのが主な業務な訳だが、ある時男子の集団が靴下を片方だけ脱いで遊んでいるのに気がついた。またある時、子供等は牛乳瓶のフタなんかで眼帯をつくるのを好むことを発見した。ほっこりした話で心外だが、とにかく彼等はアシンメトリーな状態に憧れているのだ。何か欠損している状態に美意識を感じているのは明らかだった。もちろんこれは主にアニメ(ドラマ、映画)の影響であるのは間違いない。エヴァでもガンダムでも、自分の思い出で言うならメカゴジラも、ストーリーが盛り上がり戦闘が激化すると必ず片腕がなくなる、片目が破壊される、片足が撃たれる。これをぼくは勝手に「欠損萌え」と呼んでいる。オタク文化や男子的なものに喩えが偏ってしまったが、コレは社会学やジェンダー論と密接な関係にあるだろう。が、話が煩雑になるのでそこは置いておく(というか東浩紀さん一派が既に論じているかも知れない)。ロボットものにおいてこのような場面が多いのは、生身の人間の手足や目がなくなるのはエグいから、という理由もあると思う。どうだろう。もちろんアニメや特撮に限らずヒューマンドラマでもこうした表現はある訳だが、この「欠損萌え」は一般的な感覚なんだろうか(伊達政宗とか。前述のように眼帯が一番手軽に欠損を擬態できる)。そこは分からないまま話を進めるが、興味深いのは物語のピークにおいて人工物であるシンメトリーなロボットが破壊されアシンメトリーな状態に変容することである。


 以下、大ネタバレである。こないだリドリー・スコットの新作『エイリアン:コヴェナント』を飛行機で観た(エヴァとかゴジラとかエイリアンとか、なんだかな……)。これって『ブレードランナー』の続編っていってもいいよね~と思ってたんだが、それとは別に気になったのはエイリアンとアンドロイドの造形についてである。今回エイリアンは新たに白くてツルっとしたやつと、故ギーガーのデザインによるお馴染みの黒いやつ、三葉虫みたいな昆虫型が登場する。本作の主人公であるアンドロイドはマイケル・ファスベンダーが演じている。シンメトリー/アシンメトリーの視点で見た時、人間の見た目をしたロボットであるアンドロイドは左右非対称である。当たり前だ。人間が演じているのだから。そして生物(クリーチャー)であるエイリアンのほうがよっぽどシンメトリーな造形をしている。しかし、具体的な描写はないが、アンドロイドは人間の皮を被ったロボット、つまり中身はシンメトリーである。そして彼は、話が出来すぎているが片手を「欠損」する。物語のクリシェとして欠損したロボット(この場合アンドロイド)は全て破壊されることはなく(話終わっちゃうからね)最終的にはどうにかこうにか勝利する、というのが定石である。では、コヴェナントではどうなるでしょう。ある意味、定石を踏んでいるがここが話の巧みな所である。少しぼかして書くならシンメトリー組の大勝利である。


 話を最初に戻そう。人間はシンメトリーとアシンメトリー、どちらを美しく思うだろう。仮にダ・ヴィンチの人体図における黄金比を美の基準としても、実際「シンメトリー 顔」なんかで検索してほしいが、左右対称の顔はかなり異様な印象を与える。それは人工物に近い。しかし、顔面をシンメトリー化するアプリがあるくらいで、我々は非対称を矯正しようとする。そして顔面をアプリと自力によって調整し、自撮りをし、日常的に社会に晒すことは個人の顔面すら変形させるだろう。これは皮肉ではない。だって、エイリアンの造形をぼくは美しいと思う。100年後の子供たちはもっとシンメトリーな顔つきをしている、というのは言い過ぎだろうか。その頃には美醜の感覚も変わっているかもしれない。エイリアンの未来においては、シンメトリーが生き残るのだから。

 

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