花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!
『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

 

■伊藤野枝の銅像を作れ

栗原 いつもながら、最初は緊張しますね。人がいっぱいいて、圧が強いですね。緊張をほぐすために、乾杯でもしましょうか。ああ、酒を飲む手が震える(笑)。

ブレイディ いま、福岡に帰省しているんですよ。向こうでも怒涛のようにイベントをやって、飲みに行って、酒量を減らせと息子に叱られて。

栗原 息子さんがしっかりしている(笑)。イギリスを出発する前に1回メールをくれたときも、「二日酔いで出発します」と書いてあって(笑)。こっちに来てからのメールでも、「二日酔いで頭が痛いです」とあったので、すげえ呑兵衛だなと思って。

ブレイディ あれは福岡に今いらっしゃる森元斎さんのせいですよ。

栗原 森さんは、最近、『アナキズム入門』(ちくま新書)を出したかたです。彼も面白いですよね。彼はめちゃくちゃ広い一軒家を借りてるんですが、そこでバーベキューをやってきたんですね。

ブレイディ そうなんですよ。バーベキューで、お酒の量がすごいんですよ。ビールなんかも50本ぐらいあったらしいですけど、あっという間になくなって。

栗原 すげえ羨ましいです(笑)。ぼくも行きたかったんですけど、そのあと長渕剛さんのライブがあって行かれず……。最近、長渕剛さんのファンクラブの会報とかに文章を書くようになって、ライブレポートをやるのに体力を整えておかなければと。

ブレイディ 長渕関係は特別な仕事なんですか?

栗原 そうですね~、自分の中では。

ブレイディ ここだけは、ちょっと私はついていけないところなんですけどね。私はUKロックだから。

栗原 話題をもどしますと、本当に福岡の人たちはすごくおもしろくて、森さんが面白いのが、彼はすごい貧乏人なんですよ。年収が去年は40万とか言っていて。でも、なぜか一軒家に住んでいる。どうやったのか聞いたら、不動産屋を通すと高いけど、彼は車で近所のばあちゃんちとかで空家を持っていそうなところをひたすら訪ね回って、「ここは空家だから、使っていいよ」みたいなことを言われて、めちゃくちゃ安く一軒家を貸してもらっている。大したものですよね。

ブレイディ 大したものですよね。ご近所でもたぶん人気者だと思うんですよ。バーベキューしてたら、近所の人が通って、「なんばしよっとね~?」と陽気に話しかけてくださって。森さんは、何かそういう力がありますよね。

栗原 ありますよね。しかも、大学非常勤講師って、本当はただのフリーターなんですけど、大学の先生ですからね。田舎だと近所の人から「先生」と言われるみたいで(笑)。「先生、どうぞ」って、野菜を持ってきてくれるみたいな。

ブレイディ 全然「先生」に見えませんよね、森さん(笑)。

栗原 そうですね。全然見えない。見た目、アニキ!! ですからね。彼を見るとアナキストの生き方がわかる気もしますね。ちょっと森君話がつづいちゃいますけど、彼はなかなか食っていけないから、今年は非常勤をやたらと増やしすぎてしまって、10コマとかやっているんですよね。

ブレイディ 働き過ぎて死ぬかもしれないとかいきなり言いだして。

栗原 死ぬかもしれないから、どうするのかと聞いたら、「体を鍛えればいいことがわかりました」って、ボクシングを始めて(笑)。無駄にボクシングの金を払ったりしていて、会うと、「見てください、この筋肉」って(笑)。

ブレイディ 結構、ヤッピーみたいになってない? みたいな、体鍛えているしね。森さんはもともと東京の人で、福岡に移住されているんですね。それから、山下陽光(ひかる)さんはもともと長崎の方ですが、今福岡に引っ越されて一軒家を借りて、そこで洋服をたくさん作っていらっしゃる。森さんちでバーベキューをやったときに山下さんがいらしていて、タバブックスから『バイトやめる学校』という本を出されているんですね。その山下さんが、今日私が着ている洋服を作ってくださったんです。こんなババアがワンピース着てどうするんだよって、いつもの私っぽくないんですけど……。

栗原 素敵ですよ。

ブレイディ アハハハ。今日のために作ってくださったので、「私、宣伝してきます」と言ってきたので、1回立って、後ろも見てもらわなきゃいけないんですよ(ひと回りする。会場から拍手)。関心をお持ちの方は、ぜひ、ネットで販売していらっしゃるので。「途中でやめる」というブランドなんですよね。だから、いきなりですが、今日のイベントの副題は、「花の命は途中でやめる」にします。担当編集者の井口さんまで山下さんデザインの服で、隠しテーマとして用意してきました。

栗原 ぼくもそうだと言いたいけど、ユニクロです(笑)。(註 あとでタバブックスの方に「途中でやめる」Tシャツをプレゼントされて着替えました)

著書を手に。

 

ブレイディ そんなわけで、いま福岡は結構面白い人が……。

栗原 熱いですよね。

ブレイディ 人口が増えているんですよね。東京から移住してくる人がものすごく多いということで、それこそ、私は伊藤野枝と同じ福岡の今宿の生まれですけど、今宿はすごく洒落た街になりかけていて……。

栗原 それはそれでイヤですね。クソみたいな田舎がちょっとよかったりするじゃないですか。

ブレイディ そう。海辺にオシャレっぽいカフェとか、しゃらくさい高いレストランとかね。

栗原 カフェができはじめたら、もうキケン!

ブレイディ ものすごい危険。バーベキューをするところもできていますけど、ちょっとレトロ調のアメリカっぽいキャラバンが何台も並べられてて、周りに椅子だのテーブルだのを並べて、すごい高そうなバーベキューを焼くところがあるんですよ。オシャレな家族が楽しげに食べている。

栗原 オシャレ家族がやってくる。

ブレイディ そう、今宿をオシャレ家族が来る街にしているんですよ。

栗原 そんなものがなくても、どこでも焼けるし、安い肉を焼けばいいんですよ。

ブレイディ ああいうのを作るぐらいだったら、伊藤野枝の銅像の一つも作れというね。駅前にガーンと建てるべきだと。

栗原 誰かに叩き壊されそうですね(笑)。

ブレイディ 「祟りじゃ~」って。

栗原 伊藤野枝のお墓は、何回も破壊されてますしね。

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター・コラムニスト。一九六五年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、一九九六年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。二〇一七年、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で第十六回新潮ドキュメント賞受賞。二〇一八年、同作で第二回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補。二〇一九年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第 七十三回毎日出版文化賞特別賞受賞、第二回 Yahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、第七回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)受賞。 著書は他に、『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)、『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたから のポリティカル・レポート』(岩波書店)、『 THIS IS JAPAN ――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『労働者階級の反乱――地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)、『女たちのテロル』(岩波書店)などがある

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

関連書籍

ブレイディ みかこ

花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION (ちくま文庫)

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康, 栗原

死してなお踊れ: 一遍上人伝

河出書房新社

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