花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

■物を書くことと、親に怒られ問題

栗原 さて、そろそろ本の話を。冒頭、おもしろいのは、ブレイディさんがイギリスに出発しようとしたとき、お父さんが「花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき」って書いた紙キレをわたしてきた、とあります。

ブレイディ うちの親父、暗いでしょう。何を考えているんだろうと思って。

栗原 いやあ、カッコいいじゃないですか。そんな詩を子供にわたすって……。意図とか、聞いたことはありますか。

ブレイディ いや、そこはやっぱり、面と向かっては聞けないじゃないですか。たぶん、私が推測するに、あれぐらいしか知らなかったんじゃないかなと思うんですよ。結局、それをパッと捨ててイギリスに渡りましたけど、考えてみれば幸先良くないですよね。

栗原 「苦しきことのみ多かりき」。

ブレイディ そう。命が短いとか、苦しいことばっかりとか、ろくな文句じゃない。まさにノー・フューチャーというか、「明日はない」というね。

栗原 その意味では、娘をわかっているのかもしれないですね。

ブレイディ 酒ばっかり飲んでいるし、長生きはしないだろうみたいなことかもしれないですけどね。でも、うちの親父、毎晩飲むんですよ。晩酌とか当たり前でしょう。

栗原 いろいろ出てきますよね。吐いていて、洗面器の桶をお母さんに縄で括りつけられて、ずっと吐いているとか(笑)。

ブレイディ うちの親は私がこういう本を出しているとか知らないけど、読んだら叱られるかもしれないですね。

栗原 たぶん、そうですね。僕は最近、かの女と暮らしはじめたんですけど、ちょっと前までは実家暮らしだったから、書いた文章はだいたい家に送られてくるんですよね。それで、親のことだったり、働かないとか、クソだとか、死ねとかばっかり書いているので、親は、読むと怒りますよね。

ブレイディ 読んでいるんだ! それ、めちゃくちゃ書きにくいでしょう。

栗原 最初は書きにくかったですけど、だんだん怒られるのが、いいかもしれないって。なんか、マゾっ気があるんですかね(笑)。あと、本が届いたら、タイトルが『村に火をつけ、白痴になれ』とか……。

ブレイディ 『はたらかないで、たらふく食べたい』とかね。

栗原 親は、5冊ずつぐらい買ってくれるんですよ。でも、近所の人にわたせないっていってて(笑)。そういうふうに親にディスられると、「俺はいい文章を書いたな」とか、だんだん思うようになっていきましたね。

ブレイディ まともに親御さんと、そういう、文筆業についてのお話をします?

栗原 僕はしてきたほうですね。それこそ20代後半から、マジで働いていないですから。5~6年、ほんとにニートみたいな感じでずっと部屋に引きこもっているみたいな時期とかあったので、家に置いてもらうには、どうしても親と交渉するしかないですからね。

ブレイディ 例えば、自分がこういうふうに物を書くのが好きなんだとか、書いていきたいんだとか、そういうことも親に話したりした?

栗原 たまに、しましたね。

ブレイディ するんだ、へえ~。恥ずかしくない?

栗原 超恥ずかしいです(笑)。

ブレイディ でも、やっぱり、それをしてきたのか……。

栗原 あっ、結構、がんばっているように見えてきましたか?

ブレイディ がんばっているよね。私はその点イギリスにいるから親とは頻繁に会わないじゃないですか。だから、私が何をしているかとか全く知らない。今年かな、親戚から新聞が送られてきて私が載っていたとかって。どうしたんだと。新聞に載っているというから、何か悪いことをしたんじゃないかと思ったらしくて。

栗原 事件を起こしたのかと(笑)。

ブレイディ そうそう。それで、こうやって、「東京に仕事で行くから、息子の面倒をみていて」と出てきちゃうので、ちょっといまバレかけているんですけど、それまでは全然わかっていなかったし、物を書くということを話せるようなタイプの親でもないので。ブロック塀の築き方とか、そういう、ガテン系のごっついことだったら話せるけど。

栗原 でも、そっちのほうがいい気もしますけどね。

ブレイディ 楽ですよね。だから、栗原さんは意外と闘っているなという気がしてきた。

栗原 もちろん、こっちもひよったりしますけどね。父親とか、もともと都庁の労政事務所というところで働いていて、労働相談とかやる人なんですよ。だから、労働運動とか社会正義のためにとかだったら、好きなんですよ。

ブレイディ ああ、じゃあ、いいよね。

栗原 でも、アナキストだと、そういう正義もクソだみたいなことを言うじゃないですか。働かなくていい、までいきますから。そこまでいくと、父親もわが子が変なことを言っているぞ、みたいなるんですけど(笑)。ただ、父親が母親を説得するために、俺の息子はそういうことをやっているんだ、みたいなことを言うから、たまにひよって、そこに乗っかったりしますけどね。「そうなんですよ、お父さん」みたいに。

ブレイディ ああ、うまくやりそうだよね、その辺はね。そうか、もともと労働問題とか、お父さんがやっていたから、結構そういうのは昔から興味があったというか。

栗原 そうですね。大学院に行くとき、「大杉栄の労働運動の理論を勉強します」とか言うと、父親からしたら「俺の影響か」みたいになりますから。

ブレイディ 嬉しい、みたいな。

栗原 たぶん、そうだったんじゃないかな。

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター、コラムニスト。2007年から保育士。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』(以上、Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(太田出版)、『子供たちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)がある。

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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