花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

■労働問題とアナキスト

ブレイディ なるほどね~。労働運動って、なかなか日本の左派というか、社会運動をする人たちに近年見過ごされてきたというか。意外と、例えば経済問題とか労働問題とかというと、興味を持っているのはアナキスト界隈なんだよね。去年、本を書くために日本に取材に来てそれに気づいたんだけど。

栗原 そうですね。大正時代でも、ガンガン労働運動をやってたのはアナキストですしね。考えてみれば、戦後1950年代、60年代は労働運動が強かったけど、僕らのころになると昔の人がやるものみたいになっちゃってて、でも2000年代にはいって、フリーターの労働運動が必要だというときは、アナキストが率先してやろうよって言っていたわけですよね。そういう意味では、なじみが深いのかもしれないですね。

ブレイディ なんか、例えばイギリスでは、左派が反戦とかもやるけど、やっぱりお金の問題や労働問題でずっとおもに闘ってきた。今そういう本を書いていますけど、イギリスでは100年前の歴史を振り返っても……。

栗原 いいですね、100年史って。

ブレイディ イギリスの労働者階級の100年史は既にみすず書房さんから『ザ・ピープル』という、オックスフォードの歴史学者のセリーナ・トッドという人が書いた本が出ていますけど、ものすごく分厚いし、お高いんですよ。

栗原 なかなか、お金がなかったりすると読めないみたいな。

ブレイディ 一番読んでくれるといいなと思う層が読まないのは残念なので、ちょっとそれをダイジェスト版にして、それに最近の政治状況に関するコラムや他の翻訳されてない学者さんの本の情報とかをいろいろつけ加えた、労働者階級に関する本が10月に出ます。それを今書いていて、振り返っても、よく栗原さんと話すことだけど、やっぱり日本の労働運動って、どうしても本当に政府をビビらす感じにはならない。

栗原 ならないんですよね。

 

■「召使い」大暴れ

ブレイディ でしょう? そこが100年前から遡ると、イギリスって、召使い問題というのがあったらしいんですよ。

栗原 はいはいはい。

ブレイディ 昔の本当に貧乏な階級の女の子たち、労働者階級の子たちの一番やっていた仕事というのはメイド、つまり召使いで。

栗原 半分奴隷みたいなものですよね。

ブレイディ そう、お金持ちの家に住み込みだから、もうブラックもブラックというか、起きているあいだはずっと仕事をしなきゃいけないわけですよね。

栗原 主人が起きたら、起きなきゃいけない。

ブレイディ そうそう、寝ていられないわけですよ。9時~5時で終わるとかいうのはないから。しかも、女主人が厳格だったりとかすると、女の子も変な髪型をしていると注意されたりした。ところが、1910年代ぐらいを境目に、一気に若いメイドたちが真っ赤な口紅を塗って、髪の毛を短く切って、そのうちフラッパーと呼ばれて、女主人の言うことを聞かない不良少女扱いされた。。女性参政権問題で戦ったサフラジェットも出てきた時代ですけど、召使いたちがそんなふうにするものだから、「こんなフラッパーたちに選挙権を与えたら、えらいことになるぞ」と保守の新聞が書き始めたりとかして。そうなってくると、お金持ち階級の人にしてみれば、まさにそれが階級闘争の狼煙じゃないけど、いままで言うことを聞いてきた「奴隷」たちが急に……。

栗原 反乱を起こし始めたと。

ブレイディ それが家庭の中にいるから、すごく身近に感じられてビビったというか。

栗原 すげえ身近な人たちがやるわけですからね。

ブレイディ そう。それをすごく感じさせたのが、その時代のメイドだったらしいです。ちょうどいま私、岩波の『図書』の連載で金子文子のことを書いているんですけど、金子文子は東京に出てきてから女中奉公に出ているんだけど、すごく真面目に働いているから、やっぱあの時代、日本にはまだ……

栗原 女中文化が強いですよね。

ブレイディ 女中が抵抗して夜中にボーイフレンドと遊びたいから出ていくとか、主人に叱られても「知るか」って反抗する女の子たちが同時多発的にたくさん出てこなかったところに、日本と英国の差を感じるというか。

栗原 伊藤野枝はちょっと書いてますよね。女中に象徴されるように、労働者は完全に奴隷化されているから、その奴隷がいかに暴れるかが大事なんだと。「奴隷根性を引っこ抜け」という文脈で言ってます。とはいえ大杉んちにも女中いたんじゃねえかってのもありますけどね。ただ、金がなさすぎて芋しか食わせないから、女中が逃げ出したりするんですけど(笑)。でも、逃げ出すというのも一つの抵抗の手段ですよね。

ブレイディ そうですね。イギリスでは、女中が抵抗したあと、1926年に大きなゼネラルストライキがあった。いまだにうちの連れ合いとか労働者階級は言うんですよ。「1926年のゼネラルストライキを見ろ」と。全人口の4%だかが働かなくなったけど、それは全人口だから女性とか子供とか上流階級とかも人口には含まれているから、ピュアな労働者の仕事をしている層では、相当な人数が働かなくなったみたいなんですよ。そうなると困るから、政府がボランティアを募集して、ミドルクラスの人たちが車両を運転したりして何日かしのいだという。

栗原 そういう第2組合的な作り方をしていく。

ブレイディ それがまた階級闘争に発展していくんだけど、そこまで政府をビビらせるというか、社会全体に実際に影響を与えるぐらい団結するというのは、すごくない?

栗原 すごいですよね。日本だとあまりできていないんでしょうね。

ブレイディ ストライキとか、英国はマジでやるじゃないですか。

栗原 怖いですからね。しかも、階級闘争がおこりはじめるときは交渉のルートがないわけですよね。組合があるのが当たり前みたいになってくると、経営者と労働組合トップで交渉して、「ここが問題だから、変えましょう」というのがあるでしょうけど、最初の女中さんたちが蜂起するときは全くそういうのがない。突然立ち上がって、主人の頭かち割るじゃないですけどね……。そういう動きを一斉にみせはじめたら、そりゃ怖い。

ブレイディ ビックリしますよね。でも、日本はなかなかそんなすごい人数では……。

栗原 そうですね、なかなか……。もちろん、労働運動がおこりはじめたころ、大正時代は同じなんですよね。イギリスの労働運動もラッダイト(註 1811年から1817年頃、イギリス中・北部の織物工業地帯に起こった機械破壊運動)からはじまっていると思いますが、100年前の日本の労働運動もラッダイトみたいなものなんですよね。アナキストが関わっていた労働運動だけじゃなくて、実は、経営者と一緒にやりましょうみたいな労使協調型の人たちでも、いざストライキを起こすと、とりあえず会社の機械を叩き壊しましょうとか、本当に会社に火をつけて燃やしちゃうとか。「喧嘩上等」すよね。殴り合いの喧嘩をしてでも生産を止めるぞみたいなことをやっていたって言われているので、昔のラッダイトっぽいのが労働運動の根っこにあるんですよね。そういうのが1万人規模とかで起こると、やっぱり怖い。

ブレイディ そういう、怖くて、「こいつらいきなり何をするかわからない」みたいな不気味な感じ、が日本の労働運動になくなっちゃったのはどうしてでしょうね。

栗原 わるい意味で、みんな賢くなっちゃったというか。正式な闘いかたができちゃったんでしょうね。たしかに、そのほうが人は集めやすいですからね。こうやって相手に圧力をかければ、お金がちょっと手に入りますよ、そのためには、いまは我慢して、ここで一緒に組織を大きくしていきましょう、とか言われると説得力がでてきちゃうんでしょうね。

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター、コラムニスト。2007年から保育士。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』(以上、Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(太田出版)、『子供たちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)がある。

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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