花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

■自分の周りは野枝ばかり

栗原 うっ、そうですね(笑)。まあ、行ったら行ったで、もちろん楽しいんでしょうけど。

 話題を変えて、もういちど本の内容にもどしますが、すげえ面白いと思ったのが、さっきブレイディさんが飲みまくっているという話をしましたけど、この本、『花の命はノー・フューチャー』はその点でもぶっ飛んでいるんですよね。異様に「飲んでる率」が高い。それこそヨーロッパだと、パブやバーで飲んでいる連中が、労働運動を起こしていくみたいな文化もありますけど、今回読み返していていいなと思ったのが、ゲイの友人と飲んでいるとき、ブレイディさんがどうしてもオシッコしたいんだけど、ゲイの友達がひたすらしゃべりたいことをしゃべっていて、いかしてくれない。話をとめようとすると、「なぜ言いたいことを言わせてくれないんだ、このやろう」とまたしゃべりはじめたりして。でもそれでようやく、オシッコして帰ってきたとき、ブレイディさんに気づきがあるんですよね。そうだ、それでいいんだ、大事なのは、俺、俺、俺、俺、俺主義でしたと。なんか、その言葉がパッと出てきたときに、バーで飲んだくれるというのはいいものだなと。

ブレイディ いいことですよね~。すごいバカになれるというね。アナーキーな瞬間がありますよね。

栗原 それをクリスマスにやっているんですよね(笑)。

ブレイディ アハハハ。聖なる日に何やってんだみたいな。この本の解説で栗原さんが書いてくださっていてふと気づいたんですけど、まえがきで、自分で四十路と書いているんだけど、よく考えたら、これは30代終わりぐらいに書いた本なんですよ。

栗原 そうそう、今の僕と同い年ぐらいのときなんですよね。

ブレイディ そうなんですよ。だから、去年、ラバンデリアでやったときに、私は栗原さんのいまの文章を読んでいると、「いいな~」って。私も昔はあんなことをやっていたから、すごく羨ましいなと、私ももう1回やりたいなと思う、みたいなことを言っていたじゃないですか。あれは、まさにこの辺の……

栗原 この時期なんですよね。30代後半のブレイディさん。なんか波長が完全に一緒だとか思いながら読んでいました……。

ブレイディ 似ているのかもしれないですね。だから、解説はまさにピッタリだったし、書いてくれたところも、シングルマザーが結構出てくるじゃないですか。シングルマザーは子だくさんで、お父さんがみんな違うとかいうことが、イギリスの、私の近所ではけっこう普通に展開されている。

 栗原さんの『村に火をつけ、白痴になれ』を担当された伝説の編集者、「岩波書店の猛獣使い」と言われている、私の担当者でもあるんですけど、その方が送ってくれて、読んだんですが、日本では女性の方々がたくさん書評なさっていて、「こういう生き方ができたらいい」「スカッとした」みたいな目線で評されていることが多かったですけど、「けど私の周りは伊藤野枝だらけだな~」って、本当に思ったんですよ。

栗原 ブレイディさんの友達は全員野枝だったという。

ブレイディ それがわりと当たり前のことになっているから。でも、日本の女性にこれがウケたというのは、何かやっぱりそこにあるんだろうねって。

栗原 そうですね。「解説」でもちょっと触れたのですが、普通に子持ちのシングルマザーが恋愛して、別の子供を連れたまま結婚したり、恋愛したり……。それでまた違う男の子供が増えていくの、なんの悪いことでもないですからね……。日本だと、そういうことが少なくて、子持ちになると「母」の役割というのが急に出てしまって、子供を育てるためには、恋愛はタブー、みたいな。そのへん大正時代から変わっていないですよね。

ブレイディ 私みたいに、そういうのにばかり囲まれていると、例えば、『花の命』にも書いているけど、隣の息子とかはすごくやっぱり……。

栗原 隣の息子はヤバいっすよ。

ブレイディ 母親が何回も連れ子を連れて結婚したり別れたりを繰り返していて、またその相手の男性も何度も違う女性たちとの連れ子がいたりするから、バーベキューとかやって家族関係者がわっと集まると、どの子が血が繋がってるのか、どの子が繋がってないのかわからなくて、わからないからとりあえず手は出さないほうがいいとか(笑)。

栗原 近親相姦だから(笑)。

ブレイディ それはさすがにヤバいから身内には手を出さないようにしているとか、ジョークでそういうことを言うんですけどね。そういうのが当たり前の世界に暮らしていると、あまりにも、子供がいるのに何回も何回も恋愛してやっていると、逆にイギリスにいると、いい加減落ち着けよという気になってくるわけですよ。「スカッとした」生き方をしていると、それなりに裏側にはめんどくさいことがてんこ盛りになるしね。でも、日本に来ると、逆にもうちょっと「スカッとやれよ」と思う。

栗原 もうちょっとやらかせよと。

ブレイディ そう。こっちに帰ってくると、もうちょっとアナーキーになれみたいな。だから、急に日本に帰ってくると私はアナキストみたいになるんじゃないかな。本当に思うけど、イギリスにいると私、結構普通に「レフトなやつ」って言われるけど、こっちに帰ってくると……

栗原 アナキストですね。日本だと、左派がもうちょっと道徳的なのかもしれないですね。

ブレイディ ああ……。まさにその通りだね。でも、別に私が非道徳的というのじゃ……まあ、ここで自分を弁護しなくてもいいと思うけど、イギリスだと、それが普通にまかり通るけど、日本では「それはアナーキーだ!」になっちゃうことがたくさんあるので。

栗原 そういうのを聞いてみると、大杉とか野枝が言っていることは、世界で言うと常識なのかもしれないです。

ブレイディ いまのイギリスでは常識でしょうね。バスの上で栗原さんの解説を読んでいたときに、前を見たらすごく若そうなお母さんがすごいセクシー系の格好をして、3人ぐらい人種が明らかに違うなという子供を連れていたら、お父さんが違うなと思うわけじゃないですか。そうしたら、ここにも伊藤野枝がいるな、と。

栗原 いたるところに。

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター、コラムニスト。2007年から保育士。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』(以上、Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(太田出版)、『子供たちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)がある。

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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