花の命はノー・フューチャー

未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。前編、後編のうちの前編です。抱腹絶倒な対談から、国の借金に束縛されない、反緊縮の未来の可能性が見えてきます。

■火をつける 万引きする

ブレイディ もう一つ、解説で突いてくれたのが、闇経済?

栗原 僕は、その話が一番面白かったです。

ブレイディ だって、「万引きしろ」と堂々と言う人だもんね。

栗原 はい、最近、「万引き、いいっすよね」みたいなことばかり言っていて(笑)。

ブレイディ でも、例えば、ロンドン暴動が起きたときに、最初は人種問題が発端だったけれども、あの子たちは何をやったかというと、結局お店とかに入って強奪してみたいな……。

栗原 バンバン盗っていますよね。しかも、監視カメラを見ながら、「イェーイッ」とか言って(笑)。

ブレイディ そうそう。高いスニーカーだとか電化製品とかごっそり盗んで、火をつけて暴れて、それこそ「村を火をつけ」じゃないけど、「クロイドンに火をつけ、白痴になれ」みたいなことをやったんだけど、あれなんか起きたときは、最初はイデオロギー、人種差別反対みたいなところから始まったのに、最後は泥棒みたいになって、道義がなかったと言われたけど、今いろいろな世界で起きていることを考えたら、本当に反・新自由主義というか、「俺らにもその繁栄に参加させろ」みたいな、「なんで俺らは、この靴を買えないんだ」みたいな……。

栗原 普通にその靴履いていてもいいだろうと。

 

■借りたものは返すな 

ブレイディ そういう見方ができるじゃないですか。私は、『花の命は…』みたいにふざけた本を書いていますが、けっこう真面目な仕事もしていて、『ヨーロッパ・コーリング』は、新聞記事の引用が多い本で、「反緊縮」ということを強く言っています。「反緊縮」とアナキズムはすごく繋がるんですよ。結局、借金問題というか、負債なんか返さなくてもいいんじゃないかという話です。借金をしたら返さなきゃいけないという強固な道徳がありますが、借金って単なるディールというか、取り決めだから、カネが神聖なものではないように、負債だって罪でもなんでもない。だから、まるで罪を償うように死ぬ気になって返す必要は……

栗原 返せなかったら、しようがないですからね。借りたものは返せない。

ブレイディ 栗原さんも、それを強く訴えてらっしゃいますよね。ちょうど東京に来る飛行機の中で、岩波書店から出ている『経済的徴兵制をぶっ潰せ!』というブックレットを読んでいたのですが、この中で栗原さんが、戦争になっても「圧倒的なバカは死なない」と仰ってるのがすごく印象的だった。

栗原 そうそう。トルストイの『イワンの馬鹿』にふれてそんな話をしました。みんなカネのためにとかいって戦争をやっちゃったりするけど、イワンはバカすぎて貨幣が何なのかもわからない。悪魔が欲をもたせようと思って、金貨をくれたりするんですけど、「うわあ、ピカピカしてらあ、オモチャだ~」と言って、子どもたちに配りまくるみたいな。

ブレイディ このブックレットでも「圧倒的なバカになれ」と栗原さんは訴えていらっしゃるのですが、確かにそれがアナキズムだなと思いました。

 

■借金背負わされる未来はノー・フューチャー!

栗原 圧倒的なバカからつなげて、もう一回、窃盗の話に戻します。窃盗、だいじ(笑)。ロンドン暴動でガンガン人が物を盗んでいくときに、ブレイディさんも新自由主義との闘いだと言っていましたが、本当にそうだと思います。いまの世の中は、お金で、支払能力で、人の価値が量られてしまう。だいたいお金がない人間は、それだけでクズ呼ばわりされているわけですが、ロンドン暴動でお金を払わずに、直接、物を奪っていくのって、案外、そこに対するアンチなんですよね。そういう世界自体がクソなんだと言って、それをぶっ壊していく。金を稼ぐことが賢いことだ言われているとしたら、それ自体を無効化していくみたいなことです。

 そうやって、人の体が支払い能力をこえていってしまう。あれ、お金ってなんでしたっけ、みたいに、バカになっていくのが窃盗の意味なのかなと。お金を稼げなきゃクズだというのが、いまの道徳というか、負い目みたいになっているんだとしたら、それを取っ払ってやろうってことですよね。

 これ、さっきの借金の話ともつながっていて。僕は大学院の頃、奨学金を借りていて、借金が635万円あります。借金って道徳ですからね。借りたものを返さなかったら、マジでクズだって思わされる。だから、死んでも返せと。一度借りたら、返すために死んでも働かなきゃいけない。借金ってなにかというと、未来をつくりだすものなんですよね。究極の負い目を背負わせて、ひとを何十年もはたらかせる。そういう意味での未来です。

 大学生だったら、奨学金を借りると、それを返すために勉強しなきゃいけない、じゃあ、就活のための勉強をしましょう、がんばりましょう、いい企業に就職しましょう。企業に入ったら、絶対クビにならないように、すげえブラックな会社でも我慢してせっせと働かなきゃいけないみたいな。そういう未来が20年、30年と……。

 だから、大事なのはやっぱり万引きです。負い目を取っ払う。万引きの心を持つっていうのかな。圧倒的バカになっていくというか。かっぱらってでも、金を払わなくても、人は勉強しますからね。金を払わなくても、生きていく手段があったりもするし。

 いましゃべりながら、なんかカッコいい言葉はないかなと考えていたんですけど、こんな感じでどうでしょう? 借金を背負うのが未来ならば、そんな未来はいらない。未来をふみたおせ。ノー・フューチャー。うん、いい言葉ですね。

 

■反緊縮と「借金返すな」

ブレイディ 反緊縮というのは国の負債の問題じゃないですか。だから、借金を返さなくてもいいんじゃないか、いわゆる欧州の反緊縮派とかが言っているのはそういうことですよね。結局、緊縮財政とかいうのは財政均衡を目指す政策ですから、国の赤字をなくすために、財政支出を削っていかないといけないので、下々の暮らしがものすごく辛くなってというのが、『子どもたちの階級闘争』で書いている話です。そこまでして借金を返さねばならないという思い込みというか、道徳という名の脅迫概念は、個人の借金と全く繋がっているというか、同じなんですよね。

 だから、「借金を返すな」と、イギリスの反緊縮派の主張はリンクしています。イギリスの反緊縮派はアナキストが多い。だってグレーバー自体がそうだし。グレーバーも結局、『負債論』でチャラにしろと言ってますよね。

栗原 チャラにするか、逆にもう何千兆円とか借りているのなら、返さなくてもいいんじゃないですかみたいな。

ブレイディ 借り続けろという話ですよね。

栗原 意味わかんないですから、何千億兆円とか。もらったにひとしい。

ブレイディ そうそう、そこまで来たらね、ほんとに意味わかんないから、そんなわけのわからないものを減らすことに死力を尽くすよりも、実際に生きている人の生命や暮らしを大事にしろという話ですよね。

 私も栗原さんと借金を返すなというところですごく繋がる(笑)。

 

■奨学金、赤字のレトリック

栗原 ぼくも個人の問題が大きな問題とダイレクトにつながっているなと思ったのが、さっきの奨学金問題で。2000年代末から、日本学生支援機構が取り立てを強化していて、たとえば、卒業して3ヵ月返せなかったら、個人情報をブラックリスト化して銀行に流したりする。こりゃひどいと思って、友だちと支援機構にワーッと行ったときがあったんですけど、そのとき支援機構の人が言っていたのが、「これは教育的配慮のもとにやっているんです」と(笑)。

 で、「教育的配慮って何なんですか」ってきくと、返答はなかったんですけど、あとで思ったのは、本当に借金教育をほどこすのが、いまの教育なんだろうと。大学の四年間かけて、借りたものは返せってまなばせる。特にいい仕事もないけれど、それでも我慢して、働いて返せよ、それがあなたの未来ですからねと。大学生は人数が多いですからね。そういう教育をほどこすのが未来の労働力をつくることになる、経済をつくることになるって考えられている。

 これを国の話にしてみると、ほんとは何千兆円の国の借金とかって、もうぼくらには関係ないじゃないですか。つかったのは政治家だし。だけど返済が滞ると国が滅ぶとかいわれると、みんなガーンとショックを受けて、思考停止してしまう。借りたものは返さなきゃいけないっていう道徳がパーンと出てきちゃう。で、税金が上がる。けっきょく返すのはウチらみたいな。

 もうすこしちっちゃいレベルでも、会社も一緒ですよね。いまだとコーポレートガバナンスとかいって、株主、債権者に黒字のデータをみせることが大事になっている。だから会社が赤字になると、ただクビを切るんですよね。会社の状態は変わってなくても、黒字になればいい。なにより借金をなくすのが最優先と。しかも切られるほうも、「赤字だから」とか言われると、しようがないかなって思わされるわけです。

 そういう、「赤字だからしかたないよね」っていう感覚は、個人のレベルから植えつけられていて、国もそうだし、会社もそうみたいな。だから大学の奨学金で「借りたものは返せ、それあたりまえ」みたいに教育されるのって、すげえデカいのかなと。

ブレイディ 5月に、緊縮とか経済の問題で、岸政彦さんと松尾匡さんと3人で鼎談をしたときに、岸さんがおっしゃっていたのは、インターネットか何かで現在の国の財政赤字額が出るサイトを政府がやっていたらしいんです。現在の国の借金額はこれです、1人頭いくらです、みたいな。私はそれを見たことがないから、「え~っ、そんなのあったんですか」と驚いていたんですけど、まさにそれは「今、国はこれだけ借金があるんですよ。返さなきゃいけない。ものすごく大変ですよ。だからみんなでがんばって返しましょう」という脅しですよね。それって結局、人を黙らせて、「がんばっておとなしく働け」と。

栗原 データって、そういう力がありますよね。見せつけられると、なにがなんだか意味がわからなくなって、「ガーン!!!」みたいになっちゃう(笑)。自分がデータになっちゃうのかもしれない(笑)。

ブレイディ だからたぶん全部繋がっているんですよね。大学のことも、企業のことも、文化的に「借金があります、大変です」の脅迫と道徳的圧力で統治する、みたいな。それは日本だけじゃなくて、欧州でもそうで、EU、というかドイツが緊縮志向で、EU加盟国はみんな借金減らせよ、という安定・成長協定を作ってて、もし財政赤字を減らせなかったら介入します、制裁かけます、という、まさに借金している国を有罪にしている協定。これなんかまさに「おとなしくしろよ」という話で、そういう上から圧迫してくる抑圧に抗うような運動が反緊縮だったりする。

栗原 ギリシャとか、やりまくっていましたからね。

ブレイディ そうなんですよね。あそこも、ヤニス・バルファキスといって、スキンヘッドで眼光鋭いオッチャンいたでしょう。ギリシャが追い込みかけられたときに、EUとの交渉にあたってた元財務大臣ね。あの人は、いま、欧州全体で緊縮をやめさせようとする反緊縮組織をつくっていて、いろいろな文化人や政治家がアドバイザリーボードとして名前を連ねています。でも、こうやって話していると、緊縮って全然欧州だけのことじゃなくて、マインドも含めると、まさに日本とかもほんとに入り込んで……。

栗原 完全に異常ですよね。

ブレイディ 私の友達でイギリスでアナキスト系の方は、最近、緊縮財政の福祉締めつけで失業保険を切られましたから仕方なく就職して働いていますけど、彼がよく言っていたのは、「だいたい人の金を集めておいて、財政黒字を目指すとか、国の分際で貯金をするなんてどういう了見だ」って(笑)。「借金してでも、俺たちのために使え」と怒ってましたけどね。

栗原 江戸時代、徳川吉宗が米の貯金だ、上米の制とか言っていましたけどね(笑)。実は、農民から米をぶんどっているだけっていう(笑)。そもそも国が金を使うなら、借金するのは当たり前ですし。

ブレイディ そういうことなんですよね。けど、そういうマインドは、なかなか日本では育ちにくそう。

栗原 おっ、そろそろいい時間ですね。とりあえず、借金は返さなくていいということで、前半を終えましょう(笑)。

               (下北沢B&Bにて 2017年8月24日(木))

後編は10月6日(金)の更新予定です。

2017年9月29日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター、コラムニスト。2007年から保育士。1965年福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』(以上、Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本』(太田出版)、『子供たちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)がある。

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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