花の命はノー・フューチャー

後編 未来をふみたおせ!

『花の命はNO FUTURE――DELUXE EDITION』刊行記念対談

後編です。今回は、アナーキーな愛で、あなたの心に火を付けます。 『花の命はノー・フューチャーーーDELUXE EDITION』(ブレイディみかこ著、ちくま文庫、2017年6月)の刊行を記念し、ブレイディさんに政治学者の栗原康さんと対談していただきました。8月24日下北沢のB&Bにて。

 

■一丸となって、バラバラに生きる

──そろそろQ&Aにいきたいと思います。

質問者 本を読んだりツイッターを見たりしていて、左翼は思想が潔癖すぎてほかの人と連帯しにくそうだなと思うのですが、じゃあ、アナキズムの立場から、どうやって人と連帯をしていくのか、具体的なお考えがあればお教えください。

栗原 基本的に、アナキストで、人と一緒にやろうというときに、かっちりと組織をつくるってのは難しいですよね。もちろん、アナキストでも「無政府〇〇党をつくりましょう」という人もいるんですよね。でも、そうなるとちょっと違う発想になっちゃいますからね。思想自体は国家に従わないけれども、その思想に従う団体をつくりましょうとなると、アナキズムじゃなくなってしまう。

 じゃあ、大杉栄や伊藤野枝が何をやろうとしていたのかというと、いま、「行動によるプロパガンダ」っていうと、テロを意味するようになってしまっていますが、ほんとは、今の世界とはちがう生き方を自分たちが実際にやってみせるとか、あるいは、今の世界にはしたがわねえぞっていうのを、暴動やデモで見せつけたりする。「それでいいんだよ」っていうのを煽っていこうとするんですね。ひとの心に火をつける。それが組織論じゃない、アナキズムのひとの惹きつけかたなのかなと。

 以前B&Bで松本哉さんとトークイベントをやらせてもらいましたが、彼はもちろんアナキストは名乗りません。普通にノンセクトって言うと思いますが、彼が面白いのは、いろいろな人を惹きつけますよね。たぶん彼がやっていることも自分が動くことで人を煽るということだと思います。とにかく、これは面白いだろうとおもったら、世間一般ではクズだって言われていることでも、とりあえずやってみようかと。変なデモをやってみない? 変なバーを作ってみない? そういうことをやっていくうちに、何かわからないけど面白そうだからやってみようかなという人が続々と集まってきたんだと思うんですね。そういうところは、すごく参考になると思っています。

ブレイディ 私は、自分の交友関係を見てもすごく幅広いと我ながら思います。節操がないともいえるんですが(笑)。でも、狭い一つのサークルにこだわっていないし、言い古された言葉ですが、イデオロギーはいろいろもちろんあるけど、イデオロギーって人間性に出ていないとダメだと思うんですね。私はそういうのが出ている人を信じるので、そういう人たちなら付き合っていきたいと思うし、私が思うアナキズムというのは、トップダウンじゃなくて、下からいこうよという話なんですよ。いつも「下から上に」「ミクロからマクロに」みたいなことをずっと意識しているから、そういう部分で同じような考え方なら細かいことはあんまり言いません(笑)。細かく分裂していけばいくらでも分裂はできるし、分裂した同士で対立していくのもいいですけど……。

栗原 対立して、「自分たちだけが正しい」っていうと、それで、「やった感」があるんでしょうね。

ブレイディ そうなんですよ。日本ってすごくそれが激しいですよね。小さな差異は気にしないで何かあったときにはみんなで一緒になろうよと言うわりには、一番そういうことを言いだしている人が一緒になりたくないという感じがありますよね。まだイギリスのほうが大らかな部分がある。アナキストが反緊縮にいっているけど、反緊縮というのも、「大きな政府で」とか言っちゃってるわけだから、本当は、アナキスト的立場からすれば、かなり矛盾があるはず(笑)。でも、例えば、私が『子どもたちの階級闘争』で書いた無職者支援センターでは、アナキストと言われる人たちがたくさん来ていたんですね。失業保険や、生活保護をもらいながら、ヴォランティアとか政治活動をして生きていた人たち。で、大学の先生だったアナキストが勝手にやっているマルクス講座というのがあったんですよ。それで、英国の政治や思想に熱心な人たちというのは、もう見るからに、身なりというかファッションで思想がだいたい想像できるんですが(笑)、ほんとうにいろんなタイプの人たちが講座に来ていた。私はその部屋の一番後ろにブランケット敷いて、講師の赤ん坊の面倒みてたんですけどね。センターの保育士だから。見てると、全然思想が違うっぽい人たちが集まって話を聞きにきて、みんなで「ワーオ、そこは面白いよね」って喜んでいる。ある意味、あの単純な感じってすごく大事だと思うんです。

栗原 「あれもダメ、これもダメ」って言ってないで、全力で「ワーッ」とやっちまって、そっから圧倒的なバカをつかみとっていく。

ブレイディ そこで一緒になっちゃえばいいのに、なれないのは日本人って細かいことをするのが得意でもあるけれど、あんまり細かく分け過ぎちゃうと息苦しくなりますよね。

 でも、そうは言いながら、私は個人主義というのもすごく大事だと思っていて、自分というものも絶対に侵されたくないから、栗原さんがすごくいい言葉を言っていたじゃないですか。

栗原 一丸となって、バラバラに生きる。

ブレイディ それ! それだと思います。

栗原 ありがとうございます。

ブレイディ 栗原さんはいろいろ名言がありますけど、それはとりわけ名言だと思いました。

――きょうはどうもありがとうございました。   (2017.8.24 下北沢B&Bにて)

2017年10月6日更新

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ブレイディ みかこ(ぶれいでぃ みかこ)

ブレイディ みかこ

ライター・コラムニスト。一九六五年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、一九九六年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。二〇一七年、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で第十六回新潮ドキュメント賞受賞。二〇一八年、同作で第二回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補。二〇一九年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)で第 七十三回毎日出版文化賞特別賞受賞、第二回 Yahoo! ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞受賞、第七回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)受賞。 著書は他に、『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』(ちくま文庫)、『アナキズム・イン・ザ・UK』(Pヴァイン)、『ヨーロッパ・コーリング――地べたから のポリティカル・レポート』(岩波書店)、『 THIS IS JAPAN ――英国保育士が見た日本』(新潮文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『労働者階級の反乱――地べたから見た英国EU離脱』(光文社新書)、『女たちのテロル』(岩波書店)などがある

栗原 康(くりはら やすし)

栗原 康

1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科・博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、大杉栄伝―永遠のアナキズム』(夜光社)(第5回「いける本大賞」受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2015第6位)、『はたらかないで、たらふく食べたい―「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)(紀伊國屋じんぶん大賞2016第6位)、『現代暴力論 「あばれる力」を取り戻す』 (角川新書)、『村に火をつけ,白痴になれ―伊藤野枝伝』(岩波書店)などがある。

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康, 栗原

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