■一丸となって、バラバラに生きる
──そろそろQ&Aにいきたいと思います。
質問者 本を読んだりツイッターを見たりしていて、左翼は思想が潔癖すぎてほかの人と連帯しにくそうだなと思うのですが、じゃあ、アナキズムの立場から、どうやって人と連帯をしていくのか、具体的なお考えがあればお教えください。
栗原 基本的に、アナキストで、人と一緒にやろうというときに、かっちりと組織をつくるってのは難しいですよね。もちろん、アナキストでも「無政府〇〇党をつくりましょう」という人もいるんですよね。でも、そうなるとちょっと違う発想になっちゃいますからね。思想自体は国家に従わないけれども、その思想に従う団体をつくりましょうとなると、アナキズムじゃなくなってしまう。
じゃあ、大杉栄や伊藤野枝が何をやろうとしていたのかというと、いま、「行動によるプロパガンダ」っていうと、テロを意味するようになってしまっていますが、ほんとは、今の世界とはちがう生き方を自分たちが実際にやってみせるとか、あるいは、今の世界にはしたがわねえぞっていうのを、暴動やデモで見せつけたりする。「それでいいんだよ」っていうのを煽っていこうとするんですね。ひとの心に火をつける。それが組織論じゃない、アナキズムのひとの惹きつけかたなのかなと。
以前B&Bで松本哉さんとトークイベントをやらせてもらいましたが、彼はもちろんアナキストは名乗りません。普通にノンセクトって言うと思いますが、彼が面白いのは、いろいろな人を惹きつけますよね。たぶん彼がやっていることも自分が動くことで人を煽るということだと思います。とにかく、これは面白いだろうとおもったら、世間一般ではクズだって言われていることでも、とりあえずやってみようかと。変なデモをやってみない? 変なバーを作ってみない? そういうことをやっていくうちに、何かわからないけど面白そうだからやってみようかなという人が続々と集まってきたんだと思うんですね。そういうところは、すごく参考になると思っています。
ブレイディ 私は、自分の交友関係を見てもすごく幅広いと我ながら思います。節操がないともいえるんですが(笑)。でも、狭い一つのサークルにこだわっていないし、言い古された言葉ですが、イデオロギーはいろいろもちろんあるけど、イデオロギーって人間性に出ていないとダメだと思うんですね。私はそういうのが出ている人を信じるので、そういう人たちなら付き合っていきたいと思うし、私が思うアナキズムというのは、トップダウンじゃなくて、下からいこうよという話なんですよ。いつも「下から上に」「ミクロからマクロに」みたいなことをずっと意識しているから、そういう部分で同じような考え方なら細かいことはあんまり言いません(笑)。細かく分裂していけばいくらでも分裂はできるし、分裂した同士で対立していくのもいいですけど……。
栗原 対立して、「自分たちだけが正しい」っていうと、それで、「やった感」があるんでしょうね。
ブレイディ そうなんですよ。日本ってすごくそれが激しいですよね。小さな差異は気にしないで何かあったときにはみんなで一緒になろうよと言うわりには、一番そういうことを言いだしている人が一緒になりたくないという感じがありますよね。まだイギリスのほうが大らかな部分がある。アナキストが反緊縮にいっているけど、反緊縮というのも、「大きな政府で」とか言っちゃってるわけだから、本当は、アナキスト的立場からすれば、かなり矛盾があるはず(笑)。でも、例えば、私が『子どもたちの階級闘争』で書いた無職者支援センターでは、アナキストと言われる人たちがたくさん来ていたんですね。失業保険や、生活保護をもらいながら、ヴォランティアとか政治活動をして生きていた人たち。で、大学の先生だったアナキストが勝手にやっているマルクス講座というのがあったんですよ。それで、英国の政治や思想に熱心な人たちというのは、もう見るからに、身なりというかファッションで思想がだいたい想像できるんですが(笑)、ほんとうにいろんなタイプの人たちが講座に来ていた。私はその部屋の一番後ろにブランケット敷いて、講師の赤ん坊の面倒みてたんですけどね。センターの保育士だから。見てると、全然思想が違うっぽい人たちが集まって話を聞きにきて、みんなで「ワーオ、そこは面白いよね」って喜んでいる。ある意味、あの単純な感じってすごく大事だと思うんです。
栗原 「あれもダメ、これもダメ」って言ってないで、全力で「ワーッ」とやっちまって、そっから圧倒的なバカをつかみとっていく。
ブレイディ そこで一緒になっちゃえばいいのに、なれないのは日本人って細かいことをするのが得意でもあるけれど、あんまり細かく分け過ぎちゃうと息苦しくなりますよね。
でも、そうは言いながら、私は個人主義というのもすごく大事だと思っていて、自分というものも絶対に侵されたくないから、栗原さんがすごくいい言葉を言っていたじゃないですか。
栗原 一丸となって、バラバラに生きる。
ブレイディ それ! それだと思います。
栗原 ありがとうございます。
ブレイディ 栗原さんはいろいろ名言がありますけど、それはとりわけ名言だと思いました。
――きょうはどうもありがとうございました。 (2017.8.24 下北沢B&Bにて)