荒内佑

第13回
風邪の効用の応用

今、注目のバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、<日常>とそこに流れる音楽の話を綴る大好評の連載が公開中です。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。

 
 今年の秋は日本の四季を圧縮したかのようにコートをクリーニングに出したかと思えば、翌日はTシャツで過ごしてたりと寒暖差がひどい訳ですが、読者のみなさまは風邪など引かれていないでしょうか。僕はこの一ヶ月の間、一週間風邪を引き(発熱あり)→治り→また一週間風邪を引き(発熱なし)→いま若干治りかけの段階です。症状は鼻水、咳、喉の痛みといったところ。あまりの不調続き、こないだ自分の顔面に死相が出てる気がして、四季の圧縮っていうか死期……とか面白くない上にすごい憂鬱な気分になったんですが、何が言いたいかというと、今回は風邪の対策としてこの一ヶ月で自分が取った行動のレポート。それに対して野口晴哉(のぐち・はるちか)著『風邪の効用』(ちくま文庫!)を照合し答え合わせをしてみます。同著の主旨ですが、風邪とは「自然の健康法」であり「体の掃除になり、安全弁としてのはたらき」があるというものです。引用していくのでどんな本かは朧げに分かってくるでしょう。ちなみに連載を始めて一年たったので文体を変えてみましたが、座りが悪いので次の段落から戻しますね。


<週刊プレイボーイを初めて買った>
 あ、風邪を引いたかな、と思ったのは東京から岡山へ向かう新幹線だった。岡山駅に着いて早速セブンイレブンでのど飴と水原希子さんが表紙の「週プレ」を生まれて初めて購入。別段、水原さんの大ファンではないが気になっていた特集なのでなんとなく買ってみた。肝心なのはグラビアではなく「生まれて初めて」である。僕は時折、こうして操を破るのが好きである。念のためグラビアに関して、俗っぽくて恐縮ですが半ケツや手ブラのショット多数の誌面は、モデルがランウェイで見せるシースルー+トップレスの延長で、おしゃれだなぁという印象。つまりそんなにエロくはないと思った。

 これに対し『風邪の効用』を当てはめるなら「病気になりたい要求」(p.99)だろう。曰く、「『あの人は自分を見てくれない、病気になれば親切にしてくれるだろう』と思うと病気になりたい要求が起こる」。どういうことか。人前で「生まれて初めて週プレを買う」ということは些細ながらも特別な行動であり、周囲に対して自分が普段と少し違う状態にありますよ、というプレゼンであるといえる。つまり、風邪を引いて親切にされたい願望と週プレを買ってちょっと注目を浴びたい願望が無意識下で手を取り合っていたのである。風邪が週プレを買わせた、と。いきなりムリがある精神分析みたいだ。まぁ気にしない。


<シティーハンターの再放送を見る>
 僕は日常的にアニメを見る習慣がないが、たまたまテレビ欄で見つけた初代『シティーハンター』を毎週録画予約している。子供の時も、大人になっても正直話が面白いと思ったことはほとんどないが(すいません)、何が好きかといえば「80年代/新宿」のヴァイブスに尽きる。語り出したら長くなってしまうので、手短に言えば1984年東京の郊外生まれの僕にとって、80年代の新宿は手が届きそうで届かない、物凄い郷愁を湛えている。つまりソファで横になって見る『シティーハンター』はすっごい癒されるのだ。こないだアート・リンゼイも某雑誌で、若者が80年代を懐古したような音楽作品を多く作っている、というインタビュアーの言葉に対し「ヴァーチャル・ノスタルジーこそリアルだよね」と言っていた。イクザクトリー。

 これに対応するのは「心を弛める」(p.55)しかない。曰く、「『風邪がうつるといけないから、うつりたくない人は同じ部屋に寝ないこと』などと、特にお嫁さんの風邪などにはよくそれを言いますが、風邪というものはうつらないのです、本当は……。けれども一人で寝かせないと弛まない」という。要は風邪をうつしてしまう、うつされてしまうという緊張にあるくらいなら一人で寝た方がよっぽど良いということである。「やはり頭の中を空っぽにしてしまわなければいけない」。これに関して、自分がとった行動は理にかなっている。心、弛まりました。しかし、ハルチカ先生はこう続ける。「もっといけないのは寝ていてテレビを見ることです。これをやると目の疲労が胸椎三番に行って、呼吸器系統に異常を起こすのです。(中略)それがいわゆるテレビ風邪です」。ガーン。もちろん今だったらネット風邪が主流だろう。PCに向かって原稿を書くなどもってのほかだ。


<ラーメン屋に行った>
 整体も含めた広い意味での東洋医学では心身を分け隔てなく考えるので、上記二つのトピックは心理面の話にしてみた。では「食」に関してはどうだろう。僕は麵類なら絶対ソバとパスタ派、その次がうどんとフォーで、普段ラーメン屋に自ら行くことはまずないが、時折あぁあれ食べたいわぁと思うのは大阪の「揚子江ラーメン」と東京は西荻窪の「はつね」である。こないだ「はつね」へ数年ぶりに赴き、ワンタンメンを注文した。調子が悪いとき、食欲があれば体に良い悪い関係なく食べたいものを食べることにしている。だって野生動物って喰って寝て治すんじゃないの、という大して根拠のない理由である。

 先生曰く、「風邪の時の食物」(p.64)によれば「風邪を引いた時に食物を少し減らすというのはごくよいことです。水分の多いものを食べ、刺戟性の食物を多くする。病気といえばすぐに刺戟性の食物を慎むべしと考えていますが、風邪を引いた時には刺激性の多い物がよい。生姜でも唐辛子でも胡椒でも何でも構わない、胃袋が冷汗をかくくらい突っ込んでもいい。その方が経過を早くします」。ワンタンメンは半ば正解ともいえるが、別の項目によれば血中の塩分が多いと血管が硬張り、頭が重くなったり、肩が凝ったりするらしい。しかしワンタンメン、ウマかったから良しとしよう。

 こんなふざけた内容では、応用というより悪用になってしまった。しかし、ごく一部しか紹介できなかったが『風邪の効用』は名著であり風邪を引いた際には枕元に置いておくのをおすすめする。繰り返すが「風邪は自然の健康法」、つまりうまく活用すればデトックス効果があるということだ。僕の場合、ほとんど活用できていないが。風邪の後「蛇が皮をぬいだようにサッパリし、新鮮な顔つきになる」とあるように、気分が沈みがちな風邪と前向きに向き合える言葉に溢れている。ところで、この原稿を書きながら鼻をかみすぎて鼻血が出て来てしまった。

 

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