素晴らしき洞窟探検の世界

第1回 洞窟に出会う前、探検家はどんな人生を送っていたのか?
『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。破天荒な洞窟探検家と、芸能界一の洞窟好きのお二人の対談は、探検家吉田勝次と洞窟探検の面白さがギュッと詰まった濃厚なものとなりました。

初登山は雪山!?
石丸 八ヶ岳は一人で行ったの?!
吉田 はい。23歳のときで、12月の真冬でした。雑誌の「山と渓谷」を見て、名古屋の「シャッツバーム」という専門店に装備を買いに行ったんです。そうしたら店長が「ひょっとして初めて山に行くのか?」と。「そうです。急に山に登りたくなってしまって」と言ったら、「いやいやいや、登山クラブに入っている訳でもないだろう?」と。「はい、初めてで」と答えたら、「うちでは売れないよ」と言われて。
石丸 そりゃ、危ないもんな……。
吉田 なんで売ってくれないのか聞いたら、「うちで道具を売って、山で遭難されたら嫌だから」って。「それなら、どうやったら売ってくれるのか?」と聞いたわけです。そうしたら「登山クラブに入るか、きみが読んだヤマケイとかに載っている講習会に申し込んだら、用意すべき道具の一覧をくれるから、それを持って来て。そうしたら売れる」と。石丸 うん、うん。
吉田 家に帰ってからすぐ申し込んで。長谷川恒男さんていう人の講習会に……。
石丸 亡くなられているけど、有名な登山家だね。
吉田 アルプスの三大北壁を冬に一人で初めて登った人ですけど、そのときは、そんな凄い人だと知らずに、長谷川さんが主宰する10日間の「冬季雪上訓練」っていう、名前がゴツいから鍛えられそうな(笑)、講座に申し込んだ訳です。
石丸 うん。
吉田 申し込む際にはこちらの経験を書く欄はなくて、申し込めた。ほどなくして用意する道具が書かれた紙が送られて来たので、それを持って再び専門店に道具を買いに行ったんです。そうしたら全部売ってくれた。店長は「君は何色が好きなんだ?」と聞くから「青ですね」と答えたら、ほかは何も聞かずに、もくもくとレジの上に装備を載せていくんですけど、全部青色なんです。
石丸 はははは。
吉田 それで山積みされた装備で、しめて23万円。
石丸 当時のね。
吉田 ヤッケから、フリースから、何から。そうそう、靴は「これ履いてみて」というのと、ビッケルは長さを測るっていうので話しかけられましたね。こんなスキーみたいな靴を履くのかとビックリして。で、本番の八ヶ岳までは友達に車で送ってもらっていました。山小屋に入っていったら、装備が全部新品なものだから「なんか新しいね、君」とか言われて。
石丸 ふふふ。
吉田 「買ったばっかりなんです」って言ったら、「ひょっとして山、初めてなの?」と驚かれて。
石丸 ふつう冬山にいきなり来ないよね。

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勝次, 吉田

素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書)

筑摩書房

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