素晴らしき洞窟探検の世界

第1回 洞窟に出会う前、探検家はどんな人生を送っていたのか?

『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。破天荒な洞窟探検家と、芸能界一の洞窟好きのお二人の対談は、探検家吉田勝次と洞窟探検の面白さがギュッと詰まった濃厚なものとなりました。

「いきなり雪山」の衝撃
吉田 まあ、それでも出発するわけですけど、歩き始めて30分で山の恐ろしさを知りました。なんちゅうキツさなんだと。
石丸 雪の中進むのは大変でしょ。
吉田 小屋泊まりなんですけど、80リットルのザックがパンパンになる荷物の量でしたから。
石丸 30キロにはなるね。
吉田 石丸さん、行動食(※登山や旅行などで、行動中の栄養補給のために食べる携帯食料)って言ったら、何を持って行きます?
石丸 「何とかバー」みたいなものとか。
吉田 知らないから、そのとき持って行ったのは、シーチキンの缶詰とか、即席麺のどん兵衛とかで……。
石丸 缶詰かあ(笑)
吉田 「行動食」って書いてあるだけだから、山なら缶詰だろうと。で、シーチキンが好きだから持って行ったんです。でもそのとき、外はマイナス20度から25度だった。食べようとなって、ザックから缶詰を出したら、中身が凍ってる。それを見たほかの参加者が全員笑って、「なに!?」って。「凍ってるね!」って。
石丸 ふふふふ。
吉田 僕も「凍るんですね!」って驚いて。そのときは、他の人がそれぞれ10日間の行動食、飴玉とかチョコレートとかを少しずつ分けてくれて、「山小屋に戻ったらシーチキンとかどん兵衛を分けてくれたらいいよ」って言ってくれて。まあ、考えてみたら、極寒の雪山のどこにどん兵衛に注ぐお湯があるんだ? という話なんですけどね。
 まあ、そんなこんなで講習を受けまして。もちろんやることはどれも全然うまくできないわけですが、初めての山なのに、アイスクライミングまでやったんです。
石丸 おおー。
吉田 アイスクライミングっていうのも、「『アイス』だから寒いんだろうな」くらいしか思ってなかった。それで行ってみたら、すごい壁なんで、見た瞬間「やっばいな……」と思って。高所恐怖症なものだから、これは無理だな、と。でも、結局やったんですよ。
石丸 うんうん。
吉田 足は震える。手は震える。下には水が流れてるし。「刺せ!」って言われるから、(アイスバイルを)刺すんだけど、何度やってもポロポロ氷が落ちるだけで、「刺せないです~」ってなって。「ちゃんと刺せー!」って言われて。これを一日やりました。最終日は、赤岳(標高2,899メートル)に登頂したんですが、猛吹雪の日で、前の人の背中しか見えない。「○○姿勢をとれ!」と言われて、「あ、習った、習った」とか思って。
石丸 あはははは。
吉田 まあ、それくらい山とかアウトドアとかやってなかった。でも、負けず嫌いなもので、春になったら、懲りずに長谷川さんの岩登りの講習に申し込んだんですよ。
石丸 うん。
吉田 山梨の三ツ峠山で。そこで長谷川さんに声を掛けられて、「参加してくれるのはうれしいけど、これからも続けるんなら、地元の山岳会に入るといいよ」と言われて、そのとおりにしました。地元の山岳会に入ったんですが、そこは僕が入ったときに50年記念誌を出したから、いま80年くらいですか。その頃は、昭和9年生まれの方がいましたね。
石丸 そう!
吉田 そこは軍隊みたいなところで。「おまえが食事を持って行け」と言われて「はい、わかりました」って答えたんですけど、すっごく大きなタッパーに、すき焼き用の肉と野菜とタレが「どん!」と入ってるんですよ。大人数だから、それだけで15kgくらいある(笑)。ほかに真鍮で出来たようなでかいランタン、テント。8人くらい分を全部僕が持つことになって。
石丸 ふふふふ。
吉田 それから僕の軍隊生活が始まって……。でも、10代のときから武道、空手とか少林寺拳法をやってて、ボクシング、柔道、テコンドーなんかもやってきたけど、「何でオレは、軍隊みたいなところで山に登ってるんだろう」って思ってしまった。「楽しくて来てるのか、何だかよくわからないなあ」となってきて。でも、途中で止めると負けたような気がするから続けていた。登山を始めて2年後くらいからダイビングも始めたんですが、山にも海にも、そんなにトキメキはないんですよね。
石丸 うん。
吉田 そんなふうに「登山もダイビングも、そんなに好きじゃないなあ」と思った矢先に洞窟に出会ったんです。

写真:畠山泰英(科学バー/キウイラボ)