素晴らしき洞窟探検の世界

第3回 死にかけても、洞窟に潜る。でも、Gが出たら即撤退!
『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。 今回は、吉田さんの日常生活や探険家としての未来にも踏み込みます。死にかけても洞窟に行き続ける「洞窟病」にかかった吉田さんの熱さが伝わる最終回です。

極度の怖がり
吉田 僕の場合は、完全な高所恐怖症だから、怖がりすぎて、現場で実力が出せないんですよ。
石丸 東京タワーにこの前一緒に行ったけど、35年ぶりでしたっけ? 中学生のときダメだったというから、探検で高所恐怖症を克服できたか確かめに行きましたね。それで、堂々と歩いていたよね。
吉田 ようやく、東京タワーを克服しました! 
 本でも取り上げていますが、ゴロンドリナスというメキシコの洞窟で400メートルの縦穴を降りた時も、本当にブルってました。ここは底が見えるんです。だから「深い」というより「高い」という感じ。高所恐怖症の人間にとっては、ほんと恐ろしい…。

ゴロンドリナス洞窟の縦穴は400メートル。

  吉田 自分がそこにぶら下がっているのが信じられない。底まで降りたら、写真を撮りまくって、「うわー楽しい!」となるんだけど。しかも、ロープは穴の近くの木に縛るんですよ。
石丸 えー! 
吉田 メキシコの友達が縛ったんだけど、ロープをセットする時にその木が揺れるんですよ。降下中にその木が抜けたら、落ちてしまう。「これ、本当にOKか?」と聞くと、「OK」と返ってきて。ぶら下がった時は生きた心地がしなかった。今考えても、怖い! だから、高所恐怖症は克服できないと思う。でも怖いから、安全確認を何度もするし、「怖がりのおかげで生き延びられているんだな」とは思いますね。

木にロープをくくりつける(ゴロンドリナス洞窟)


石丸 普通の人以上に怖がりだものね。
吉田 「クレイジージャーニー」というテレビ番組に出たんですけど、クレイジーな人ばかり出てるんですよ。どの場面も、怖い。僕は飛行機に乗るのだって怖いのに。
石丸 あはははは。
吉田 何かにつけて恐怖心があるんです。その恐怖心と折り合いをつけながら「自分には何ができるかな?」という生き方なんですよ。

身動きが取れない時の対処法
石丸 恐怖心の最たるもので、洞窟の場合、身動きが取れなくなったら……というのもあるよね。
吉田 あー!
石丸 だんだん狭くなっていくところに初めて入る時、吉田さんは先頭で、一人で入っていくわけじゃないですか。
吉田 初めて行くところでは無理をするわけです。やっぱり、探検家だから、未踏の場所が面白い。だから、とにかく頭から突っ込んでいきます。
石丸 足からいくんじゃないんだ。
吉田 足には目がついてないので(笑)。ただ、そうすると、下り坂では頭に血が上ってきて、体調が悪くなってきます。「体が挟まって動けなくなったら、何日このままで生きていられるんだろう」とかも考えますが、行けるうちは前に進むしかないんです。
石丸 ふふふ。
吉田 どこまで行けるかは自分で判断するしかありません。頭を横にしないと進めなくなる→両手を前にしなければ進めなくなる→さらに狭くなって、肺の息を少し出さないと進めなくなる、というところまできたら、「ここで戻るか? 進むか?」と考えます。「ここさえ抜ければ広くなる」と思えれば、なんとかして進もうとしますね。
 というように、前向きなときはいいんだけど、いざ戻ろうなった時に、恐怖心が「どかーん」と襲ってきて、押しつぶされそうになったりもします。僕は「魂が離れる」というように言っているんですが、まず過呼吸になって。次に軽い酸欠になって、顔が赤くなります。こうなると、まともな判断もできなくなってしまう。
石丸 うん。
吉田 なので、まずは冷静になるのが先決です。そのためには、目を閉じるのがいいんです。
石丸 閉じるんだ。
吉田 現実逃避です。ヘッドライトを消せば真っ暗なんだけど、さらに目を閉じるのがいいんです。目を閉じたまま、脱出する方法として考えられる行動を少しずつ取っていくんです。下り坂でハマってしまったときは、指先を動かして、なんとか生還しました。これはかなり大変だったのですが、これについては本を読んでいただければ。

関連書籍

勝次, 吉田

素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書)

筑摩書房

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