素晴らしき洞窟探検の世界

第3回 死にかけても、洞窟に潜る。でも、Gが出たら即撤退!
『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。 今回は、吉田さんの日常生活や探険家としての未来にも踏み込みます。死にかけても洞窟に行き続ける「洞窟病」にかかった吉田さんの熱さが伝わる最終回です。

夢の探検用ボディスーツ
吉田 僕はいま、真剣にお金がほしいんですよ。何のためだと思いますか?
石丸 穴を掘る?
吉田 誰でも年を取るじゃないですか。僕も、「いつまで探検できるんだろう?」と思うわけですよ。仲間と話すときは、「死ぬまでやりたいね」と言うんですけど、実際動けなくなったら探検に行けないじゃないですか。で、動けなくなったときに、仲間が洞窟に行って、すごい洞窟を発見したと聞いたら、つらいじゃないですか。
石丸 そうだね。
吉田 だから探検用のボディスーツを作りたいんですよ。ビューって空を飛んで洞窟に行けて、洞窟の中もどんどん進めるようなボディスーツを。
石丸 あはははは!
吉田 アイアンマンみたいな。いろんな装備がついてて、洞内も、赤外線使って、どれくらい進めるかがわかったり(笑)。だから弟子たちに、もっと稼いで、そういうボディスーツを買ってくれと言ってるんです。
石丸 酸素も1ヶ月くらいもつやつね(笑)。
吉田 この前、ロボット工学の専門家と話をして「1億円くらいですかね?」と聞いたら、研究費にもならないと。試作品作って色々試したりすると、「最低5億くらいじゃないですかね」と。
石丸 5億か~。
吉田 5億円を稼いだら、ボディスーツを作るか、一瞬で月に行ける装置を作るか。
石丸 いいねえ、夢があって。アイアンマンぐらいになると、1000億くらい?(笑)
吉田 死にかけている財閥の大富豪が「もう……俺の財産は……お前の夢にかける」とか言ってくれないかなあ(笑)。まあ、自分で稼ぐしかないか。

探検家にはスポンサーがつかない?!
吉田 お金といえば、自腹でやるというのが宿命なんですよね。どうしてかというと、「探検」と「冒険」は違うんです。冒険というのは目的が決まってるんですよ。「南極に徒歩で行きます」「エベレスト登ります」とか。企業側も、どんな費用対効果になるのか電卓を叩きやすいから、スポンサーがつきやすいんです。たまに僕にもそういう話が出るんですけど、「吉田さん、その探検で何がわかるんですか?」とか聞かれても「わからない」としか答えられないんです。
石丸 あははは。
吉田 「行ってみないとわからないですねー」と、「わからない」の連発。そうなると企業の人も「あー」となっちゃって。何度かチャンスはあったんですが、こんな調子なので、スポンサーになってもらえたことがない(笑)。そういうこともあって、やっぱり僕らがやっていることは、「究極の自己満足」なんだなと。というわけで、自腹で行くしかないと。
石丸 なるほどね。
吉田 だから、テレビ番組をやったり、ツアーで洞窟に人を連れて行ったりして、いろんな窓口を作って、稼がないといけない。そうしてお金を稼いで、そのお金で探検に行く。今になってようやく多少名前が知られてきて、テレビの仕事も増えてきた。でも、もっと知られるようになれば、もしかしたら「探検の成果が出るかどうかよくわからないけど、吉田さんがやるんなら予算を出してもいいよ」というスポンサーが現れるかもしれない。
石丸 むしろ、今の時代だとそれが逆に強みかもしれない。今、海も山もやり尽くされた感じがあるでしょう。10代の女の子が七大陸最高峰登頂をやっちゃう時代なんだから。
 今までは、「○○をやります」という冒険にスポンサーがついていたんだけど、これからは、吉田さんのような「人」にスポンサーがつく時代になるかも。昔のスペイン、ポルトガルは、探検の結果がどうなるかわからないけど、国王がお金を出してたじゃない? それと同じ。
吉田 なるほど。これまでも自腹で、これからも自腹で探検を続けると思ってますが、ちょっと資金的に協力してもらえたら、活動が広がるな、とは思うんです。
 まあ、何れにしても、探検家としてブレずに、真っ直ぐやっていくということですね。

〔編集部より:今回の対談に登場した凄いエピソードの数々や、美しかったりでかかったりする洞窟の数々については『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)に詳しく書いてあります。カラー口絵も! 皆様、ぜひお読みいただければ幸いです。〕

                                     (完)

 

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