荒内佑

第15回
郊外の子供たち

今、注目のバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、<日常>とそこに流れる音楽の話を綴る大好評の連載が公開中です。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。

 
 昨年末から今年にかけてぼくが買った物。ポータブルCDプレイヤー、そこそこ良いCDプレイヤー(据え置き)、鉛筆削り(手動)、ビデオカメラ。10年くらいまえならどの家庭にもあったものだが今はどうでしょう。全部持ってますよって人の方が珍しいだろう。主に、だが、ぼくはいまだに音楽をCDで聴くし、わざわざレコ屋に赴いて買う。で、タワレコとかディスクユニオンの店先でCDのパッケージをビリビリッと開けてプレイヤーにセットする。DENONのそこそこ良いCDプレイヤーはリモコンがついているのが最高だ。ははは。音もいいけどCD棚の上にプレイヤーが鎮座しているだけで素敵な気持ちになってくる。鉛筆削り。ぼくはシャーペンとサインペン派だが、録音スタジオには必ず鉛筆削りが置いてあって、手慰みに鉛筆をガリガリと削るのが好きなので自宅用に購入した。削りたいがために三菱のHBも2本買った。それで譜面を書くことも増えた。モノって素晴らしい。そしてビデオカメラ。笑ってもらって構わないがちょっと遠出したりする時にカメラを回し、深夜にテレビと繫いで一日を振り返るのである。ちょっとヤバいでしょう。スマホの動画ではダメです。なぜならぼくにはビデオカメラそのものがフェティッシュであるから。


 21年前の12月、小6のぼくはドラマ製作で多忙の日々だった。クリスマスに友達の家で開かれるパーティーでの上映会に向けて撮影に明け暮れていた。要は自分くらいの年代なら誰しも経験したであろう「親のビデオカメラを持ち出して友達と適当に話をつくるやつ」のことである。小学校最後の作品になるはずなので大作にしようと意気込んだ。以前にも撮影経験があって(ぼくの処女作は友達がカメラの前まで走って来て「うんこ」と言う作品)、新しいカメラが家にあったので必然的にぼくが監督、カメラマンを務めた。内容をほとんど覚えていないが刑事物だったのは確かである。前回書いたように東京出身といっても郊外なので、地元には戦中に掘った防空壕がそのまま残っているような雑木林の裏山があった。寒い中、白い息を吐きながら友達と自転車で集まって、格闘シーンをそこで撮った記憶がある。音に関しては少し特別だった。ぼくは当時から宅録をやっていて、親にフリマで買ってもらった8トラックのMTR(カセットテープに何トラックも音を重ねて録音できる機械)を持っていたのでビデオカメラの音を一旦MTRで録音し、シーンごとに図書館で借りて来た効果音集から打撃音や銃声をつけていった。劇伴は何かのCDのカラオケトラックを使った気がする。果たして出来は、というと全く記憶にない。ただ友達とゲラゲラ笑い転げながら作業をして、上映会にいた女子たちが苦笑していたのだけはよく覚えている。


 往々にして人は自分が生まれ育った場所が退屈かどうかなんてそこを出ないと分からない。比較対象を知らないからだ。ひとつ言えるのは、ぼくらは冬の鬱蒼とした裏山の中にいてもビデオカメラがあったので最強だった(数年前、その裏山に死体が遺棄されていたというニュースを見たが納得しかなかった)。稚拙もいいところだったがアイデアと、少しの機材と、友達がいればだいたいのことは楽しい。かくしてクリスマスが過ぎて冬休みになると誰にも会わず一人でビデオを再生するようになった。今と大して変わらないのだ。自分以外誰も見やしないのにMTRで更に音を加えたりして不思議な数日間を送った。学校で聞き慣れたはずの友達の声をヘッドフォンごしに聞いて編集する。テレビ画面ごしに友達を見る。笑えるというより次第に何かに取り憑かれていくようだった。映像の内容はほとんど忘れているが、そのとき実家の自室から見えた冬の空を鮮明に覚えている。灰色と白の中間色。曇天がグラデーションしていくように世界の見方が少しずつ変わっていく。


 VIDEOTAPEMUSICの「煙突」という曲がある。もし彼を知らないならどんな音楽をつくりどんな活動をしているかは各自調べて頂きたい。ライブでその曲がプレイされる時、VJでスクリーンにゴミ焼却場の煙突の姿が延々と映し出される。煙を吐き出し、航空障害灯が明滅を続ける映像。他所のサイトでも同じことを書いたがもう一度言ってしまおう。実家を出て久しいぼくは自分の地元が来訪者にとってどれほどありふれた場所に見えるか分かっている。退屈で、退屈で、退屈な街に生まれ育った者にとって東京のランドマークは、東京タワーでもスカイツリーでもなく点在するゴミ処理場である。煙突に見下ろされて白い息を吐きながら友達と集まって遊ぶのだ。ぼくと同世代で似たような東京の郊外で育った彼は学生の時にこの曲をつくった。ビデオカメラで撮影した煙突の姿に音を足してみる。大それた楽器は持っていないけど世界がちょっと変わるようだ。アイデアと少しの機材があればいい。「煙突」にぼくは共感しかない。渋谷が地方都市化してるって誰かが言ってた。古い店は軒並み潰れてチェーン店ばっかり増えてるって。もし嘆いてる方がいたら教えてあげよう。郊外の子供たちは優雅で感傷的でタフである。やり方次第でいくらでも楽しめそうだよ。

 ではまた来年。