アメリカ音楽の新しい地図

5.ラナ・デル・レイとフェイクの美学

トランプ後のアメリカ音楽はいかなる変貌を遂げるのか――。激変するアメリカ音楽の最新事情を追い、21世紀の文化=政治の新たな地図を描き出す!

ポストリュード――トランプ/ワインスティン後の世界で
 では、ポリティカル・コレクトネスが支配的な時代に「偽り」のペルソナを貫徹することで逆説的にトランプ政権を召喚したともいえるラナ・デル・レイは、実際に「フェイク」な言動で知られる大統領が誕生した際、どのように振る舞うのだろうか。
 今年11月、ラナ・デル・レイは2012年にリリースしたEP〈パラダイス〉に収録された〈コーラ〉を今後ライブなどで歌わないことを宣言した。前月にニューヨーク・タイムズやニューヨーカー誌によってハーヴィー・ワインスティンに対する女性たちの告発が相次いで以来、「私のプッシーはコーラの味がする」というラインで始まるラナ・デル・レイの曲が映画界の大物について歌ったものではないかと囁かれていた。「あの曲を書いたとき、たしかにハーヴィー・ワインスティンやハリー・ウィンストンのような男をイメージしていたのは確かよ」と彼女はいう。「当時は面白いと感じたけど、今は明らかに嘆かわしいことだと思う。私は名乗り出た女性たちを支持する。とても勇気のあることだと思う。」(9)
 ラナ・デル・レイがこのように政治的に正しい言葉を発することを彼女の変節としてみるか、それだけリベラルにとってアメリカ社会が切迫した状況に陥っているとみるかは意見が分かれるだろう。トランプ政権成立後、初めてリリースされたアルバム《ラスト・フォー・ライフ》(2017)でまず目を引いたのは、彼女の笑っている姿が描かれたジャケットである。シングルカットされた〈ラヴ〉やザ・ウィークエンドがフィーチャーされた〈ラスト・フォー・ライフ〉のミュージック・ビデオでもこれまであまり見られなかった彼女の表情の豊かさが確認できる。

ラナ・デル・レイ〈ラヴ〉
 
ラナ・デル・レイ〈ラスト・フォー・ライフ〉

 念のために指摘すると、文化史的なエピソードをサンプリングする従来の手法に変わりはない。そもそもアルバムのタイトル自体、デヴィッド・ボウイがプロデュースしたイギー・ポップの1977年の作品に依拠したものだし、〈コーチェラ、ウッドストック・イン・マイ・マインド〉では文字通り、現代の音楽フェスティバルが1960年代末の歴史的イベントに準えられるだけでなく、歌詞に「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン(天国への階段)」というレッド・ツェッペリンの代表曲のタイトルが引用されている。ヒッピー・ムーヴメントへの目配せは〈ラヴ〉のミュージック・ビデオにも明らかだし、ショーン・レノンをフィーチャーした〈トゥモロー・ネヴァー・ケイム〉は曲全体がビートルズへのオマージュといってもいいだろう。ヒップホップマナーに則ったリヴァーブの効いたサウンド・プロダクションも健在であり、三曲目のシングル〈サマー・バマー〉ではエイサップ・ロッキーやプレイボーイ・カーティがフィーチャーされるだけでなく、ドレイクのレーベルに属するボーイ・ワンダがプロデューサーとしてもかかわっている。
 もちろん、すでに指摘されているように本作がこれまでと同じように「ハリウッドの陰り、歪んだアメリカーナ、そして悲惨な恋愛」を重要なテーマとしていることは間違いない(10)。それと同時に、多くのレヴューで言及されるとおり、このアルバムがラナ・デル・レイの作品としては例外的に「より明るいサウンド、社会問題への目覚め、決意に満ちた笑み」を携えていることも確かである(11)。2015年にはすでに構想が練られていたと思われる作品にトランプ後の世界の主題を読み取るのは筋違いともいえるが、リリースされたシングルのミュージック・ビデオに顕著なように、これまでの作品に比べて彼女の表情にはっきりとフォーカスの合った演出が目立つとはいえるだろう。ジャケットの微笑みを文字通りに受け取るべきか、それともある種の不気味さの象徴として解釈すべきなのか――。
 ひとつ気になるのは、〈ラヴ〉と〈ラスト・フォー・ライフ〉の両方のビデオで唐突に宇宙などSF的な想像力が駆使されていることである。フェイクの美意識を研ぎ澄ませ、オバマ時代にハリウッド・サッドコアを確立したラナ・デル・レイは、トランプ政権樹立後の宇宙空間にいかなる残響音を鳴らすことができるだろうか。

(9)Hilary Hughes, “Here’s Why Lana Del Rey Is Cutting Controversial ‘Cola’ from Her Live Show,” MTV, Nov. 1, 2017, http://www.mtv.com/news/3044891/lana-del-rey-cola-harvey-weinstein/.
(10)Leonie Cooper, “Lana Del Rey: ‘Lust for Life,’ Review,” NME, Jul.25, 2017, http://www.nme.com/reviews/album/lana-del-rey-lust-life-review.
(11)Harriet Gibsone, “Lana Del Rey: Lust for Life review: In a Luxurious League of Her Own,” The Guardian, July 21, 2017, https://www.theguardian.com/music/2017/jul/21/lana-del-rey-lust-for-life-album-review.  

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