上田麻由子

第15回・まぼろしの盃

舞台『刀剣乱舞』ジョ伝 三つら星刀語り

交わされる誓い

 ゲームでは「鍛刀」により(理論上は)何本でも手に入れることができる刀剣男士が、「この本丸」では唯一無二の存在になっている。それを自覚したあとではじまる2幕『如伝 黒田節親子盃』では、刀剣男士たち自身が積極的に「死」を願うことすらあると示唆され、いっそう観客たちの刀剣男士への愛着を揺さぶる。それは、小田原城で元の主人である黒田長政と触れあったことを回想するへし切長谷部が、「付喪神にあの世があるならばついて行きたかった」と、けなげなほどの忠誠心をみせるシーンだ。

 これはゲーム内の「回想」にあった台詞だが、いままで直臣ではない者に下げ渡されたという経緯から、織田信長に対しては頑なな態度をとっていた長谷部が、長政の前では乙女のような純粋さで一喜一憂していたこと、そのうえで「生きろ」という願いのような呪いのような言葉を一方的に投げかけられ(余談だが非常に末満的なシチュエーションである)、身を裂かれる思いで長政のもとを離れたことを知ったあとでは、いっそう説得力を増す(このあたりの長谷部を演じる、和田雅成の痛切な叫びは涙を誘ったし、そのあとの戦いのなかで発せられた、ゲームで何度も聞いたはずの「圧し切る」は、これまでとまったく違う鬼気迫るものがあった)。じっさい、へし切長谷部を主眼に置けば、この「ジョ伝」は刀剣男士にとってひとつのハッピーエンドともいえる。すべてが終わったあと、刀剣男士や時間遡行軍のことを秘密にして欲しいと頼まれた長政は、「我が黒田家家宝、へし切の御刀に誓って、そなたらのことを誰にも語らぬ」と約束した。長谷部がまるで忠臣のひとりであるかのように信頼し、それでいて刀剣のモノとしての存在にも敬意を払う。そんなまっすぐな思いを向けられた長谷部の喜び、誇らしさは、いかほどのものであったか。それこそ「死んでもいい」と思うほどだったに違いない。

 終盤、長政と会った感想を聞かれた長谷部は、一瞬の戸惑いののち「よしてください、もう忘れましたよ」と微笑んでみせ、それを最後にあのいつもの慇懃無礼な長谷部に戻って、執事のように優雅なお辞儀とともに今の主への忠誠を誓う。長政がそうしたのと同じように、語らず、胸のうちに止めることが、彼にとっての忠義の証であるかのように。そうやって、思い出を永遠のものにするかのように。

重ねあわされる盃

 同じように主人に忠誠を誓いながらも、弥助は長谷部と正反対の道を歩んでいる。信長の家臣だった彼は、本能寺の変で信長を殺した歴史と、それを守った刀剣男士に復讐するため(『刀ステ』第1作「虚伝 燃ゆる本能寺」の裏で起こっていたことのようだ)、「時間遡行軍99体の思念がとりついた付喪刀」をもって斬りかかってくる。2作目『義伝 暁の独眼竜』では鶴丸の「闇落ち」という形で描かれていた、刀剣男士のまえにつねにぽっかりと口を開けている深淵が、いよいよ具体的な形をとったのである。本作であかされた、刀剣男士がまさに「身から出た錆」と戦うウロボロス的な状況に照らしあわせると、弥助が登場時に発していた「汝、敵を愛したまえ。私はあなたたちを愛してます」という台詞が、ただ彼がクリスチャンであったということ以上の、深い意味を帯びてくる。

 本作全体のサブタイトル「三つら星刀語り」のモチーフになっているオリオン座は「鼓星」として紹介されるが、その形をよく観察してみると、まるでひっくり返して上下に重ねられた2つの盃のようでもあって、この作品の構造そのものをあらわしているようにも思えてくる。過去と未来が、いわば盃を交わすように、酒による酩酊というまぼろしのなかで出会う本作は、刀剣男士が起こしたことは刀剣男士が、人間が起こしたことは人間が解決し、ひとまずの決着をみせる。しかしそれは同時に、刀剣男士のなせるわざとは、執着からの解放なのか、それともありえたかもしれない可能性の剥奪なのかと、新たな疑問をも提示している。

 夜空に浮かぶ星は、何年、何十年、果ては何億年も前の光のいわば残像のようなものだという。そうであるならば、本作で「三つら星」にたとえられた信長、秀吉、家康だけでなく、その武将たちの野心、あるいはその成れの果てである悲しみや、悔しさをもその刀身に鏡のように「写す」刀剣男士たちもまた、過去の輝きをいまに伝える星のような存在なのかもしれない(そのことと重ねあわされるように、そもそもが「写し」であるという山姥切国広の出自の鬱屈とした悩みは、本作でも兄弟である山伏国広の明朗さや、コピーのなにが悪いというソハヤノツルキの屈託のなさと対比されつつ、おおいに描かれる)。そう考えると「星を見ていると悲しくなる(…)歴史の中で人がうまれ、生きて死んでいるのをただ見ていることしかできない」という、ほかの刀たちとは違う尺度で、俯瞰してこの本丸を、歴史を眺めている骨喰藤四郎の言葉のなかに、さらなる物語の萌芽を見とめずにはいられない。刀剣男士が何気なく口にした「他の本丸の刀か?」という、パラレルな次元を拓くような発言も気になるところだ。2・5次元の面白さを、最前線で更新し続ける『刀ステ』。今夏の次回作にもおおいに期待したい。

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