岩井志麻子×ろくでなし子

第1回 屈しないろくでなし子さんの根性

ろくでなし子『私の体がワイセツ?!―女のそこだけなぜタブー』刊行記念(全2回)

第1回 屈しないろくでなし子さんの根性

2014年の7月と12月。女性器をアート作品にしただけでなぜか二度も逮捕されたろくでなし子さんが初のエッセイを書き下ろした。『私の体がワイセツ?!──女のそこだけなぜタブー』刊行(5月22日発売)を記念して作家の岩井志麻子さんとろくでなし子さんに対談していただいた。
2014年7月のろくでなし子さんの逮捕の数日前に、お二人はスポーツ新聞で対談している。その時の対談の場でろくでなし子さんは岩井志麻子さんの「まんこの型取り」をお願いし、志麻子先生は快諾、対談後に二人になり型取りをしたという。そのまん拓はその後……。
 

逮捕のいきさつ

岩井志麻子(以下、志麻子) ろくでなし子さんが警察に屈しないのを見ていて、関心を抱いてしまって。めちゃくちゃ根性あるな、と。

ろくでなし子(以下、なし子) 私はずっと、私の作品に無理解なおじさんたちと闘ってきたんですけど、だんだん相手が強大になってきて、最終的には国になってしまった。

志麻子 私はもちろん逮捕されたことはないんですけど、私だったら1日でへこたれるだろうな、と。


撮影:高橋裕大

なし子 私は子どももいないし、会社員とかでもないし、何の責任もないから大丈夫なのかもしれません。

志麻子 えっ、そうなんですか。私だったら、警察なんかで取り調べを受けたりしたら絶対にもたないです。1日で落ちるわ。

なし子 先生のほうが逆セクハラしちゃうんじゃないですか?


撮影:高橋裕大

志麻子 男前の刑事に「ちんこ見せてごらんよ」とか(笑)。男前の刑事なんていましたか?

なし子 刑事の中には1人ぐらいイケメンもいたんですよ。その人が「これは五十嵐さん(ろくでなし子さんの本名)のアソコですか」って。まんこって言えないんですよ。それがちょっと可愛かったんですけど(笑)。

志麻子 それは一種のプレイですよね(笑)。

なし子 しかも、そう聞いたのが先生のまんこのことだったんですよ(笑)。

志麻子 それはめちゃくちゃ嬉しいです(笑)。


イラスト:ろくでなし子

さげまん? あげまん? 志麻子まん

なし子 本当に先生がまんこの型をとらせてくださったのには感動しました。

志麻子 まあ、減るもんじゃないので。まん拓とられるなんて、生まれて初めての経験じゃないですか。私、さげまんで評判だったんですけど、女にもさげまんが効くと思わなかった(笑)。

なし子 あの逮捕ですごくバブルになって、認知度も高まって。ついでに彼氏もできたんですよ。

志麻子 それはよかったですね。逮捕開運術っていう感じで(笑)。

なし子 本当に警察のおかげですね。志麻子先生のは国宝級のまんこですから壊れたりしたら困るので、自分で複製をとったんですよ。それで石膏の水分を飛ばすために下に紙を敷いて、窓際に置いておいたんです。それを見て、刑事が「これ五十嵐さん(私の本名)のですか」と言ってきて(笑)。その時、先生に迷惑がかかってはいけないと思ったので必死に「私のまんこです!」って言い張って。私のはビラがないので形状が若干違うんですけど。

志麻子 そこで実際に「見せろ」って言われたら、どうなるんですかね。それで違っていたら偽証罪とか(笑)。

なし子 でも警察は、私が整形した時に記念に撮った術前・術後の写真をお見合い写真風に加工したものも持っていっちゃったんですよ。どんだけ変態だよ、と思うんですけど。

志麻子 それを見ながら、会議とかしてるんですかね(笑)。指紋を付けないように手袋をしてそーっと出してきて。でも、警視庁に私のまん拓があるわけでしょう。いっそのこと、息子に返還訴訟を起こさせようかなと。「俺の故郷を返せ」って(笑)。

なし子 釈放されてから、『5時に夢中!』(TOKYO MX)で、先生が「私のあそこもあるらしい。返せ!」って言ってくださっていたのを知りました。これは泣きそうになるぐらい嬉しかったですね。

志麻子 私が「まんこ返せ!」って言っているところを、西原理恵子が漫画にして。

突然の逮捕

志麻子 逮捕っていうのはなかなかないですよ。でも人生、何が起こるか分からないから。ろくでなし子さんだって、まさか自分が逮捕されるなんて思わなかったでしょう。

なし子 そうなんです。だからあいつらが来た時、単に何か調べに来たのかなと思って。「今日この後、友達とペルー料理を食べに行くから早く帰ってほしいな」ぐらいに思ってたんですよ。同居人もまさか逮捕されるとは思ってないから、途中までは一緒にいたんですけど「俺、仕事があるから先に行くわ」って言って出て行っちゃって。携帯も取り上げられちゃったので、私が逮捕されたことを誰も知らなかったんですよ。手錠と腰縄をかけられて、小岩警察署に連れていかれて。まるで凶悪犯みたいで。

志麻子 私の知り合いで、ちょっと喧嘩して逮捕されたことがある男によると、手錠ってすごい威力があるらしいですね。かけられた瞬間に抵抗する気がなくなって、へにゃへにゃになっちゃうらしくて。ろくでなし子さんはどうでしたか。

なし子 「じゃあ」って言って逮捕状を見せられて手錠を取り出された時、そこでやっと「ああ私、犯罪者にされたんだ」と思ったんですけど。その半面、「これはすごいネタになるかな」とも思って、今から起こることは全部覚えておかなきゃと。逮捕されたショックとネタができた興奮が同時に来て、どっちで震えてるのかよく分からない状態でした。

志麻子 私も「これは!」ということが起こると「ネタになるな」と思いますよ。でも腰縄かぁ。それはいまだに経験ないですけど。

なし子 むしろ、だんだん楽しくなってきちゃって。私も腐っても漫画家というか、「これをネタにして漫画描けるわ!」と思って。

志麻子 7月に逮捕された時は、わりと早くに釈放されましたよね。「これで終わったんだな」と思ってたんですよ。ものすごく申し訳ないんですけど、私としても「これはテレビで喋れるな」と思って。西原理恵子ちゃんに「こんなことがあったんや」って言ったら、「やっぱり志麻子ちゃんは、引きが強いよね」とか言って喜んでたんですけど。でも私は、2度目の逮捕のほうがびっくりしましたね。
 私が捕まるとしたら、何だろうなと思って。わいせつなものを書いて小説家が捕まったというのは、聞いたことがないし。野坂昭如さんの「四畳半襖の下張」事件とか澁澤龍彥さんの「悪徳の栄え」事件とか、過去に警察沙汰になった例はいろいろあったけれども、今は何を書いてもOKというか。だから、捕まるとしたらセクハラですかね。新年会で、若い童貞のADくんに私が無理やりチューをしたんですよ。これはセクハラになるかどうか弁護士さんに聞きに行ったら、「もし彼があなたのことを訴えたら、罰金40万円ぐらいになるでしょうね」って言われて。私が捕まるとしたら、そっち系かなあ。

なし子 警察の人たちって真面目だから、恥とか外聞を気にするじゃないですか。だから自分たちにとっての恥が、先生や私にとっては面白さになるということが想像つかないのではないかと。

志麻子 だいたいピーポくんだって「いい加減お前、変態だろうが!」っていう感じですよね。全裸にガンベルトしてるんだから(笑)。よくこれを表に出すよなと思って。

なし子 本当ですよね。ピーポくんの家族ってみんな下は何も穿いてない(笑)。

志麻子 とにかく日本の警察って、訳が分からないですよね。

── 裁判の争点は作品がわいせつなのか否かという点ですかね。

なし子 そうですね。今回は3件の罪で起訴されちゃったので。まずクラウドファンドでまんこボート(マンボート)をつくったんですが、その場合リターンが必要なんです。そこで3000円以上募金してくれた人にたいして、お礼として3Dまんこデータをプレゼントするという条件で、その人たちに3DまんこデータをダウンロードできるURLを送りました。


マンボート  撮影:櫻井泰士朗

ちなみにそのデータ自体は、専門のソフトがないと開けない(わいせつ電磁的記録等送信頒布)。あと、新宿眼科画廊というところで個展を開いたんですけど、その時10 センチぐらいに縮小して、飾れるミニチュアのまんこボートをつくったんです。そのボートはこのデータで作ったのです、これであなたも何か作ってみてくださいという願いをこめて、まんこの3Dデータが入ってるCDをおまけで付けて販売して。それが2件目の罪です(わいせつ電磁的記録記録媒体頒布)。あともうひとつは、ラブピースクラブで「デコまん」を展示していたという罪ですね(わいせつ物陳列)。

ちんことまんこの表現の不均等

なし子 私はずっとネット上で罵詈雑言を浴びせられていて。弁護士に相談したら、アメリカのツイッター社にその人の情報を開示するよう請求することはできると言われて。それで昨日「情報開示を請求することにしました」とリプライしたら、さんざん「死ね」とか送りつけてきていた人が「すみませんでした!」って言ってきて。とにかく、みっともないぐらい平謝りで。だからツイッター社をかますまでもなく、問題が解決してしまって。馬鹿じゃないの、と思って。警察なんて当てにならないから、訴訟に持っていったほうがいい。

志麻子 ろくでなし子さんを攻撃する男の気持ちが、よく分からないんだけど。要するに右翼、ということなのでしょうか。

なし子 どうも今までの価値観みたいなのを壊されたくないみたいなんですよ。

志麻子 それまでは、薄暗いところで布団をめくって見ていたから(笑)。

なし子 俺たちのまんこを汚すな。面白くさせるな、みたいな。
 今回、志麻子先生と西原先生お2人にありがたいお言葉(帯推薦文)をいただいて。ずっと私、お慕い申し上げていたので本当に嬉しいです。こんな関わりが持てて、警察に感謝したいぐらいです。

志麻子 西原さんはまんこ発言で『5時に夢中!』を降板しましたから。まんこ発言で降板したのは、日本で彼女だけじゃないかと。

なし子 松本明子さんもラジオで言ってましたよね。でもテレビでは西原先生が初めてだったんですね。

志麻子 西原さんがまんこ降板した時、「岩井は毎回ちんこって言ってるのに降板にならない。なんで西原は1度まんこと言っただけで降板になるのか。これは男性差別なのか、それとも女性差別なのか」ということで論争が起こって。
 かねがね不思議なのは、ちんこ・まんこという言葉の差で。たとえば、セックスのことを「まんこした」とは言うけど、「ちんこした」と言わない。

なし子 おまんこというのは、セックスの別称にもなってて。

志麻子 よく考えたら、まんこは「お」を付けたらおまんこになるけど、おめこの場合、「お」を取って「めこ」とは言わない。

なし子 江戸時代に「おまんこ」が「汚門戸」と表記されたようで、江戸時代に生まれた蔑称みたいですね。

志麻子 みんなそこから出てきたのにね。丁寧な「御」じゃないのかよと。

なし子 ここに来るまでにアメリカ人と話してたんですけど、まんこのことをキリスト教的に表現するとroot of all evil(諸悪の根源)となるらしくて。

志麻子 処女が生んだなんて嘘に決まってるでしょと。そんなわけないでしょ! ってね。ギュスターヴ・クールベの『世界の起源』という、まさに女性器のみをドカーンと書いてある有名な絵がありますよね。あの絵には「世界の始まり」っていういいタイトルが付いてるのに。

なし子 あれは本当にいいタイトルですよね。

志麻子 私はホラーを書いてますけど、心霊現象に関しては半信半疑なんですよね。だからガチガチに信じてはいないんですが、この世には不思議なことや説明のつかないことがあるんだろうなとは思ってて。私はオカルト現象に関しては中庸というか、どっちつかずの立場をとってるんですよ。オカルトとわいせつについては、語りたい人はすごく語りたいし、そこで訳の分からない攻撃をしてくる人には悪と見なされる。オカルトとわいせつというのは、そういう面ですごく似てるなと思って。

なし子 UFOを信じる人と信じない人がいて、そこで論争が起こるようなものですね。

志麻子 そこで攻撃してくる人は、自分の足元が揺らぐのが嫌なのかな。

なし子 先生の『現代百物語』(角川ホラー文庫)を読んでいて思ったんですけど、本当に怖いのは幽霊じゃなくて人間ですよね。

志麻子 取り締まる側の警察ではなくて、「許せん!」みたいな感じで攻撃してくる人にすごく興味があって。彼らの憎しみの根源って何なんだろう。どうして笑えないのかな。
 なんで笑って面白がるという方向に行かずに、「このあばずれが!」みたいに攻撃してくるのか。

なし子 そういう人は1度、私のつくったものの作品名を朗読してみたらいいんですよ。全部ダジャレにしてるので。たとえば「レディー・ガガまん」とか「まんボート」とか、「iPhoneが入らないiPhoneカバーまん」とか、「草間彌生にオまーんジュまん」とか。あとは「フクシまん」とか。


戦場まん  提供:新宿眼科画廊

志麻子 パロディというものを、絶対に許さない人がいますよね。

なし子 むしろああやって、福島の問題をタブー視するほうがおかしいですよね。検事にも「こんな作品をつくって、不謹慎だと思わないんですか」とか言われて。そこで「原発事故があったことを忘れてはならないのに、言うのを避けるほうがおかしい。福島の問題はまんこの問題に似ている。だから作品にしました」と言ったんですけど、全く理解されませんでした。

わいせつの基準って何?

志麻子 西原がキャッキャ大喜びしたのは、2度目の逮捕の時に警察が「特にわいせつなものが3点あった」と言ったことで。「これ絶対、志麻子ちゃんのだろう」って(笑)。

なし子 でも先生、残念ながらそうじゃなかったんですよ(笑)。

志麻子 そうなんですか。軽くショックです(笑)。私はてっきり、自分のだと思い込んでいて。理恵子ちゃんも「あなたのでしょ」って(笑)。

なし子 その特にわいせつな3点というのは、「えっ、これが?」と思うようなものなんですよ。チョコレートみたいにデコレーションしたスイーツまんとか。

志麻子 刑事さんに、わいせつの定義を聞きたいわ。

なし子 先生、本当にすみません。警察に文句言っておきます(笑)。

志麻子 さっぱり分からない。それを見たら勃起しちゃう人とか、いたんですかね。

なし子 刑事の「これはわいせつです」みたいな検分書を見せられたんですけど、そこにはさっきのスイーツまんについて「女性器の詳細露骨な形状と認めたので、本官はわいせつであると判断した。以上」とか書いてあって。これを見て成年男子がどのぐらい勃起したとか、何ミリリットル精液が出たとか、そういう科学的な根拠があればまだ分かりますよ。でもそういうことを示す資料は一切なくて、ただ「女性器の詳細露骨な形状と認めたので、本官はわいせつであると判断した。以上」って書いてあるだけで。今、手元に刑事訴訟記録が全部あって。いろいろな関係者の供述調書とか、警察が私のまんこのデータをプリントアウトしたものとかがあるんですけど、すべてが壮大なギャグで(笑)。これ、全部公開したいんですけど、公文書なのでそういうことができないんですよ。でもこれ、一種のアートだと思うんですけど(笑)。

志麻子 300年後、私のまん拓が大英博物館でホープダイヤモンド(マリー・アントワネットを死に追いやったダイヤモンド)と一緒に「呪いのさげまん」として展示されるのではないかと(笑)。そういう光景を夢見てるんですよ。今まで警察について、こんなにいろいろなことを考える機会はありませんでした。(2015.4.2)


撮影:高橋裕大

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2015年5月22日更新

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岩井 志麻子(いわい しまこ)

岩井 志麻子

1964年、岡山県生まれ。『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店刊)で第6回 日本ホラー小説大賞、2000年には同作品で第13回 山本周五郎賞。第2回 婦人公論文芸賞を受賞した『チャイ・コイ』(中央公論新社刊)は2013年12月に川島なお美主演で映画公開。『5時に夢中! 』(東京MXテレビほか )木曜レギュラー出演。また、渋谷ユーロスペースにてトークイベント『韓流アフタヌーン〜岩井志麻子の秘密の昼下がり〜』を、5月8日(金)より3カ月連続で開催。詳細はhttp://eurolive.jp/

ろくでなし子(ろくでなしこ)

ろくでなし子

Rokudenashiko 漫画家。本名・五十嵐恵(Megumi Igarashi)。まんこ(女性器)をモチーフに作品を作るアーティスト。2013年秋、まんこを3Dスキャンし、そのデータでマンボートを制作、多摩川にて進水を果たす。その制作費用に利用したクラウドファンドで、出資者へのお礼に3DデータをダウンロードできるURLを送信したことなどが要因で、2度にわたり逮捕される。2014年10月東京デザイナーズウィークのTDWアートフェアにて前期準グランプリ受賞。2015年3月米国ニュースサイト「artnet news」にて“社会のタブーを打ち破る10人の女性アーティスト”に、同月、イギリス“LIBERTINE選アーティスト100人”に選ばれる。2015年4月、『ワイセツって何ですか?──『自称芸術家』と呼ばれた私』(金曜日)刊行。同年4月15日初公判。Official Website http://6d745.com/

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