piece of resistance

24 スキャンダル

なんでそんなことにこだわるの? と言われるかも知れないが、人にはさまざま、どうしても譲れないことがあるものだ。奥様とは言わない、本に書き込みはしない、ご飯は最後の一粒まで食べる、日傘は差さない……等々。それは、世間には流されないぞ、というちょっとした抵抗。おおげさ? いやいや、そうとは限りません。嫌なのにはきっとワケがある。日常の小さな抵抗の物語をつづります。

 この度の報道を受けまして、私の雇用主である飯塚よしはる衆議院議員より誠意ある対応を求められましたため、このブログにて私の思うところを述べさせていただきます。
 確かに私は妻子ある身で人妻と一夜を共にしました。
 弁解は致しません。浮気と言われれば浮気、不倫と言われれば不倫です。
 白か黒かと問われれば、黒です。
 真っ黒けっけです。

 居直っているわけではございません。かえって潔い、なる賛辞を期待しているわけでもありません。ただ事実を事実として申し上げているのみです。どうせ大した事実ではありません。
 無論、妻と子供たちには大変申し訳のないことをしましたし、もしも許されるならば、今後も半永久的に謝罪と償いの日々を重ねたく思っています。
 しかし、私にはなぜ世間の皆さんが、私という個人の性行為にそこまで関心を抱かれるのか理解できないのです。

 いえ、皆さんの関心のポイントは、私が行きつけのバーで知り合い一夜を共にした相手が、私の雇用主の政敵である野党議員の奥方であった点にある、というのは重々承知しております。何かしらの理由でやけっぱちになっていると思われる奥方の暴露に身をさらされた今は、自らの軽率さと愚かさをひしと痛感しております。
 しかし、私には彼女と自分との間に起こったことが、これほど皆さんをお騒がせするほどの代物であったとは思えません。

 或いは、私はセックスを過小評価しているのかもしれません。たかだかセックス、されどセックスとお考えの方も多くおられましょう。だからこそ世間は著名人の不倫でいちいち騒ぎ、血眼になって「やったか、やらないか」を追及しようとするのでしょう。
 しかし、私個人の嘘偽りのない実感からしますと、私と彼女が致した一夜限りのセックスは、一夜限りのセックス以外の何物でもございません。仮にそれが二夜であろうと三夜であろうと、性行為を核とした他者との関係性に、私は人がぎゃあぎゃあ言うほどの価値を見出せないのです。

 逆に言いますと、「セックスをした」以上に価値のある他者との関係が、この世にはごまんとある。

 例を挙げてみましょう。
・幼稚園児の頃、シーソーの上で結婚を誓いあった。
・小学生の頃、十年に一度しか咲かない花の開花を一緒に見届けた。
・中学生の頃、交換日記を二週間続けた。
・高校の頃、七人で組んだバンドのメンバーが次々と抜けていき、最後は二人きりになっても解散しなかった。
・大学時代、互いに一発ずつ殴りあってから肩を抱きあって笑った。
・大人になってから映画「シンゴジラ」を一緒に五回も観に行った。
・駅のホームから落っこちたおばあさんを一緒に助けて表彰された。
・尊敬するアーティストが死んだ日、一緒に泣いた。
・マンションの玄関先にある花壇を、互いに誰なのかわからないまま一緒に世話している。
・銭湯で初対面の相手と背中を流し合った。
・一杯のかけそばを分けあった。
・同じ日に同じ産婦人科で生まれた。
・ドミノの世界記録に一緒に挑戦した。
・日本一行列の長い和菓子屋に三時間半並んだとき、すぐ前に並んでいた。
・同じ英会話教室で、「キャサリン」「マイケル」とかれこれ五年以上も呼び合いつづけている。
・これまで十回以上、夢に登場した。
・システムの不都合で成田上空を五時間近くもぐるぐる旋回しつづけた旅客機に同乗していた。
・船釣りの最中に船が転覆し、同じ相手に人工呼吸をされた。
・結婚から九年間、毎朝「おはよう」と言い合いつづけている。

 これらはほんの数例にすぎません。
 私にとってはまだまだ「>セックス」な人との関係が無限にある。
 これら味わい深い絆に比べ、性だけの繋がりがいかに脆くはかないものか。ただ挿れて出すだけじゃないか。そんなもんのために職も家族も社会的信頼も、すべてを失いかけている今の私は「鼻くそ>セックス」とすら思うのです。
 せめて大事なもののために大事なものを失いたかった。

 最後に、人のプライベートをあることないこと書き立てるのは仕事だから仕方がないのかもしれないが、私の名前を出す際、いちいち枕詞に「三つ子のパパ」を付けるのだけは勘弁してほしい。三つ子は関係ない。
                        飯島よしはる衆議院議員秘書 安田真

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