ちくま新書

恐竜の最新研究成果と雄姿を、迫力のイラストで再現

子どもの頃に胸をときめかせた恐竜を思い出してみませんか。ちくま新書3月刊『大人の恐竜図鑑』の冒頭を公開します。

恐竜時代は白亜紀、ジュラ紀、三畳紀

メガロサウルスMegalosaurus bucklandi)ジュラ紀中期、ヨーロッパ、全長8メートル。最初に発見された恐竜にして最初に見つかった肉食恐竜でもある。場面は竜脚形類ケティオサウルス(Cetiosaurus)の若い個体に襲いかかるところ
 恐竜とはなんだろうか? この問いの答えはメガロサウルスとイグアノドンが握っている。最初に発見報告された恐竜がメガロサウルスであり、次がイグアノドンだ。だからこの二つの動物を含むグループが恐竜なのだと理解すれば良い。メガロサウルスはジュラ紀の肉食恐竜で尻尾を含めた全長は8メートルぐらいだった。イグアノドンは白亜紀の植物食恐竜で、尻尾を含めた全長7メートルぐらいである。
イグアノドンIguanodon atherfieldensis)白亜紀前期、ヨーロッパ、全長7メートル。白亜紀に入ると大型化した鳥盤類が目立つようになる。イグアノドンは前足の親指がスパイクになっていることが特徴

 メガロサウルスは肉食恐竜で、その祖先をさかのぼると2本足で歩き回る小さな動物に行き着く。一方、植物食動物であるイグアノドンの祖先をさかのぼると、これも2本足で歩き回る小さな動物に行き着く。どちらの祖先も、いた時代は三畳紀。どうやら恐竜は、三畳紀にいた小さな2本足の動物から進化したようなのだ。さらに恐竜の祖先は雑食であったらしい。そこから肉食種と植物食種が進化して、さらにそれぞれ巨大化したというわけだ。恐竜のこうした進化を身近な動物でたとえるのなら、小さなキツネを祖先として、巨大なライオンとシマウマがそれぞれ進化したようなものである。そしてこの進化にかかった時間はだいたい5000万から1億年だった。
 ちなみに白亜紀、ジュラ紀、三畳紀という言葉が出てきたが、これをちょっと説明しよう。恐竜の化石は地層から見つかる。地層は典型的には水底に土砂が積もることでできる。積もる土砂は時代によっても季節によっても日によっても違う。ある時は砂であり、ある時は粘土だ。こうした土砂の違いが層になる。だから地層だ。地層を知ることは土木工事において重要だ。悪い地層を掘れば崩落、陥没といった事故が起こることはよく知られていよう。
 この地層の有様を知る手がかりになるのが化石である。なぜなら、地層によってそこに含まれる化石の種類が決まっているからだ。化石を調べれば地層が分かるし、化石研究とは土木工事の基礎である。

アパトサウルスApatosaurus louisae)ジュラ紀末、北アメリカ、全長18メートル。アパトサウルスは首の長さだけで6メートル。首は自在に動き左右それぞれ4メートル高さ6メートルの範囲の植物を食べることができた。かつては「ブロントサウルス」の名で親しまれたが、名前が変わってしまったのには、とある困った事情があった(詳しくは、本書にて)

 さて、地層は土砂が堆積したものだ。すると原則的には下が古くて、上が新しいことになる。つまり化石に基づいて把握した地層を、今度は年代別に把握することが可能になる。こうして把握された時代が白亜紀、ジュラ紀、三畳紀である。一番古い時代が三畳紀だ。次がジュラ紀、そして白亜紀である。これらの時代は地層に含まれる化石、ひいては当時栄えた古生物によって特徴づけられる。
 例えば2億5200万年前に始まる三畳紀は爬虫類が地上の覇者となった時代であり、まずワニが栄えた時代だ。恐竜は当初、小さな動物で目立たなかったが。やがて大型化を始め、ワニたちの地位を脅かし、ついにはワニに取って代わった。つまり三畳紀は恐竜時代の始まりだ。 

 
アロサウルスAllosaurus fragilis)ジュラ紀末、北アメリカ、全長8メートル。ステゴサウルスに突進するアロサウルス。アロサウルスは首の力を使って上顎の歯を相手に叩き込んで切り裂く狩りを行ったと考えられている

 

(イラスト左)始祖鳥Archaeopteryx lithographica)ジュラ紀末、ドイツ、全長30cm。最古の鳥にして最初の鳥である。飛翔力が弱く離陸するには走る必要があっただろう                         (イラスト右)コンプソグナトスCompsognathus longipes)ジュラ紀末、ドイツ、全長70cm。古典的に手の指は2本と言われてきたが、実際には3本のようである

 続くジュラ紀は恐竜が大型化を極めた時代である。ブラキオサウルスやアパトサウルスが登場し、アロサウルスやメガロサウルスのような巨大肉食恐竜が栄えた。ジュラ紀は恐竜から鳥が進化した時代でもあった。

ヘテロドントサウルスHeterodontosaurus tuki)ジュラ紀前期、南アフリカ、全長1メートル。初期の鳥盤類である。鳥盤類は目の前方に眉のような骨があるので概して目つきが悪い。鋭い牙とカギ爪を持つためにどんな生活をしたのか議論が絶えない鳥盤類である。ここでは雑食として復元している。捕まっている哺乳類は、メガゾストロドンMegazostrodon)。近縁種の化石からするとヘテロドントサウルスは尻尾の中ほどに長い毛が生えていたようである

 次の白亜紀はイグアノドンの仲間が栄え、ティラノサウルスが現れた時代だ。そしてこの白亜紀の終わり6500万年前に巨大隕石が地球にぶつかり、恐竜は鳥を残して滅びさるのである。恐竜時代は、ほぼ2億年の長きに及ぶ。

 

ティラノサウルスTyrannosaurus rex)白亜紀後期、北米、全長12メートル、最大で13メートル。逃げるエドモントサウルスに追いついた場面。ティラノサウルスは口蓋、頭蓋、歯が頑丈で相手を力任せに食いちぎる狩りをしたようである。ティラノサウルスは肉食恐竜の代表と思われているが実際にはかなり特異であり典型例とはとてもいえない存在だった

 これが恐竜とその歴史のあらましだ。ただ世間一般の人が抱いている恐竜とはこういうものではないだろう。一般的に恐竜というと巨大な翼で大空を飛行するプテラノドンのごとき翼竜、あるいは大海原を泳ぐイクチオサウルスのような魚竜、長い首を持って魚を追うフタバスズキリュウのような首長竜、さらにはウナギのごとき異形の巨体をひるがえすモササウルスを思い浮かべるだろう。だが厳密に言うと、これらの爬虫類は恐竜ではない。この中で恐竜に一番近いのは翼竜で、足の作りがそっくりだ。しかし翼竜は恐竜そのものではない。

プテラノドンPteranodon longiceps)白亜紀後期、北米、翼開長最大で7メートル、多くは3メートルぐらい。海に覆われた白亜紀のカンザス州を飛ぶプテラノドン。色は分かっていないがここでは生活が似たアホウドリのように白っぽく描いている

 魚竜はどうかというと、これは骨格が特殊化しすぎていて、立ち位置が今ひとつはっきりしない。しかし、魚竜が恐竜でないことは確かだ。そして首長竜はトカゲに近い爬虫類で、モササウルスはトカゲそのものである。

(イラスト上)クロノサウルスKronosaurus queenslandicus)白亜紀前期、オーストラリア、全長12メートル。エロマンガサウルスの発見によってクロノサウルスが他の首長竜を食べていたことが明らかとなった        (イラスト下)エロマンガサウルスEromangasaurus carinognathus)白亜紀前期、オーストラリア、全長9〜10メートル(?)。古典的には、Woolungasaurus あるいは Tuarangisaurus と呼ばれていた。見つかった化石は頭をクロノサウルスにかみつぶされていた

 このように翼竜、魚竜、首長竜、モササウルスは恐竜ではない。しかし世間一般的には恐竜扱いであるし、恐竜と共に栄えた大爬虫類たちである。科学的には恐竜ではないが、認識論的には恐竜なのだと言えばよいか。そこでこの本ではこれらの爬虫類も紹介することにした。実際、翼竜、魚竜、首長竜、モササウルスたちが載っていない恐竜の本など、科学的には正しくても、認識論的にはインチキも良いところだろう。サウロスクスのようなワニ、キノグナトスのような哺乳類の仲間も登場するが、これも同じ理由だ。

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大人の恐竜図鑑 (ちくま新書)

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