この情報はどこから?

第9回 
「Yahoo!ニュース」は誰が書いているの?

1日4000本のニュースが集まる日本最大規模の「Yahoo!ニュース」

 日本最大級のポータルサイト、ヤフー。トップページには、常に最新のニュースが並んでいます。少し前のことですが、高校生に聞かれたことがありました。「ヤフーのニュースは、ヤフーの人が書いているんですよね?」。残念ながら、違います。

 ヤフーニュースには、新聞やテレビ局、雑誌、ネットメディアなど、あらゆるメディアが発信したニュースが掲載されています。その数、1日4000本。メディアの数は350というから、本当に驚きます(2018年3月現在)。中には、ヤフーが社内で編集した記事なども掲載されますが、基本的にはメディアから記事の配信を受けます。

 あれ? 4000本も記事が掲載されてたっけ?

 ヤフーニュースを見たことのある人なら、疑問に思うかもしれません。実は、皆さんが真っ先に思い浮かべるのは、ヤフーのトップページに並ぶ「ヤフー・ニュース トピックス」(以下、トピックス)でしょう。ここには常に8本のニュースが掲載されています。ニュースはその時の状況で入れ替えが行われ、1日でだいたい80本から90本、多い日は100本ほどになるそうです。

 では、4000本の記事の中から、トピックスに掲載する記事を誰が選んでいるのでしょうか。ヤフーには、ニュースの目利きである編集者が25人もいます。彼らは各メディアから配信されてきた膨大な数の記事から、これはトップページに載せて多くの人に読んでもらうべきだと思う記事を判断し、トピックスに掲載するのが仕事です。その際、記事にはトピッククス用の見出しを新たにつけます。見出しの文字数は最多で13.5文字。たった13.5文字で記事の内容を的確に伝えるには、熟練の技が必要になります。

 たとえば、今、この原稿を書いている時、「次男急死 北島三郎が会見で涙」という見出しの記事がトピックスに載っていました。クリックして記事のページを開くと、「次男急死の北島三郎、緊急会見で涙『本当に……。眠っているよう』」という、配信元であるスポーツ報知がつけた見出しを見ることができます。

メディアごとにスタイルが異なる「見出し」

 当たり前のことですが、どんなメディアのどんな記事にも全て「見出し」がついています。この記事には何が書かれているのか、内容をコンパクトに伝えるもので、見出しを読めば、そのメディアが何を伝えようとしているのかわかる一方、メディアごとにそのスタイルは異なっています。

 歴史のあるメディアである新聞には、必ずといっていいほど、記事を書く記者とは異なる「整理記者」が存在します。新聞の紙面に記事をどうレイアウトするか考え、記事の内容に沿った見出しをつけるのが仕事で、ちょっとヤフーの編集者に似ているかもしれません。新聞の見出しは、大きな記事だと2本から3本もつけられることがあります。

 先ほどのスポーツ報知の例でいえば、「次男急死の北島三郎、緊急会見で涙」「本当に……。眠っているよう」というような感じで、見出しを何本かに分けてレイアウトされるかもしれません。つまり、新聞の見出しの情報量は、トピックスに比べて、それなりにあります。ニュースには「誰が何をした」という大事な構成要素がありますが、記事の必要最低限の要素を残しつつ、記事の重要性を伝える見出しが、ヤフトピには使われているわけです。

 また、トピックスの特徴を他の視点からも見てみましょう。新聞では、最も大事だと思われる記事を紙面の右上に配置します。俗に「トップ」もしくは「頭」といわれるものです。その反対側、左上の記事はだいたい、二番手の記事が載っています。これを「肩」と呼びます。新聞の紙面は縦長ですので、真ん中に見栄えのする、大きな写真が入った記事を配置することが多いのですが、これを「ヘソ」といい、真四角や長方形にレイアウトされる場合は、さらに「箱」といいます。一面から社会面まで、新聞の紙面は基本的にこの構成でレイアウトされます。

 新聞を読み慣れていないと、一見複雑そうですが、一度覚えてしまえば、とても便利なルールです。なぜなら、トップと肩、その他の記事では歴然とした「序列」があり、重要度が違ってくるからです。忙しい時にはトップ記事さえ読んでおけば、なんとなく世の中の流れが摑めました。

 ところが、ネットに流れてくる記事は並列化されてしまいます。大抵のメディアのサイトでは、上からどんどん新しい記事が配信され、古い記事は下に流されていきます。「序列」よりも「時系列」で、記事はサイト内に配置されることが多いのです。これでは、一体、どれが重要なニュースなのか、どこに世の中の流れがあるのか、摑みづらくなってしまいます。

 ましてや、ヤフーのような巨大なポータルサイトに配信される4000本の記事の中から、自らニュースを選んで読むのは、時間も手間もかかります。そこで、トピックスのような厳選されたニュースがトップページにいつでも並んでいるのは、ユーザーにとっては利便性の高い仕組みなのでしょう。

 私はニュースを読んだり、情報を取得することは、食事に似た行為だと思っています。自分の中に取り入れたものが、やがて頭の中で「栄養」となって、思考を生み出します。その「栄養」が十分な質や量を保っていなければ、まともな考えは浮かばないのではないでしょうか。ただ、ネットでは玉石混淆の情報が大量に流れ、栄養価の高い情報を得ることがとても困難です。そんな時、たとえばトピックスを半日に一度、見るだけでも違います。今、世の中で何が起きているのか、ヤフーの目利き編集者たちが選りすぐった、ある程度の確度が保証されたニュースを見ることができるのです。

 トピックスは1998年に誕生以来、その見せ方を大きく変えていないように見えます。それだけ、人々のライフスタイルに馴染んだものになっているのでしょう。次回は、今や最も影響力のあるニュースの発信源のひとつであるヤフー・ニュース トピックスがどのように運営されているのか、お話ししたいと思います。

 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。
 

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