荒内佑

第18回
電線の上でぼくらは出会うべき

今、注目のバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、<日常>とそこに流れる音楽の話を綴る大好評の連載が公開中です。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。

 
 夜中に散歩をしていると色んな発見がある。知らない道だったり、100円自販機や、思わぬ場所に公園を見つけたりする。人通りが少なかったら外観が気になる家を観察するのも面白い。ちょっと前に散歩をしていたらまだ人が住んでいない4棟の集合住宅をみつけた。共感を得られるか分からないが、こういった建設中~入居者募集中の建物にそそられる。ぼくは真面目な善人なので外から眺めるだけだが、そういったものを見つけると引き寄せられてしまう。ぼくの友達で解体中の家が好きだという奴がいて、彼は夜中に写真を撮りにいったりするらしい。親戚のようなタイプなので気持ちは分かる。断っておくが廃墟は普通に怖いのでスルーする。


 今は眺めるだけでも、子供の頃は中に入ることがよくあった。世間で言う不法侵入だが、もちろん全て時効である。作りかけのマンションの一室や、友達が引っ越していったばかりの空き家に突入してみたり(なぜか鍵がよく空いていた)、猫みたいに住宅街の塀の上を歩いて探検したりする。この「猫みたいなやつ」は小学生の時、本当にハマっていた。別に他人の家の中を覗きたいわけではなく、純粋に冒険として楽しんでいたが不可避的に人様の家の中が見えてしまう。お風呂に入っているおばあちゃんや、自宅からものすごい近所なのに一度も会ったことがない人、つまり身体的な理由で外出出来ない人のことだが、色んな人がいた。漫画みたいな話だけど、ホウキを持って怒り狂うジイさんに追いかけられたこともある。こういう遊びばかりしていると、例えばハトやスズメにとって電線や電柱が止まり木であるように、カラスにとって人間のゴミ捨て場がエサ場であるように、自分が住んでいる町の成り立ちが違って見えてくる。あそことあそこの塀が繫がっていて、この家の壁を登るとあそこの家の駐車場に出るな、とか。実際、塀の上で野良猫と鉢合わせするなんてのもしばしばだった。


 夜の学校のプールもご多分に漏れず侵入した。そのプールは3階建て体育館の屋上にあって、壁に打ち付けられた避難用ハシゴを登ったのは今考えると恐ろしい。侵入好きなのは十代の間ずっと続いていた。東京の吉祥寺という街に、かつて某電気屋があってデカい立体駐車場が併設されてたんだけど、外に非常階段があってそこも友達とたまに入ったりしてた。別にワル自慢とか、自分がイケてるっていう意味ではない。だってそんなの可愛いもんでしょう。よくあることだ。それで上の方まで登ると新宿の都庁とか東京タワーとか都心の方が霞の中に見える。だからあの非常階段は登ったり下りたりするためのものではなくて夜景を見るためのツールだった。まぁ良く言えばですが。


「1979」というスマッシング・パンプキンズの曲がある。言葉は悪いけどクソガキの過ぎ去った青春、もしくは過ぎ去ろうとしている青春、についての曲。3月は卒業ソングとか桜ソングとか、今でも大量にリリースされてるんでしょうか。そのインフレによってぼくは青春アレルギーにかかりましたが、「1979」は十代の頃から変わらず好きです。あまりに有名な曲だけど、ロックなんて興味ない、聴くのはヒップホップかR&Bばっか、ていう子も気に入るかも知れない。なんとなく。もし知らなかったら聴いてみて欲しい。歌い出しはこんな感じ。

 「Shakedown 1979 / Cool kids never have the time / On a live wire right up off the street / You and I should meet」
 拙い英語力で意訳すればこうだろう。
 「1979年を捜索 / クールキッズには時間がなくて / 路上から離れた電線の上で / ぼくらは出会うべき 」

 繰り返すが自分がクールキッズだったと主張したい訳ではない。ぼくが好きなのは「電線の上で出会うべき」だ。a live wireとは生きているワイヤー、つまり電気が流れている電線のこと。説明するのも野暮だが、不法侵入とは路上の目線から隠れて行われる。自分の場合、「電線」は塀や、避難用ハシゴや、非常階段のことでもある。空き家でも、作りかけのマンションでもいい。話を寄せるなら、キッズは町や、街で、カラスや猫みたいな動物のように遊ぶんだ、ともいえる。広げ過ぎ? でも、すごく良い歌詞だ。すべての子供がかくあるべき、とかうざったいことは言わないが。


 昨日の夜、散歩がてらコンビニに行く途中で無性に「1979」が聴きたくなったので、YouTubeで検索してiPhoneのスピーカーで歩きながら聴いてみた。夜中の散歩といっても粗大ゴミ用のシールを買いに行く程度だったんだけど、少しだけ楽しい気分だった。

 

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