T/S連載開始記念対談

想像力の届かせ方を創造する(3)
演劇と小説のあいだで

気鋭の劇作家・藤田貴大さんの虚構的自伝小説「T/S」のPR誌『ちくま』での連載開始を記念して、お互いにリスペクトしあうお笑い芸人・作家の又吉直樹(ピース又吉)さんとお話しいただきました。最終回は、いまの他者への想像力を欠いた世界の中で、表現になにが出来るのか。いちばん大事にしたいことはなにかを語り合います。お楽しみください。

■許さないという暴力が許せないという矛盾

―― 又吉さんの先日のNHKでのドラマ『許さないという暴力について考えろ』とか、藤田さんの近作『sheep sleep sharp』や『IL MIO TEMPO』などは、自分の内的な表現欲を出されている一方で、いまの社会や世界に対して表現がなにが出来るかという問いを発している気がします。そのへんはお二人はどう意識されてますか。
藤田 又吉さんはドラマについてのインタビューで「街自体が不寛容だ」と言っていたり、それこそ「許さないという暴力を考えたい」と言っていたんですけど、小説を読むと又吉さんは許してないことがめっちゃありそうだと思いました(笑)。
又吉 脚本を書いたときに、最終的に判断は監督にまかせたんですけど、主人公がいろいろ経験して考えてひとを許そうと思ったあとに、大オチで公園から子どもが遊んでたボールが飛んできて当たってブチ切れるというラストだったんです(笑)。監督がそれは切ったんですけど、結局、いろんな経験をしてひとを許す気持ちになっても翌日はもう忘れてキレてしまう、それが人間だと思うんです。ただ、そのループの中で少しずつ螺旋を登っていけたらいいんじゃないのと。
藤田 小説を読んでいて、又吉さんはいろんなことをすごく解像度高く覚えていると思うんです。特に、なにかを言われて怒った記憶の鮮明さが異様で、それはもう気持ち悪いくらいのレベルで(笑)。「劇場」で出てくる天才劇作家って絶対僕のことだと自分で思ってるんですけど(笑)、これ、僕が言われていると思ったら吐きそうになりました。又吉さんに何か許せないようなことをいままで言ったかどうか、ちょっと考えたりして。それくらい、売れてないときに先輩から言われた一言とか仕事先で言われたイヤミとか、許せないと思ったことを克明に記憶しているんだなと思った。それで、社会ということで言うと、自分以外にかかわることで許せないと思ったことはありますか。
又吉 頭おかしいレベルかもしれないですけど、高校に入ったころから29歳くらいまでニュースを見られなかったんです。ニュースを見て、亡くなったひとの年齢を知ると、ほぼ自分のこととして想像してしまうんで、どんな小説を読むよりも泣けてしまって、しかもそれが毎日起こっているわけですよね。あまりにしんどくて見られなかった。社会で起こっていることを自分と関係ないものとして捉えられるようになるまでけっこう時間がかかりました。ひとの話を聞いても、真剣に聞くとむちゃくちゃ腹立ってくるくらいなんで、自分に起こった出来事はかなりはっきり覚えてます。
藤田 その話すごいですね。聞けてよかった。「火花」は「青春の痛みと挫折」みたいな紹介をされるじゃないですか。でも僕は、「いや、ただの又吉さんの「許せなかったことリスト」だろ!」と思うんです(笑)。青春なんてぼんやりした言葉じゃないですよね、あそこに書かれているのは。
又吉 そういう話にするつもりはなかったんですけど、書いてみたらやっぱり自分たちのまわりでやめていったひとたちから「飽きられてからが勝負やからな」とか言われるんです。僕、そういうのにちゃんと怒ってしまうんです。ドラマでも主人公がキレてることはほとんど僕の実体験ですからね(笑)。
藤田 ヤバい(笑)。
又吉 不寛容についての話にしましょうとディレクターと相談して、渋谷の街を歩くとイライラすることがむちゃくちゃあって、おまえが一番不寛容やんって自分でツッコんだりしましたね(笑)。だから、さっき言った大オチにしたんですけど。不寛容なひととか誰かに悪意を持っているひとを見ると、そんなことやめたらええやんと思うんだけど、彼らがまったく理解できないわけではなくて、ただ理解できるとは言いたくないんです。そいつらに、なにおまええらそうに言うてんねんと嫌われる立場を取っておきたいというか。あなたたちの気持ちわかりますよって言って、一緒になって、あいつは俺らの気持ち代弁してくれてるということにはなりたくない。一緒は一緒なんですけど、それでよしとは思ってないんです。なにかを許せないことがかっこいいとは思っていないというか。やっぱりそのへんは僕が創作する上でのプロペラになってる気はしますね。強い感情みたいな。記憶は感情とともに残りますからね。

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