遠い地平、低い視点

【第46回】アジアの時代か――

PR誌「ちくま」4月号より橋本治さんの連載を掲載します。

 平昌(ピョンチャン)オリンピックが終わりましたですね。オリンピック期間というと大体カチンと来ることが多いんですが、今回はなんか「どうでもいいや」感が強くて、「どこもかしこもおんなじ映像流してるな」で終わっちゃったようで。「日本、冬季で最多の金メダル!」という騒ぎ方を見ても、「昔から、金メダル取ると大騒ぎだったなァ」と思うくらいですね。
 なんでこんなにも気乗り薄かという、第一はアレですね。北ですね。始まってしばらくは、「あの人はなに考えてんだ?」と韓国の大統領の顔が頭に浮かんで、焦点が合わなかった。そりゃね、目的を隠し持った暴力団の方が交渉事はうまいでしょうね――というようなことを考えていて、「オリンピックも変わって行くんだな」という気がした。
 冬季オリンピックの競技って、普通の靴じゃだめでしょ。スケート靴にスキー板やスキー靴って、金持ちの子じゃないと買えないからなァと、私は昔の人だから思う。夏のオリンピックだと、暑い地域の国も寒い地域の国も普通に参加出来るけど、冬季オリンピックだと、どうしても欧米高緯度の国が有利でね、そこら辺若干問題じゃないかという気もする。スケートリンクならボーリング場並みに屋内に作るのも可能で、昔は新宿の歌舞伎町の映画館ビルの最上階にスケートリンクがあったけど、バブルの時期ならいざ知らず、スキーする山を平地に持って来ることも出来なくて、日本人選手の出身地も北海道とか長野とかに限られちゃう。日本には他にも「雪国」と言われる地域はあるけど、長野県や北海道は、近代化の初めの段階で西洋文化が率先して入って行ったような地域だから、やっぱり冬季オリンピックには有利なんだろう。札幌と長野が冬季オリンピックの開催地にはなったけど、それ以外の日本の場所での開催はあまり考えられない。
 スキーなんて高緯度系の欧米に限られるというところは微妙にあるけど、不思議なのはスケートですね。スピードスケートのメダルを女子がいくつも取ったのは、「日本の若い女は元気だ」ということでもあろうけれど、男子のフィギュアスケートにやたらとアジア系が多いっていうのは、なんなんだろう? 羽生結弦に宇野昌磨、中国の金博洋(ボーヤン・ジン)にアメリカのネーサン・チェン、カナダのパトリック・チャンと、上の方はアジア系ばっかりだ。男子フィギュアスケートの流れを変えたのは、引退した日本の高橋大輔だと思うけれど、それまでの直線的な欧米男子の単調なやり方が、彼の演技でかなり変わった。演技力が問題にされるフィギュアスケートの世界で、アジア的柔軟さが大きな意味を持つようになったかなというのは、考えすぎかもしれないが、しかし平昌の次は東京、その先の冬は北京と、オリンピックはアジアばっかりだ。東京の次の夏のオリンピックはパリで、その次はロサンゼルスという予定にはなっているけれど、二つ先までのスケジュールが決まっちゃったのは、「東京の次」に立候補したのがパリとロサンゼルスしかないから、「じゃ、二つを順番にしましょう」になった。裏を返せば、もうどこも立候補を表明しない可能性が高い。どうするんだろう?
 もうこの先は、全部中国に任せるしかないんだろうか? オリンピック開催ということになれば、やたらと金を掛けて「新しい競技場を作れ」に「インフラの整備」でね。日本を含めた西洋先進国に、そんな余裕ってあるんだろうか? 日本のアジアの大阪は万博をやりたがっているみたいだけど。
 中国なんか広いんだからさ、「今度は広州、次は上海、その次は武漢でそのまた先は長春」みたいに、ずっと中国国内持ち回りにすればいいのに。「うっかりしてると大名が富を貯えてろくなことにならないから、定期的に無駄金を使う参勤交代をさせるといい」という徳川幕府の政策は、かなり参考になると思いますがね。習近平は憲法を変えて、国家主席の任期を延長する――ということは、習近平独裁を貫くつもりらしいから、その間ずっと中国でオリンピックやり続けてもいいんじゃないですかね。一帯一路政策っていうのも、考えてみりゃ「オリンピックをやり続けるための道路整備」みたいなもんかもしれないし、IOC委員なんて金でどうとかなりそうだったりもするし(妄言多謝)。
「アジアの時代」と言われて、なんかあんまり嬉しくはないですね。「欧米の専権」ということはあったと思うけれど、それがアジアに変わってどうなるんだろう? 「モノサシがなくなるんじゃないか?」という危惧がある。平昌オリンピックの駆け引きを見ていると、北朝鮮は自分に都合のいいことしか主張しない。韓国だって、日本に対して都合のいいことだけを言って、中国も同じ。
「外交とは自国に都合のいいことを言う」ではあっても、欧米的世界にはまだ「限度」というものがあった。でもアジアにはまだそれがない。どうするんだ?

PR誌「ちくま」4月号

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