ちくま文庫

ミニマリズム後を予見

『スモールハウス――3坪で手に入れるシンプルで自由な生き方』解説

『スモールハウス』(ちくま文庫)の解説を公開します。『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』著者の佐々木典士さんが、モノを最小限にするミニマリズム後を提示する本として読み解きます。

 ぼくがモノを減らして「ミニマリスト」というものになろうとしていたとき、なによりわくわくしていたのは、それを通過した後に、多様な生き方の選択肢が開けているということだった。

 持ち物さえ少なければバックパックひとつでノマドとして海外で生きることができるかもしれない。モバイルハウスや軽トラキャンパーで旅するように生活するのもいい。小さな家を建てて、そこを拠点に生活するのも悪くない。この「スモールハウス」という本を最初に読んだときも、本当にわくわくさせられた。巻頭にある小さいながらも工夫がなされた家。特にダイアナ・ローレンスの森の中に佇むスモールハウスに一目惚れしてしまったことをはっきりと覚えている。

 ぼくはミニマリストになる前、東京の狭い部屋にしか住めない自分をどこかで恥じていたのだと思う。しかしその価値観はいつしか覆され、目の前が明るくなった。小さな家は管理の手間がかからず、同居人との距離感だって近い。際限なく大きくなろうとする欲に付きそうのではなく、自分の欲が満ち足りる水準を知ることもできる。「小さな家」にも本来は誰でも認める価値があることに、実際のイメージをもって気づけたのはこの本のおかげだ。

 ぼくがモノを減らした結果、家事は簡単になり時間が生まれた。買い物に費やしていたエネルギーも節約できた。小さい部屋で家賃も少なくて済むようになったので、長時間働く必要がなくなり、会社も辞めてしまった。何より持っているお金やモノや住んでいる家で人を振り分けるヒエラルキーのようなものから自由になれた。以前の自分からすれば理想とも言える状態を体現した。しかしそれで問題は解決、一件落着ということにはならなかったのである。

 スモールハウス・ムーブメントを描いた映画「Simplife」において、ぼくがいちばん共感したのはこの本でも登場するディー・ウィリアムズの「タイニーハウスの存在は、私のなかでどんどん小さくなっている」という言葉だった。この映画を見たとき、ぼくもまさにミニマリズムの存在が自分のなかで小さくなっていることを意識していたからである。

 誰もが羨む豪邸を建て、老後も安心できるお金を貯めることができれば一丁あがり。その発想と、小さな家を建ててさえしまえば人生のほとんどの問題は解決する、という発想は通底していると思う。「Simplife」の監督は、その後タイニーハウスに住む人が普通のアパートに暮らし始めたり、バスに乗って旅をしていたカップルが別れたりしたことを教えてくれた。

「すべては変化する、という事実だけが不変だ」という言葉がある。モノを手に入れたり、手離すことに終わりはなく、小さな家を建てたからといって長い幸せが訪れるわけではない。ぼくのひとつの誤解は、ミニマリズムというものにどこかで「完成する」というイメージを持っていたことだった。そうしてミニマリズムというのは目的地ではなく、目印としての「小さな門」のようなものだと思うようになった。その小さな門を通過すると、凝り固まった「こうでなくてはならない」という価値観が削ぎ落とされ、身軽になれていろいろ試すことができる。しかしそれは、問題が解決することとイコールではない。恋愛映画のラストシーンのように、通過するときはドラマティックな変化を経験する。が、映画が終われば日常に戻っていく。そこで問いが尽きることはない。スモールハウスも同じだと思う。高村さんの言葉を借りれば「社会的な生きにくさ」を解決したとしても「私的な生きにくさ」は残り続けるのだ。

 ぼくが書いたミニマリストについての本は20カ国語に翻訳されることになり、毎日のように海外からも感想が届くようになった。その中でもいちばん嬉しかったひとつをアレンジして高村さんにも贈りたいと思う。「スモールハウスはもちろんおもしろいのですが、それを見つめる高村さんがおもしろいんですね」と。高村さんはたびたび、自分の主観がこの本に割かれていることを自戒されているが、この本の「あとがきに代えて」及び自伝的な作品『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか』(同文舘出版)でも書かれたように、高村さんという特異な個性の、実存的な必要性がなくてはスモールハウスは発見され実行されえなかったのだと思う。自分が抱える問いと共にあり続け、孤独と自由で居続けるためには、自らの力で小屋を建てるほかなかった。

 この本を再読してみて思ったのは、ぼくがミニマリズムを通過したあとに意識的にならざるを得なかった環境の問題、所有から共有への移行の問題などがすでに先取りされていたことだ。持ち物はこんなに少なくても生きていける。といえば当時はかっこよく聞こえたものだが、実際には社会的なインフラや、自然界に存在するものにだって多くを頼るということだった。ぼくも消費することから自分で作ることに興味を持ちDIYも始めてみた。21万円で買った軽自動車を車中泊仕様に改造し、いざとなったら暮らせるようにもした。何より周囲に友人が誰もいない京都の片隅に住み始めてみたのだから、高村さんの跡を追っているようなものかもしれない。高村さんが今後どんな問いを生きるのか、興味が尽きない。

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