ちくま文庫

コレクションの快楽はどこにあるのか

ちくま文庫『無限の本棚 増殖版』(とみさわ昭仁)書評

PR誌『ちくま』2018年4月号より、ちくま文庫新刊のとみさわ昭仁著『無限の本棚 増殖版』について、とみさわさんと親交の深いライターの安田理央さんによる書評を公開します。安田さんから見た、とみさわさんのコレクション論の本質とは? 是非ご覧ください。

 とみさわ昭仁さんとは、もう十五年くらいのつきあいになる。その間、彼の肩書も目まぐるしく変わっているのだが、それ以上に彼が集めているものも、ずいぶん変わった。
 最初に会った時、とみさわさんは「野球カード男」を名乗っていたと思う。その後は珍しいダムカードを集める人となっていた。気がついたら「人喰い映画祭」というブログをはじめて、人喰い映画のDVDを集めまくっていた。そしてブックオフに通いまくって、変な本を集めるようになり、それを売る店まで始めていた。その他にも覆面歌手(正体を隠しているのと、本当に覆面をしているのと両方)のレコードも集めてたっけ。とにかく、いつも何か変わったものを集めている人、というのがとみさわさんのイメージだ。
 そんなとみさわさんのコレクター歴、そしてコレクター論をまとめたのが『無限の本棚』だ。今回文庫化にあたって、とみさわさんに影響を与えたコレクターたちへのインタビューなど、大幅に加筆され「増殖版」となっている。この十五年、頻繁に遊んでいたけれど、彼の職業や蒐集対象が変わっていった理由など、本書を読んではじめて知ったことも多い。
 とみさわさんという人は、つくづく「発見」の人なんだな、と思う。それも、誰も見たことのないものを発掘してくるのではない。誰もが知っているものを、思いもかけない方向から見る、その切り口を「発見」することに快感を覚える人なのだ。「あ、そんな考え方があったか!」「ええっ、それもありなのか?」と、本書を読んでいて、何度もそう感じた。
 とみさわさんの言葉でいえば「コレクションというのは、新しい視点の提案である」だ。「まだ、誰も集めたことがないものや、誰も気がついていない蒐集テーマを自分が第一発見者となり、それを集める。そこにコレクションの醍醐味がある」と、とみさわさんは言う。
 しかし実際には世の中に溢れている「コレクター」たちのほとんどは、みんなが集めているものを追いかけるように集めている。その中で少しでも上に行こうと競争しているのだ。
 とみさわさんはそれを、「誰かがすでに集めているものなど集めたくはない」とバッサリ切り捨ててる。現にドリフターズグッズを集めていた時に、自分以上のコレクターに出会って勝てないとわかると、あっさりコレクションを止めてしまったりする。ジッポーや野球カードのコレクションでも同じだ。顔ハメ(観光地などにある顔出し看板)でも、雑誌やテレビ番組でも取り上げられるコレクターになったにもかかわらず、先に自分よりコレクション数(撮影数)の多いコレクターの本が出版されると、もう諦めてしまう。
 そんなことを繰り返すうちに、とみさわさんは「(自分にとって)コレクションとは何か」という問題を突き詰めて考えるようになる。そこでたどり着いたのが、物理的に所持しない「エアコレクター」という概念、そして無限に本を買い続けることができる特殊古書店「マニタ書房」の経営だったのだ。
 本書『無限の本棚』はそこに至るまでの過程の記録である。物を集めるということは、どういうことなのか。コレクションの快楽とはどこにあるのか。コレクターの極北を目指す旅が、とみさわさんの半生とともに語られていく。
 ところで、コレクターには、コレクションを他人に見せたがる人と、見せたがらない人の二種類がいるのだが、とみさわさんは明らかに前者だ。それはライターという仕事を長年やっているゆえの性なのかもしれないが、常に観客を意識しているように思える。見る人に楽しんでもらいたい、というサービス精神が根底にある気がする。いや、単純に「どうかしてる!」と言われたいだけなんじゃないかとさえ思ってる。「どうかしてる」は、たぶんとみさわさんにとって最高の褒め言葉だ。

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