この情報はどこから?

第11回 
ネットで読まれるニュースの「賞味期限」はたった30分かもしれない

ネットニュースのスピード感


 

 新聞社記者からネットメディアの記者に転職して最も違いを感じるのは、そのスピード感です。
 大雑把にいうと、新聞社では、1日かけて取材した原稿を夕方までに書き、デスクのチェックを通って、整理部記者がレイアウトしたり、見出しをつけたりして、紙面を完成させ、最終的に編集長が確認、夜中までに印刷工場へと紙面のデータが送られます。 そのデータをもとに印刷され、工場から各地の新聞販売店へと運ばれ、明け方ごろには皆さんの家へと配達されます。

 つまり、大体、記事が取材からスタートして新聞に掲載されて皆さんに届くまで、およそ1日近くかかるわけです。ネットが普及していなかった時代は、もし何か大きな事件や事故があった場合、テレビの報道以外だと、半日ぐらいは詳報を待つ必要がありましたし、新しい情報の更新がそう頻繁ではありませんでしたから、少なくとも1日以上はそのニュースで持ちきりでした。

 ところが、ネットで多数のニュースが配信されるようになると、スピード競争は激しくなりました。できるだけ手早く取材を済ませ、さっさと記事を書き、いち早くネットで公開します。その間、わずか数時間、場合によっては数十分です。

 ニュースを発信しているメディアは、どれだけそのニュースが読まれたかというPV(ページビュー)を重視している場合が多いです。新聞が、その購読者数が多ければ多いほど、影響力を持ち、経営的にも安定したのと同じです。ただ、多くのメディアは購読というスタイルではなく、無料でニュースを読ませます。その代わり、サイトの上下や横に広告を掲載して、その広告料で運営を賄おうとしています。

 PVを集めるためには、常に最新のニュースや情報を掲載しておかなければ、人は寄りつきません。ですから、ネットにニュースを配信しているメディアや記者は、可能な限り早く記事を掲載し、新しい情報が入手できれば、次から次へと更新していくことになります。

 先ほど、新聞記事が1日以上の「賞味期限」を持っていたとお話ししましたが、これがネットのニュースになると、私の体感では半日がせいぜいです。普通のニュースは一時的に話題になったとしても、数時間です。 
 8回目では、メディアは人々の可処分時間の争奪にしのぎを削っていると書きました。まさに、貴重な数分を費やしてニュースを読んでもらうために、メディアは加速してきました。
 では、ネット上で大きな影響力を持つヤフーニュースのトピックスに並ぶ8本の記事(スマホのYahoo! JAPANアプリだと6本です)は、どれぐらいの時間、トピックスに掲載されているのでしょうか。

 ヤフー・ニュース トピックス編集部に取材したところ、その情報はより新しいか、より大切で伝える価値があるものかを判断して、次々に差し替えてい くということです。この判断は大体、30分に1回は生じるそうで、8本すべてが同時に更新されることがないよう、バランスを見ながら、新しいニュースと古いニュースを交代させていく。ですから、早ければ、たった30分でトピックスから外れてしまうこともしばしばあります。

 ただし、長く読まれるもの、読んでほしいものについては少し違います。たとえば、災害が起きた時には、刻々と変わる災害情報が新しいニュースとして何本も入ってきます。そういう場合、同じ災害のことを伝えるニュースをどんどん更新していく形になり、結果的に一日中、その災害のニュースがトピックスに残っていた、ということはありえます。

 もう少し詳しくお聞きすると、ヤフー・ニュース トピックス編集部では、アクセス数が少ないからというだけで、ニュースを外すということはしないそうです。災害もそうですし、選挙の話もあまり関心を寄せてくれるユーザーは少ないかもしれませんが、とても大事な話ですので、一番目立つところに置いている、とのことです。
 ただ、スポーツとかエンタテインメイトのニュースは、多数のアクセス数を期待されているジャンルでもあり、数字が落ちてくれば早めに変えるということもあります。

 それから、これも難しい話ですが、世の中には「とても読まれているけれども、長く出さなくてもよい話題」もあるといいます。たとえば、ある有名な人が微罪(万引きなどの軽い罪ですね)で逮捕されたという類のものです。確かに、知名度のある人のニュースは読まれますが、注目を集める理由によっては、「何時間も晒す必要があるのかどうか」ということ を考えるそうです。
 こうして実際に聞くと、何気なく見ているトピックスのニュースが、機械ではなく人の手によって、いかに絶妙なバランスと考え抜かれた判断を基準に選ばれているかがわかります。

 ただ一方で、ニュースを配信する側のメディアは、どんどん拙速になっている気がしてなりません。私たちの業界用語で、「バズる」という言葉があります。バズとは英語の「Buzz」に由来していて、蜂がブンブン飛んで騒がしい様子を意味します。転じて、ネット上で人々が熱く語っている、話題にしていることを示す言葉として使われるようになりました。

 この「バズ」が曲者です。ヤフーだったら「Yahoo!リアルタイム検索」、Googleだったら「Google Treands」、Twitterの「トレンド」など、今現在、どのようなことがユーザーの間で話題になっているか、「バズっている」かを見ることができるサービスがあります。

 私たちはニュースを配信する時には、このめまぐるしいネットの海にどのような情報を投げれば広がるのかを考えます。みんなが野球を話題に している時に、サッカーのニュースを提供しても、読まれる確率は低いのではないか、と検討するのです。
 また配信した後も、そのニュースが「バズ」っていないか、注意深く見ています。ユーザーの関心が高いニュースであれば、次々と新しい情報を発信した方が良いこともあるからです。

 いかに自分たちが発信したニュースを「バズ」らせるか。たった30 分の賞味期限しかないかもしれない情報でも、メディアはニュースを量産し続けているのです。

 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。
 

関連書籍