この情報はどこから?

第13回 
ストーカーのようにどのサイトを見ても出てくる広告、その正体は?

私たちはなぜニュースや情報を「無料で」入手できるのだろう?

 インターネットは私たちが知らないうちに、情報を取捨選択している。前回はそんな「フィルターバブル」のお話をしました。確かに、私たちは今、「自分が欲しいと思う情報」「自分が興味ありそうな情報」を容易に、PCだったらクリックひとつ、スマホだったらタップひとつで、無料で入手できます。
 この「無料で」ということを、私たちはあまり意識したことがありません。しかし、うまい話にはだいたい「裏」があるものです。一体、なぜ私たちは日々、膨大なニュースや情報を「無料で」手に入れることができるのでしょうか?
 答えは、それほど難しくはありません。ネットよりも歴史があり、基本的には無料のメディアである民間のラジオやテレビを見ればすぐに気づきます。そう広告です。
 そもそも、私たちの生活には広告があふれています。テレビ、新聞、雑誌、ラジオという4大マスメディアと呼ばれるものの中だけではありません。電車の車内吊り広告、バスの車体に描かれた広告、映画館で本編上映前に流れる広告、ビルの屋上に掲げられた広告、ポストに入り込むチラシの広告、あちこちから届くダイレクトメールの広告…と広告を見ない日はないと言ってもよいぐらい、ありふれたものです。
 そして近年、広告はインターネット空間にも進出し、進化していきました。従来、最も広告でお金がかけられていたのは、4大マスメディアでした。現在でも日本の総広告費の約4割を占めています。では、残りはどのようなメディアかといえば、2010年代に入ってからインターネットが伸び続け、今や4分の1にまで迫ろうとしています。
 国内の広告最大手、電通が今年2月に発表した「日本の広告費」によると、2017年における日本の全広告費は前年に比べて101.6%、6兆3907億円と伸びていました。しかし、4大マスメディアの広告費は前年比97.7%と減っています。これは、3年連続の減少だそうです。
 中でも、特に減っているのが、雑誌(同91.0%)と新聞(同94.8%)です。歴史ある紙メディアの苦戦がここにもくっきりと現れています。
 一方、躍進しているのがインターネット広告です。2017年は前年比115.2%という驚異の伸び率。4年連続で2桁の伸びだそうです。広告費はついに1兆5000億円を突破しました。もう少し細かく見ると、特に「運用型広告」と呼ばれるものの広告費が、前年比127.3%、9400億円にまで達していました。
 「運用型広告」とは一体、どのようなものなのでしょうか。
 私たちは色々なサイトに広告が貼られていると知っています。まったく興味のない商品の広告、あるいは、ちょっと前に自分が検索した商品やサービス(子ども服だったり、ホテルの予約だったり)が色々なサイトに出現して、まるで私の行動が誰かに筒抜けになってしまったような広告のこともあります。
 前者は「予約型広告」と呼ばれ、従来のマスメディアと同じように、その枠に広告が常に「貼られている」もので、そのサイトを訪れた人たち全員が同じ広告を見ます。
 後者は今、増えている「運用型広告」と呼ばれるものです。2010年代初め、これらの広告の割合は拮抗していましたが、今やこちらが主流になりつつあります。
 「運用型広告」とは、ユーザーが興味を持っているジャンルや店舗、商品の広告をリアルタイムに表示していくことで、より購買を促進することができると期待されています。ここで、大きな役割を担うのが「ターゲティング」という技術です。大手サイトであれば、どこでも利用しています。
 前回紹介した「フィルターバブル」の著者、イーライ・パリサーさんは本の中で、こんな例を取り上げていました。
 「たとえば、ランニングシューズをオンラインでチェックしたが、結局買わずに終わったとしよう。このサイトがリターゲティングを採用していた場合、その店の広告——おそらくは買おうかと迷ったスニーカーの写真が入った広告——を、前日におこなわれた試合の結果やお気に入りのブログなど、インターネットのあらゆるところで見るようになる。その結果、誘惑に負けて商品を買ったらそれで終わりだろうか? そんなことはない。その商品を買ったという情報がサイトからブルーカイに売られ、オークションにかけられる。これを買うのはスポーツ衣料のサイトだろうか。こうしてこんどは、インターネット上、どこへ行っても速乾性ソックスの広告を見ることになる。」
 ブルーカイとは、ユーザーのさまざまなデータを集めている企業といえばよいでしょうか。PCやスマホの画面からは見えない場所で、私たちのデータは複雑にやりとりされ、私たちが閲覧するサイトには、私たちが購買しそうな商品・サービスの広告、パーソナライズされた広告が、まるでストーカーのように出現することになります。
 パリサーさんは同時に、ターゲティング広告はGoogleやFacebookといった巨大なプラットフォームの大きな収入源になっているとも指摘しています。多くのニュースサイトも同じでしょう。ネットで配信される記事や情報は巨大プラットフォーム上でパーソナライズされ、表示される広告もターゲティングされ、ネット空間は私たちにとって、ますます居心地のよいものに作られているのです。
 しかし、果たしてこれは「いい話」なのでしょうか。前回もお話しした通り、このフィルターバブルの弊害は、私たちの社会にとってとても深刻なものになりつつあります。
 「無料で」ニュースや情報を入手できる代わりに、私たちは広告を見せられるだけでなく、自身のプライバシーや情報環境をオンラインで見知らぬ誰かに引き渡しているのです。
 荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、平和な社会であれば問題なくても、一度、緊張感を孕んだ時にはそうしたデータが誰にどのように使われるのか。私たちはよくよく考えなければいけないのです。

 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。

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