この情報はどこから?

第14回 関東大震災から大阪北部地震まで、人々を悩ます「デマ」をどう見分ける?

 近年、どこかで大きな災害が起きると、あっという間にネット上で情報の流通量が増え、拡散していきます。それが顕著だったのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。
 当時、Twitterはすでに多くの人たちに利用されており、未曾有の大災害でも緊急時の情報発信手段として、コミュニケーションツールとして、とても役立ちました。私は出産を控え、産休に入った直後、臨月の時に東日本大震災に遭いました。東京の自宅で徐々に激しくなる揺れに、その場で身を丸めて早く収まるよう、祈ることしかできませんでした。
 揺れがいったん終息してから最初にしたのは、テレビをつけてニュースを見ると同時に、PCを開いてTwitterを確認することでした。当初は東北が震源であることや各地の震度ぐらいしか情報が入ってきませんでしたが、あちこちで停電したり、電車が止まったりといったライフライン、交通網の寸断が起きていることが、瞬時にネットで伝わってきました。
 Twitterを使っていたのは、一部の人たちだけではありません。Twitter Japanが公表したデータによると、東日本大震災は、地震とその直後の津波の際に合計5回、1秒につき5000ツイートを超えたことが確認されたそうです。また、家族や友人、知人の安否を確認するために日本国内から発信されたツイート数は、通常の500%にも達したといいます。日本にいるかなりの人たちが、その時Twitterにアクセスしていたわけです。
 では、どのように使われていたのでしょうか。一つは、緊急時の情報発信です。消防庁では、地震発生から20分も経たないうち、15時5分に最初のツイートをしています。震度7の大地震が発生し、大津波警報も発令されていることから、沿岸部の住民に注意を呼びかける内容でした。
 その直後、「これより、消防庁災害情報タイムラインの災害時運用を開始します」として、次々に被害状況や津波への警戒、緊急消防援助隊の活動状況、福島第一第二原子力発電所の避難指示などを発信、4月22日までに240回のツイートを行いました。テレビやラジオでは、リアルタイムで流れていってしまう情報も、ツイートという形で蓄積されれば、アクセスしやすくなりました(その甲斐あってか、震災前には3万人ほどだったフォロワー数も、4月22日までには、約22万4700人にまで増えていたそうです)。

 このツイートは真実か?

 Twitterが人命救助につながったこともありました。大津波に襲われた宮城県気仙沼市。保育所の園児たち71人を含む約450人が公民館の屋上や3階で孤立。2階まで津波が押し寄せ、周囲では火災も発生。その時、園児を一緒に引率していた障害者施設の園長がロンドンの息子さんに「火の海、ダメかも」と携帯でメールを送りました。
 すると、息子さんが「せめて子供達だけでも」とTwitterで救助を要請。それが東京都の猪瀬直樹副知事(当時)の目に止まり、3月12日未明に東京消防庁のヘリが出動、全員が無事に救われるという出来事がありました。
 当時、リアルタイムでこのツイートを見ていた者としては、今思い出しても目頭が熱くなります。しかし、一方で、この時の猪瀬副知事の決断は、かなり難しいものだっただろうとも思うのです。
 なぜなら、災害時に必要な情報に混ざって必ず出現するのが「デマ」だからです。
 1923(大正12)年9月1日、関東大震災が発生しました。首都圏で死者10万人、日本の地震災害史上最大の被害となりました。地震後も火災が広がり、インフラが寸断され、人々は脅かされていました。
 内閣府の防災情報のページをみると、関東大震災の記録がまとまっています。その中に、「流言蜚語と都市」という一節があります。当時も「富士山が爆発している」「井戸に毒が入れられた」といった流言、つまりデマがとても多く流布し、落ち着くまでには1カ月以上かかったらしいことがわかります。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1923_kanto_daishinsai_2/index.html

 今も昔も、人はデマを作り出し、流し、拡散させるもののようです。ですから、あらかじめ私たちの周りの情報には、特に災害時や緊急時のどさくさにまぎれ、デマが含まれていると考えていた方がよいでしょう。
 先ほど、東日本大震災で消防庁がどのようにTwitterを活用していたかについて触れましたが、同時に「サーバールームに閉じ込められているというツイートがあったので確認したところ、異常が確認できなかった」(これは後に悪質なデマだということが判明しています)など、情報の信憑性が運用の課題として指摘されています。
 猪瀬さんは、気仙沼への救援に踏み切った理由を、「ディテールがあるので事実だと判断、伊藤防災部長に大至急、副知事室に来てくれと電話。部長は9階の防災センターから6階まで走ってきた。ツイッターを見せた。即座にやりましょうと言った」とツイートしています。この決定は、ツイートを事実だと見抜くリテラシーで裏打ちされていました。
 デマには魅力といってよいのかわかりませんが、人の関心を強く惹きつける何かがあります。不安を煽ったり、興味を引いたり、「まだマスメディアではニュースになっていないけど、これは最新の情報だ」という触れ込みがあれば、余計にその情報を拡散したくなるものです。

 デマを見抜くコツ

 デマには、思い込みや勘違いで誤った情報を流してしまうケースと、騒ぎを起こしたい、注目を集めたいという理由でわざと誤った情報を作って流すケースがあります。悪質なのは、後者です。
 有名なデマがあります。2016年4月14日に発生した熊本地震の際、Twitterで「おいふざけんな、地震のせいで うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」とツイートした20歳の男性がいました。これは2万回近くリツイートされ、熊本市動植物園には問い合わせの電話が殺到したそうです。
 ところが、このツイートは悪ふざけでした。男性は後に熊本市動植物園の業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑で逮捕されています。災害時のデマは混乱を招き、ただでさえ対応に追われている関係者や関係各所の時間を奪い、他の対応へ影響を与えかねません。あまりに悪質な場合は、刑事的責任も問われるようになっています。
 私たち自身も、「拡散したくなるような情報」に出合った時こそ、一拍おいて冷静になる必要があるでしょう。また、デマをデマと見抜くコツのようなものもあります。
 たとえば、東日本大震災では、「市原コスモ石油火災で有害物質の雨が降る」というデマが拡散していましたが、コスモ石油の公式サイトがこれを否定。デマは鎮火しました。匿名のアカウントが発信した情報よりも、組織の公式情報をまず確認することが、基本的な手法です。
 それ以外にも、熊本地震の際に拡散されたライオンの画像は外国のものでしたが、これもgoogleの画像検索などを利用すれば、オリジナルのものか、他のサイトから拝借したものかが即座にわかります。
 デマを作ったり、それを拡散したりするのは、本当に簡単です。しかし、そのデマによって、多くの人に影響を与え、場合によっては傷つけ、命にも関わる事態に発展します。デマを作らないのはもちろんのこと、デマをデマと見抜き、それ以上の拡散を止める責任が、私たちユーザーにはあるのです。
 しかし、関東大震災でも人々を悩ませたデマは、なかなか根絶できません。6月18日に発生した大阪北部地震では、「シマウマが脱走した」というデマがTwitterで流れていました。おそらく、熊本地震の際の「ライオンが逃げた」というデマを模倣したいたずらだと思われます。
 デマについて再考するとともに、今回のシマウマはライオンほど拡散していなかったところをみると、少しずつ私たちユーザーも学んでいるのだろうと期待も生まれてくるのでした。

 

この連載をまとめた『その情報はどこから?――ネット時代の情報選別力』 (ちくまプリマー新書)が2019年2月7日に刊行されます。