ちくま新書

英語は読解力が大切だ

『ビジネスマンの英語勉強法』「まえがき」

ちくま新書7月刊『ビジネスマンの英語勉強法』の「まえがき」を公開します。ビジネスで使用する英語において何よりも重要なのは読解力だと、 アメリカの商社現地支社や大学で活躍してきた著者はそのように語ります。読解力が確かに身につく勉強法を紹介する本編の前に、まずは概説をお読みください。

 みなさんもよくご存じのように、日本は8年連続で人口が減少するなど、ますます少子高齢化が進んでいます。そうなると、当然のことながら日本経済全体のパイはあまり増えませんので、それを補うためには、企業は輸出や企業買収などを通じてこれまで以上に積極的に海外に打って出なければなりません。
 人口減少が進む日本経済を活性化させるもう一つの方法は、海外からの観光客を日本に呼び込んで、大いにお金を使ってもらうことです。いわゆるインバウンド消費の拡大です。
 こうした海外からの観光客誘致については、すでに国はもちろんのこと、今では多くの地方自治体も積極的に動き出しています。そうした国、地方双方の多大な努力もあり、日本への外国人観光客の数はうなぎ上りに増え、2017 年の訪日外国人観光客数は2869 万人にものぼり、今年(2018 年)は3000 万人の大台を超えて3200 万人程度になると予想されています。
 このように、これからも日本経済が力強く拡大し、日本企業が生き残っていくためには、輸出や企業買収などによってさらに積極的に海外に打って出るだけでなく、海外からの観光客についてもますます多く日本に来てもらう努力をする必要があります。
 いずれにしても、これからの日本人はこれまで以上に海外との交流や結びつきを強めていかなければ生きていけません。特に熾烈な国際競争にさらされている日本企業のビジネスマンにとっては、今後、海外の企業やビジネスマンとのやり取りをしなければならない機会が、弥が上にも増えていきます。また、これまでは海外の企業やビジネスマンと無関係に仕事をすることができた人にとっても、今後は海外との接触機会は確実に増えていき
ます。
 日本のビジネスマンを取り巻くそうした状況を考えたとき、今後ますます必要になってくるのは、やはり何といっても英語です。もっとも、海外とのビジネス関係については、近年は欧米諸国よりも、むしろ中国やASEANなどアジア諸国との関係や交流の方が深くなっているところがあります。
 しかしながら、使用言語に関していえば、ASEAN 諸国などとのビジネスでは英語を使うのが当然のことになっていますし、中国とのビジネスにおいても最近では英語を使う場面が非常に増えています。また、中東、アフリカ諸国などとのビジネスでも、以前から英語が中心言語として使われてきました。
 このように、現在の国際ビジネスにおいては、英語はまさに「リンガ・フランカ」(世界で通じる共通語)そのものであり、今後その勢いはますます強まることが予想されます。そうした意味でも、どんな業界に身を置いていても、英語力を磨いていくことが、ビジネスマンとして成功する上で何よりも重要です。
 もちろん、本書を手に取ってくださった方にとっては、英語力を磨くことが重要であることは、すでに十分理解されていることと思います。問題は、いったいどのようにして英語力を磨いていけばいいのかということです。一概に英語力といっても様々なものがありますが、海外とのビジネスを円滑に行うためには、いったいどの程度の英語力が必要で、それをどのようにして勉強していけばいいのかということが最も気になるところではな
いでしょうか。
 こうした英語勉強法の問題について、できるだけ具体的なかたちでお答えしたいと思って書いたのが本書です。本書執筆にあたっては、特に現在海外とのビジネスをしている、あるいは今後そうしたビジネスに関与する可能性があるというビジネスマンの方を念頭に置いて書きました。
 もっとも、このように書きますと、本書も類書が数多く出ているビジネス英会話本の一つと思われるかもしれません。しかし、このあとお読みいただければお分かりの通り、本書はそうした本とはまったく違います。
 本書でみなさんに最もご理解いただきたいことは、ビジネスマンにとって英語の勉強で最も重要なことは、一見流暢そうに外国人とペラペラ会話ができるようになることではないということです。そんなことよりも、たとえば『ニューヨーク・タイムズ』や『タイム』のような欧米の一流紙や雑誌に載っているような、しっかりした英文を、正確にきちんと読みこなせる読解力を身につけることの方がよほど重要であるということです。実際、このことは、これまで長年にわたる商社マンとしての私の経験からも、自信をもって言うことができます。
 以前の日本の英語教育は英文法と読解に力点を置きすぎていたため、中高の6 年間、さらには大学の4 年間を費やしても、ろくに英会話の一つもできないような人間を生み続けてきたという強い批判がありました。そのため、1990 年代の初めごろから、会話を中心としたオーラル・コミュニケーション重視の英語教育が本格的に開始されるようになりました。
 こうしたオーラル・コミュニケーション重視の英語教育が開始された背景には、とにかく英語をうまく話せるようになりたいという日本人の伝統的な「英会話ペラペラ願望」がありました。しかし、それとともにもう一つ重要な要因として、日本人の多くが「英会話はできないが、英文を読むことはできる」と自分たちの英語読解力をあまりにも過信してしまったことがあるように思います。
 では、オーラル・コミュニケーション重視の英語教育になってから、日本人の英語力は実際に上がったのでしょうか。これについては本文の中でも書きましたが、「読む、聞く、書く、話す」という英語の基本スキルすべてにおいて、今でも日本人の英語力はアジア諸国の中でも下位に低迷したままなのです。
 つまり、オーラル・コミュニケーション重視の英語教育は成果があがっていないだけでなく、それまで多少はましだった英文読解力や文法力までも下げてしまったわけです。
 これは常識で考えればすぐ分かることですが、読んで理解できないことが聞いて理解できるわけがないのです。ましてや、それを満足に話すことなど、できるわけがありません。
 それにもかかわらず、日本では「英会話ペラペラ願望」に惑わされて、とにかく英語を勉強するなら英会話だという固定観念が出来上がってしまいました。本書ではそうした「英会話ペラペラ願望」に一切捕われずに、特に海外とのビジネスに携わるビジネスマンが持っておくべき高度な英文の読解力を、どのようにしたら身につけることができるか、その具体的な勉強法について書きました。そうした高度な英文の代表的なものである欧米の一流紙や雑誌には、日本人がお手本にすべきすばらしい英文が書かれているだけでなく、ビジネスマンにとって大変有益な情報も満載されています。
 いうまでもなく、ビジネスマンにとって最も大切なのは情報です。それも内容の濃い情報が必要です。しかし、残念ながら日本の新聞やテレビで流される情報だけを追っかけていては、そうした濃い情報を入手することはできません。日本のメディアの情報は非常に表層的なものが多く、海外の出来事の深層を知ろうとすれば、やはり欧米の一流紙や雑誌に直接当たる必要があります。
 ただ、ここで問題になってくるのは、『ニューヨーク・タイムズ』や『タイム』などに掲載されている英文を、正確に読んで理解するのはそう簡単なことではないということです。それができるようになるためには、やはりいくつかの関門をくぐり抜けなければなりません。では、日本人は長年英語を勉強してきたにもかかわらず、なぜ欧米の主要紙や雑誌を満足に読むことができないのでしょうか。私はその大きな理由として、次の5 つがあるように思います。具体的には、①政治や経済、国際問題等に関する知識・教養不足、②文法力不足、③語彙力不足、④英文のクセ(特徴)に関する理解不足、⑤欧米社会の歴史文化に関する知識・教養不足、という5つです。
 本書では、英文を正確に読みこなすために絶対欠かすことができないこうした5 つの知識や教養を、みなさんにも身につけていただけるよう、具体的な事例をふんだんに盛り込み、できるだけ丁寧に書くように努めました。本書が、今後みなさんが英文を無理なく読めるようになるための一助となり、それによって新たなビジネス・チャンスが生まれることを、心より願っております。

関連書籍