上田麻由子

第20回・まぼろしの劇団

『MANKAI STAGE「A3!」~SPRING & SUMMER 2018』

 多くの小劇場が並び立つ、演劇の聖地「ビロードウェイ」。かつてはその一番の人気劇団だった「MANKAIカンパニー」は、専用劇場や団員寮まで備え、「春組」「夏組」「秋組」「冬組」の4つのユニットが公演を行っていたが、現在は閑古鳥が鳴いている。たったひとりの劇団員。積もり積もった借金。そこに、劇団設立者の娘として呼ばれた主人公は主宰かつ総監督として、劇団の立て直しを命じられる。条件は3つ。来月までに新生・春組の旗揚げ公演を行い、千秋楽を満員にすること。年内に4つの劇団を集めてそれぞれの公演を成功させること。1年以内に借金を完済すること。夢や理想を抱いてこの世界に飛び込んできたものの、まだ輝き方を知らない劇団員は、こう語りかける。「オレたちを咲かせてください、カントク!」

ステージの裏にある物語 

 2017年1月に配信がスタートした「イケメン役者育成ゲーム」アプリ『A3!』は、まさに2・5次元ブームから生まれた作品のひとつだ。中学生から30代まで、幅広い年齢の劇団員を育成し、その悩みに耳を傾けながら、配役も身につける衣装も自分好みの公演を打ち、役者として輝ける場を用意する。プレイヤーとの一対一のやりとりもあれば、チーム制になっていることで、劇団員同士のぶつかりあいや、切磋琢磨も見られる。2・5次元ブームによって耕された「バックステージ」という豊かな土壌のうえに、この作品は成立している。

 たとえば当時、数々の舞台で主役を総なめしていた小澤廉(三好一成役)をはじめ、小西成弥(泉田莇役)や廣瀬大介(斑鳩三角役)など、2・5次元舞台で活躍する俳優たちを声優として起用していること。またチームの仲を深めるためのエピソードや、演じることに対する心意気などに、わたしたちが役者のSNSやインタビューなどでさんざん見てきた「あるある」ネタが織り込まれていることも、2・5次元ファンを大いに意識して作られた作品であることの証拠だ。

 その「イケメン役者育成ゲーム」の舞台化を、株式会社ネルケプランニング(言うまでもなく『ミュージカル「テニスの王子様」』や『ミュージカル「刀剣乱舞」』で、現在の2・5次元舞台を牽引している制作会社)が手がける。これには、まるでパロディが本家によって回収されたような、川で生まれた鮭が大海を旅したのち、また生まれた川に戻ってきたような、感慨深さがある。2・5次元というジャンルの成熟ゆえに起こった、幸運な出会いだと言えるだろう。

2・5次元という名の部活

 今回の公演では、1幕が春組、2幕が夏組を主人公に、ほとんど素人ばかり、しかも出会ったばかりのメンバーたちが、それぞれの公演を成功させるまでの紆余曲折が描かれている。各幕の最後には、舞台に赤い幕が降ろされ、ブザーが鳴って、注意事項のアナウンスまで流れたあと、各組の公演が劇中劇として行われる。

 本作の一番の見どころは、決してみなが熱意を持って入ってきたとはいえない劇団のなかで、それぞれの劇団員が手探りながらも、それぞれのやり方で演じることや己自身とぶつかっていき、最終的には「演劇って楽しい」「これが自分の新しい夢だ」と感じるにいたるまでの過程だ。お芝居に打ち込む彼ら自身に、物語がある。合宿もあれば、本気のケンカもあり、みんなで試行錯誤したぶん、公演をやりきったときのカタルシスは大きい。まるで部活のような爽やかさが、ここにはある。

 その物語は「これは『僕ら』の物語だ」と俳優本人に言わしめるほど、まだ駆け出しの俳優たち自身の物語とも重なる。ある程度キャリアのある、たとえば子役出身で芸歴15年あるものの、演劇には苦手意識のある皇天馬については、このキャラを演じる役者、陳内将の2011年の『ミュージカル「テニスの王子様」』から、スーパー戦隊(『特命戦隊ゴーバスターズ』)、そしてテレビドラマや映画に多数出演するという「若手俳優の登竜門」からのコースを一通り走ってきて、また近年2・5次元に戻ってきたという本人の来歴とも響きあう。2・5次元というジャンルの歴史そのものが、物語そのものと幾重にも絡みあっているのだ。

2・5次元のプロが作る2・5次元

 演出面に関しても「バックステージから本番へ」をパッケージにして見せるやり方は、ネルケプランニングがオリジナルの、しかしアニメや漫画のキャラクターや、アイドルなどの文化をおおいに取り入れた、架空のアイドルたちをさも実在しているかのように描く「アイドルステージ」シリーズで長年、取り組んできたことだ。

 たとえば、稽古中の劇団員を描く際は、「ひとりよがり」「自己満足」「がんばるなんて職業はない」と、厳しい指摘を入れつつも、綿あめのように繊細で甘いフィクションで包み込むことで、汗くささやせちがらさではなく、なんとか公演を成功させようと奮闘するキャラの魅力に焦点を当てる。1幕の「正統派メルヘン劇が得意」な春組では、佐久間咲也(横田龍儀)の「少しでも舞台のことが分かるように、舞台の上で寝てみよう」と、布団を持って劇場にやってきたり、他の劇団員と温度差を感じて退団しようとする、昼間は一流商社勤務のサラリーマンである茅ヶ崎至を、謎のエチュードで引き留めようとしたりするなど、少し天然で、それでいて演劇の妖精のような屈託のなさが物語を動かす。近年、立て続けにコミックリリーフ的な役割を一身に背負わされている、謎の外国人・シトロン役の古谷大和もパンチが効いている。

 いっぽう2幕の「賑やかなコメディ劇が得意」な夏組では、笑いというハードルの高いものを持ち味にする組だけあって、「仲良くなる必要なんてない、個人がベストを尽くすのみだ」という実力派の皇天馬を中心に、若さや勢いだけではない、自然と近づいていく劇団員たちの姿がドラマチックに描かれる。桁外れな運動神経を持っていて、普段は天然だけれど芝居となると表情が一変するという、いかにも2次元のキャラっぽい斑鳩三角や、ともすれば上滑りしがちな「チャラ男キャラ」三好一成を、本田礼生、赤澤燈に地に足のついたリアリティで演じさせる、この「当て書き」のようなはまりようには、若手俳優を長い目で見守ってきた制作会社の本領が発揮されている。

戯曲×2次元

 劇中劇の工夫もある。それぞれの公演は、戯曲の古典をもとにしている。春組公演『ロミオとジュリアス』はもちろん『ロミオとジュリエット』に基づいているのだが、ジュリエットを男性にすることで、家同士の対立が生む悲劇的な恋愛から、若さでいくつもの困難を乗り越える、男同士の友情ものへと書き換えられる(2人が仲良くなるきっかけは、同じ女性に恋をして、同時に振られたこと)。それを本舞台では、歌いつつ自己紹介したり、ケンカをダンスで表現したりと、これまでの2・5次元作品を彷彿とさせる演出を取り入れつつ、音楽にのせて軽快に進む劇中劇として表現することで、それ自体、ひとつのショーとして楽しませてくれる。

 いっぽう夏組公演『Water Me!』は、億万長者を夢見る青年アリババが、 幼なじみのシェヘラザードにそそのかされて、幻のオアシスを探す旅に出かけ、アラジンやシンドバッド、ランプの精と出会うという、『アラビアン・ナイト』を少年漫画風にアレンジしたコメディになっている。

 劇団員本人の心情をモノローグで挿入しつつ「バックステージ」と「オンステージ」の両方を、緊張感を保ったまま見せる劇中劇の手法は鮮やかで、幕が降りたとき、観客にいるわたしたちは自然と拍手している。「観客役」を演じているわけではなく、心からの拍手で。それとも、知らないうちにわたしたちも物語の一部になっているのだろうか。この巻き込む力こそ、演劇の楽しさだということも、本作は思い出させてくれる。

君と描く「満開」の未来

 巻き込まれていくのは、わたしたちだけではない。春組メンバーの友人や、衣装担当が夏組に所属することになったり、プロの俳優だった夏組の天馬が、ほとんど素人だった春組の咲也からのアドバイスで一歩前に進めたりする。なにより冒頭でMANKAIカンパニーを潰そうとしていたヤクザ・古市左京(藤田玲)は、春組・夏組公演を経て「今日の劇場は昔を思い出させる」という意味深な台詞を吐き、ついには秋組オーディションに誘われることになる。

 20年前にHTMLで作ったような公式サイトや手書きのフライヤーを見て「公式サイトやフライヤーは最初に目に入るから手を抜くな」「運営にも気を遣え、ブログを作って毎日更新しろ」とあまりに適切なダメ出しをしたり、春組のアンケートに10枚にわたってびっしり感想を綴ったりする、あまりにも「わたしたち」と同じファン目線を持っている彼が、劇中で何度も笑いを誘っていたチンピラ・迫田(田内季宇)ととともに、「ハードなアクションが得意」な秋組で、そして「しっとりしたシリアスが得意」な冬組に向けて、どのような活躍を見せてくれるのか楽しみだ。

 いくつもの文脈の出会いがあるという点で、本作は単なるゲームの舞台化を超えた、2・5次元というジャンルにおける画期的な出来事のひとつになっている。すでに終了した東京・京都での千秋楽公演では、ゲーム内のエピソードである「千秋楽のアクシデント」を実際に起こして、物語とのつながりを強めつつ、現実の演劇ならではのハプニング性と興奮を提供したことも、おおきな話題になった。初日の様子はテレビ放送、千秋楽の様子はネット配信することで、その様子が劇場に行けなかった者にも追えるという(それでいて、ぜひとも劇場でその「事件」に居合わせたいとも思わせる)、これまでにない試みも行われている。演劇をテーマにした作品ならではの、リアルとフィクションの絶妙なさじ加減、そして「演劇が好きだと胸を張って言える」(古谷)という、役者たちの生き生きとした姿は、この先の季節も作品を輝かせつづけることだろう。
 

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