安藤桃子×伊藤洋志×pha

後篇「フルサトをつくる」を実践する!

『フルサトをつくる』刊行記念鼎談

後篇です。場所を変えればとにかくなんとかなる、という気がするほっとするトークです。ちくま文庫の『フルサトをつくる――帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』(伊藤洋志×pha著)の刊行記念。著者お二人と、映画監督の安藤桃子さんとの鼎談です(2018年5月8日)。

(後篇)

●高知で映画館を運営する楽しさ

伊藤 高知に来るまえから、映画館をやってみたいというのはあったんですか。

安藤 映画文化はどうなるかとずっと考えていたら、映画館という出口をやりたいというのは昔からありました。ただ、そのまま映画館をやっても、どんどん閉まっていっているから、何か新しいあり方と、映画館で映画を観るということの意味をきちんと伝えたいと思って、高知の中心地でやりたいというのもあった。

 映画って、物質として、人の本能とか、人という生き物が体験するのに最も合った見せ方なんですね、いまはフィルム上映は少ないですが、もともとちゃんと物質としてフィルムで1秒24コマで見せることに、すごく意味があった。

 人は生き物としての能力がすごく高いから、1回自然の中の暮らしを体験すると、それを都会に持ち帰れるんですよね。例えば、刺身を食ったことがあれば、刺身コンニャクを刺身だと思って食えるみたいな。ベジタリアンの偽物の肉って、肉を食ったことがない人に「肉風」と言っても、もともと肉を知らなかったら、べつに要らないというのと同じで、想像してそれを蘇らせて、もう1回感覚を呼び戻すことができる。それと一緒で、たぶん、文学でも映画でも、本質的なシステムと見せ方、作り方がデジタルと全然違う。フィルムを1回知っておいたら、デジタルで観たときも、その感覚を呼び戻せるんですよ。

 そういうことをしたいのと、若い人たちが観方を知らなくなっているから、映画館の敷居を低く、奥は深くというのをやりたい。

●高知は自然の中に死生観がある

安藤 高知であれば、映画館が成り立つだろうというのは、県民性がとても重要で、なんやかんやお祭り騒ぎが好きだから。

伊藤 だって、水害で公民館に被災者が集まっているところに、テレビ局が行ったら踊っていたらしくて、これではニュースにならないと。あなたたちは被災者なのだから少しはそれらしくって。酒盛りして踊っていたらしい(笑)。

安藤 数年前に、浸水したとき、東京のみんなに心配されて、「ニュースで高知が大変なことになっているけど、大丈夫?」と聞かれたけど、高知県人は達観していて、「うち、3台車流されたきね、ハッハッハ」「うちは4台! 勝ち!」と。どっちがすごいかみたいな(笑)。「じいちゃん転んで、あのとき死んだわ。寿命やったんやね」みたいなことを言って。死生観がたぶん重要。都会にいると死生観がなくなるから死=恐怖になる。でも、高知は特に自然も自然災害も隣り合わせで、死ぬことと生きることは一体で当たり前のこと、とインプットされて育っているから、何でもやりきるということに重点を置いている。酒を飲むのも酔狂の世界で、救急車で運ばれるぐらいやりきって、明日はない覚悟で呑む。「いまを、やりきれ!」みたいな(笑)。

●映画館のまわりのフェスと桃子塾

安藤 そういう県民性のところで映画館をやって、本質の感覚がある人たちの覚醒スイッチを押していけば文化革命が起きると。ここでモデルケースをつくったら、あとは、ほかの県民性や文化に合ったやり方を組み合わせて、ほかのところでもコピペしていってもらいたい。映画館は建物を壊すということで1年限定なんですけど、ちゃんと次に繋げるようなシステムをつくりたいです。劇場周辺では週末になるとフェスをやってます。劇場前でライブをやって、マルシェを出して、朝からワイワイ酒を飲んで、子供たちのパン食い競争とかいろいろなイベントをやって商店街の人通りが変わった。最初は、おびさんロードの端から端まで見通せるくらい人通りがなくて、閑散としていたけれども、いまはイベントがあるとちょっとした竹下通り(笑)。映画館で映画を観たことがある人と言ったらまだ少ないけど、今はそれでいい。徐々に遊んだあと映画館に入ってみようかっていう若いお客さんが増えています。地方は弱者が文化を楽しめる場所が結構少ないけれども、中高生や障害者の人たちもしょっちゅう集まってきて、前でワイワイやっていて。映画は総合芸術というだけあって、いろいろなことをくっつけやすいんですよね。ゲストも呼びやすい。

 今度、桃子塾というのを始めるんですよ。この本に書いてあった寺子屋とか学校に興味が湧いてきて。若者の意識が育たないと先へ繋がっていかないと思ったから、寺子屋、松下村塾みたいなのをやりたいと思って、中学生から30歳までで一緒に無料で受講できる塾を6月から始めます。

pha どういう内容なんですか。

安藤 誰でも、人生で何かを表現して生きていきたいかということは変わらない。べつに仕事が表現者でなくても、何を表現して会社員をやるのか、八百屋をやるのか。人生で表現したいことを一緒に考えようというもので、最終的にパフォーマンスをするときの告知のポスターやキャッチコピーも全部塾生たちが考える。衣装も台詞も全部ゼロからやっていくと、結果、すべての職業に必要な表現力がついてくるのではないかと思うんですよ。

pha ほんとに文化の中心というか、根本的なことみたいな。

伊藤 確かに、そういうところで覚えたことのほうが、長年役に立つという気がしますよね。

安藤 生きる力がつくと思うんですよ。

pha 自分で考えてやっていく力ですよね。

後編は7月30日(月)更新です。

2018年7月30日更新

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伊藤 洋志(いとう ひろし)

伊藤 洋志

1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。仕事づくりレーベル「ナリワイ」代表。会社員を退職後、ライターをしながら2007年より、生活の中から生み出す頭と体が鍛えられる仕事をテーマにナリワイづくりを開始。著書に『ナリワイをつくる——人生を盗まれない働き方』(東京書籍)などがある。

pha(ふぁ)

pha

1978年生まれ。東京都在住。ギークハウスプロジェクト発起人。著書に『ニートの歩き方』『持たない幸福論』『しないことリスト』『ひきこもらない』などがある。近刊は『人生にゆとりを生み出す知の整理術』。

安藤 桃子(あんどう ももこ)

安藤 桃子

1982 年東京生まれ。 高校時代よりイギリスに留学し、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。 その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010 年『カケラ』で監督・脚本デビュー。2011 年、初の長編小説『0.5 ミリ』(幻冬舎)を出版。同作を自ら監督、脚本した映画『0.5ミリ』が2014年公開。第39回報知映画賞作品賞、第69回毎日映画コンクール脚本賞、第18回上海国際映画祭最優秀監督賞などその他多数の賞を受賞。2018年6月『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project-短編映画「アエイオウ」公開』。2017年10月高知市内に映画館「ウィークエンドキネマM」を開館。同12月ギャラリー「& Gallery」をオープン。現在は、高知県に移住。一児の母。

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