■11人いる!? 女子グループの問題
福嶋 ちょっと話がそれますけど、アイドルでも五人のグループと一〇人のグループだと、まったく文化や作法が違ってて面白いんです。学校にしても、一〇人のクラスか三〇人のクラスかで変わりますし、人間のふるまいって人数で変わるんですね。
斎藤 多い場合、こういうことが起こりやすいとかありますか。
福嶋 集団ヒステリーはかなり起きます。誰かがキーッとなったときに引っ張られて、みんなキーッとなるとか。五人だと誰かがテンパっても、あいつなにテンパってんの?ってやり過ごせるんです。あと、一〇人の集団で面白いのは、たとえば、ひとりひとり別々に話をすると「たぶんこれをやると誰かが病んじゃうと思うんです」みたいなことを言うんですね。つまり、そこにいない他のメンバーのことを勝手に想像して、心配したり、リスクを感じたりするんですよ。その「誰か」って誰よ!っていう(笑)。幽霊が生まれるんです。
斎藤 それは面白い。
福嶋 一〇人くらいの集団になると、それぞれが勝手に、そこに居もしない幽霊を見てるんです。怖!って。
斎藤 リアル『11人いる』(萩尾望都)ですね(笑)。
福嶋 一〇人くらいの集団だと必ず、「誰かがこう言うだろう」とか「こう思っている」という「誰か」が出てきて、それが集団ヒステリーの正体だと思います。女の子は誰かがかわいそうだと思ったときに、すごく「おんな性」が発揮されますよね。たとえば、「子犬がいじめられてる。かわいそう」とか「誰々ちゃんのこと、悪く言うなんてひどい」とかにすごく敏感で、それは基本良いことなんだけど、全員でかわいそうな「誰か」をかばい始めちゃう。
斎藤 まさしく幻想の友だちを見てしまうわけですね、自己投影の器として。たぶん「みんな言ってるよ」の「みんな」もその「誰か」なのかもしれない。みんなとしての誰か。それは五人では生じないが一〇人では生じると。すごく興味深いですね。
福嶋 何人から幽霊が出るのかは検証してないですけど(笑)。
斎藤 ももクロは大丈夫でも、AKBみたいに48人もいたら幽霊も多そうですね(笑)。
福嶋 ほぼ実体化してるんじゃないですか(笑)。だからわたしは『友だち幻想』が示すように、なるべくグループを作らないというのがいいと思っています。
斎藤 一〇人いたら五人・五人に分かれるようなグループを作らないということですか。
福嶋 一〇人の場合でも、さっき言ったような、オタク話はこの子、ご飯食べるのはこの子、という風にゆるいつながりがいっぱいあればいい気がするんです。
2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。