昨日、なに読んだ?

File42. 次の連載を考えるときに読む本
渡辺武・内田九州男・中村博司『カラーブックス 大阪城ガイド』、今橋映子『フォト・リテラシー  報道写真と読む倫理』、青柳いづみこ『ドビュッシー 想念のエクトプラズム』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【西島大介(漫画家)】→→王谷晶(小説家)→→???

 先日『ディエンビエンフー TURE END』第3巻が刊行されて、IKKI版から考えると12年、構想を凝縮した初期短編『とらしまもよう』から考えると17年も描いてきた「ベトナム戦争」を題材にした大長編『ディエンビエンフー』が完結(トゥルー・エンド)しました。長かったし、角川書店(現KADOKAWA)、小学館、そして双葉社と版元を渡り歩いているので、さすがに感慨深いです。Xin Cam On.(ベトナム語でありがとう)

 完結はいいけれど、次の連載どうしよう? ということで、新しい作品のアイデアを探すべく、つまみ食い的に読んだ本の中から何冊かを紹介したいと思います。

 渡辺武・内田九州男・中村博司『カラーブックス 大阪城ガイド』(保育社)は、「大阪築城400年まつり」を記念して刊行された文庫サイズのカラー図解。初版は昭和58年。フィルムの写真の味わいと、手描き図解のクオリティが素晴らしく、読者を大阪城へと誘ってくれます。ytv(讀賣テレビ)の60周年記念キャラクターのデザインを担当していて、キャラクター「シノビー&ニン丸」でマンガ出せませんか? とゆるく打診されたものの、僕はギャグが描けないから難しいと悩んでいたのですが、「大阪城探検」のような資料性・歴史性の高い内容なら描けるかもと思いました。とりあえずは、大阪城を正しく描けるようになりたい。

 最近ご縁あってイベントでトークをしたお相手が、長島友里絵さん、藤岡亜弥さん、かくたみほさんと、みんな写真家の方。せっかくだから、もう一歩踏み込んで写真について考えてみようと手に取ったのが今橋映子『フォト・リテラシー  報道写真と読む倫理』(中公新書)。拙著『ディエンビエンフー』でも「決定的瞬間」という言葉を何度か使っていますが、写真の価値を決定するかに一見思えるこの言葉を疑い、ひっくり返し、インスタやフェイクニュースまでを射程に入れた分析的な内容。自分の浅さを痛感するとともに、写真という芸術表現についての理解が深まる素晴らしい入門書でした。倫理を問う姿勢って覚悟がいるけど、そういう本や表現が好きです。ちなみに「フォト・リテラシー」は著者の造語。

 実は次の連載として唯一確定しているのが、クレマチスの丘のベルナール・ビュフェ美術館で配布される『月刊ビュフェくん』。マンガだけでなく、編集、デザインまでを担当する一人雑誌になります。画家ベルナール・ビュフェの時代を理解するには、もちろん美術館が刊行した図録も重要だし、『サン=ジェルマン=デ=プレ入門』も欠かせないし、サルトルも読んだほうがよさそうだし、パリ派や印象派絵画、19世紀末音楽についても調べなきゃ、ということで読んだのが青柳いづみこ『ドビュッシー 想念のエクトプラズム』(中公文庫)。「音楽の印象派」とまとめられがちなドビュシーを、魔術的、神秘主義的なダークサイドな部分をピアニストの目線で、ダヴィンチ・コードっぽく(あとがきより)解き明かす一冊。やはり、作家や歴史を独自の目線で語るのは面白いです。新連載『月刊ビュフェくん』にも少なからず影響を与えているはずです。