上田麻由子

第22回・まぼろしのあんさんぶる

『あんステフェスティバル』

 ここは、アイドル養成学校・私立夢ノ咲学院。今日はアイドルたちが組む「ユニット」が一堂に会する、一日限りのお祭り。その大詰め、実力派で知られる学院No.2ユニット・紅月の唯一の2年生、神崎颯馬がふと、生徒会副会長でもあるリーダーの蓮巳敬人に語りかける。「蓮巳殿、ひとつ問いたい。我は成長できたのであろうか? おふたりとともにあれる『あいどる』へとなれたであろうか?」

訪れる終焉

 2015年4月にアプリゲームがリリースされ、早くもその翌年6月に始まった舞台『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』(「あんステ」)は以来、現在にいたるまで最もチケットの取れない舞台のひとつである。これまで、ユニットTrickstarが学院に旋風を巻き起こしていく「メインストーリー」を3作かけて、そして騎士道ユニットKnightsに「王様」と呼ばれる天才・月永レオが帰還するまでを描いた「イベントストーリー」を基にした『あんさんぶるスターズ!エクストラ・ステージ』〜Judge of Knights〜(第11回「まぼろしの騎士団殺し」参照)の合計4公演が行われている。今回の『あんステフェスティバル』は、これまで「あんステ」に出演した8ユニットが共演する、初めてのライヴだ。

 2・5次元舞台で、作中の楽曲を歌い踊るガラコンサートが行われるのは、珍しいことではない。『ミュージカル「テニスの王子様」』の『Dream Live』はこれまで10回以上行われているし、ミュージカル『薄桜鬼』、超歌劇『幕末Rock』のような本編とは別のライヴもあれば、ミュージカル『刀剣乱舞』のように二部構成で後半をライヴにしたり(ライヴ中心の『真剣乱舞祭』もある)、あるいは前日譚からライヴ当日へとシームレスにつなげる、B-PROJECT on STAGE 『OVER the WAVE!』のような挑戦も行われている。2次元のキャラクターや若手俳優がある種の「アイドル」になる2・5次元舞台が、ライヴととても相性がいい。

 アイドルというのは、終わらない文化祭のようなものである。しかし、その永遠とも思える繰り返される時間のなかにも、いつか卒業はやってくる。2・5次元舞台の極北ともいえる『舞台「刀剣乱舞」悲伝 結いの目の不如帰』(第21回「まぼろしの物語」参照)がこの夏、完膚なきまでに突きつけたひとつの「結び」は、2・5次元舞台というジャンルそのものへと波及して、何かがひと段落ついてしまいそうな気配が、このところ拭えない。日本青年館が建て替わり、六本木のブルーシアター、そして2・5次元専用劇場として名を馳せたアイア 2.5 シアタートーキョーも年末での閉館が決まった。そんな終わりの気配のなかで行われたこの『あんステフェスティバル』でも、前述の紅月、そして学院No.1ユニットfineの3人を演じるキャストの計6人が今回をもって「卒業」することが、あらかじめ発表されていた。

夢に手が届くステージ

 しかし、いざ幕を開けたステージは、さすが劇中で行われるライヴが大きな見どころの「あんステ」らしく、息つく暇もない盛り上がりをみせた。いや、正直に言うと、8ユニット立て続けの大忙しなセットリストには、もう少し息をつく間や、ユニットが共演するからこその会話などが欲しかった。とはいえ、本編ではたったひとりで歌っていた曲でユニット全員が揃っていることをみんなで喜んだり、物語の流れ上しんみりと聴き入っていた曲でペンライトの海を波立たせたりできるのは、やはりライヴならでは(2・8キロ離れたグッズ売り場に行く体力がなく、限定ペンライトは入手しそこなったが……)。独創的なユニットたちが、それぞれのやり方で会場を次々と自分たちのカラーに塗り替えていった。

 少年漫画的なヒーローとして、閉ざされた学院に新しい風を吹かせた勢いで、アイドルらしいアイドルとしてきらめきをふりまくTrickstar。マイクスタンド芸やぴったりと身体を包む衣装に代表される、夜闇の色香で惑わすUNDEAD。会場をダンスホールに変えてしまう双子の2wink。パフォーマンスの完成度に、卒業が一層惜しまれる紅月とfine。新キャストの天満光役・奥井那我人の無邪気さとリアルな子供らしさで「ちいさくてかわいい」を奇跡的に実現させ、みーんなを笑顔でハッピーって感じにしたRa*bits。特撮ヒーローというともすればギャグになってしまいそうなコンセプトを、全力の情熱で愛着深さに変えてくれる流星隊。

 なにより、王様を擁する騎士たちのユニットKnightsがステージに現れるときの「来るぞ、来るぞ」という、会場全体の声にならない期待感にはものすごいものがあった。本作には経験値のまだあまり高くないキャストも大勢いるし、スキルが足りなくてもがむしゃらさで輝けるのが2・5次元やアイドルものの良いところだ。とはいえ、数々の2・5次元舞台で主役をつとめ、一癖も二癖もあるキャラクターを表現することに関しては文句なしのスターである5人が一堂に会するパフォーマンスには「2・5次元ってこういうことですよ」と声高に叫びたくなるような、誇らしさが満ちていた。2019年にはアニメ化が予定されているし、キャラクターCGによるバーチャルライヴ(『あんさんぶるスターズ!DREAM LIVE』、通称「スタライ」)も回を重ね、「あんスタ」のキャラクターが動くことに多少は慣れてきた。それでも、2・5次元の彼らの一挙手一投足には、アプリゲームで何度も見てきたカードがふと重なる瞬間が何度もあって、初めて見たのにすでに知っていたような、点と点とが繋がれたような、まるで夢が現実になったような感覚があり――それこそ2・5次元ということだ――それをかなえる5人の手練手管にはおおいに目を奪われた。

遺される、美しい残響

 原作ゲームでは、Trickstarのゲリラ的な革命が起こってからの1年を中心にさまざまな「イベントストーリー」がランダムに描かれ、生徒たちは悩みを抱えながらも、愛と夢と希望だけでなく絶望や執念もうずまく学院で、見知らぬ人を面食らわせるほどの個性をすくすくと育んでいる。ユニットの先輩が卒業してしまう3月は当然、いろいろなドラマが生まれるし、それはいくつかの「イベントストーリー」で描かれている。しかし、舞台「あんステ」では、物語はまだ始まったばかり。そこで今回のライヴでは、冒頭に挙げた紅月の一幕のように、キャラクターの歩む道と、それを演じるキャストとのあいだに適度な距離を保ちつつも、お互いに寄り添う形で「卒業」が描かれていた。

 では何人かのキャストが卒業するもう1つのユニット、fineの場合はどうだろうか。いつもはわがままでプライドの高い姫宮桃李が、柄にもなくはしゃぎまわる。その理由は「終わってしまうのが寂しい」から。それは、その日のステージが、なのか、それとも彼が敬愛する「皇帝」天祥院英智と過ごせる日々が、なのかは、はっきりとは明かされない。「いま僕は、夢の中でしか見られなかった場所へたどり着ける気がするよ」という英智の静かな語りには、本当にすべてが終わってしまうような、せつなさとすがすがしさとが込められている。病弱ゆえに、あらかじめ「終わり」を知り、その深淵を覗き込み続けた英智が発するからこそ、この言葉は重い。

「みんなで見られる夢があるなんて知らなかったよ、本当にありがとう」という、彼からの感謝の一言は、ライヴ中盤で歌われた、彼がかつて「皇帝」として君臨する際の孤独な決意をあらわしたような「Neo Sanctuary」との落差を思えば、より深く響く。「みんな」はfineのメンバーを指しているのか、それとも他のユニットを含めた夢ノ咲学院のアイドルたちを指しているのか。それがこの日、作品の舞台のモデルのひとつでもある横浜にある体育館にぎゅうぎゅうに集まった大勢のファンを含めての「夢」だと考えるのは、あまりにも夢見すぎだろうか。

それから、夢の先へ

 この英智の刹那的なビジョンを、「あんスタ」では明星スバル擁するTrickstarが、まさに英智が憧れた、アイドルならではの奇跡の力でひっくり返していくところから物語が動き出す。同じように今回の『あんステフェスティバル』も、紅月とfine(の3人)の卒業セレモニーが、抑えたトーンながらおおくの涙を誘いながらも、悲しい終着点になることはなかった。

 横浜公演の千秋楽での座長あいさつで、スバル役の小澤廉は「何者でもなかった自分たちを、キャラクターにしてくれた」観客や他のキャスト、そしてキャラクター自身に感謝を述べつつも、しんみりとした顔で帰ることを許してはくれなかった。できることならキラキラの笑顔で「泣くなら、笑いながら泣いてください」と約束させられたのだ。気持ちの整理はきちんとさせてくれつつも、あくまでさわやかに今日をしめくくること。振り返ると、たしかに思い入れのぶんキャストの卒業は悲しいけれど、それと同じくらいこの「あんステ」に、今回のライヴで新しい種が撒かれていることにも気づかされる。

 たとえば、Ra*bitsのキュートでありながら少し頼もしくもなったパフォーマンスに。ヒーローらしく「輩(やから)」からわたしたちを守ってくれた、流星隊の結束力に(あの一幕は、会場周辺の治安的な意味での緊張感からわたしたちを解放してもくれた)。忘れてはいけない、KnightsやUNDEADも依然として君臨したままだ。このライヴでもおおいに恩恵を受けた、ユニット曲などの音楽(キャラクターだけでなく2・5次元の彼らに重なる瞬間が多々あった)と同じくらい、「あんスタ」には波乱万丈の「イベントストーリー」という宝石がまだまだいくつも眠っている。それが磨かれ、キラキラと輝く日がそう遠くないことを祈りたい。