ちくま新書

玉城氏対佐喜眞氏 沖縄の分断を生んだマスメディアの責任に迫る

沖縄県知事選挙は大接戦のうちに終わりました。米軍基地や歴史認識をめぐる分断はなぜ、どのように生じたのか。日本のジャーナリズムが果たした役割とは――。 10月のちくま新書の新刊、『沖縄報道――日本のジャーナリズムの現在』の「はじめに」を公開します。

 かつては「温度差」と呼ばれていた沖縄と本土の意識差は、その後「溝」となり「対立」へとより深刻化している。さらに悲観的にいうならば、いまや「分断」(断絶)ともいえる状況にまでなっているともいえる。それとともに、「沖縄差別」あるいは「沖縄ヘイト」なる言葉が市民権を得るような状況にもなってきた。
 こうした状況は、当然ながら自然発生的に生じたものではない。そこには、オキナワを報じるメディアが大きく関与している。本書では、そうしたメディア状況を紹介し、沖縄のメディアと県外のメディアが何を報じ、あるいは報じていないのかの実情と、それを生み出す構造を解き明かしていきたい。
 その糸口の一つは、メディア自身を知ることである。そこで、沖縄の新聞・テレビの歴史と現況をまとめている(第一・二章)。日本の本土メディアとの違いが興味深い。そのう えで、沖縄差別なるものの内実を探る。その差別観を引き起こしているメディアの責任は重い(第三・四章)。
 一方で、沖縄メディアが議論の俎上に上るとき、沖縄地元紙が米軍基地問題に関して一方的な言説しか紹介せず、偏向しているのではないかということのみが焦点に取り上げられがちだ。関連して最近ではネットを中心に、そもそも地元紙に限らず日本のメディア全体が、沖縄の「真実」を伝えていないのではないかというマスメディア総体に対する批判にも繫がってきている(第五・終章)
 これは、メディアの主張がどうであれ厳然と存在する、米軍基地問題に代表される今日の沖縄が抱える数々の問題と直結している。その解決に、私たちがどう関わっていくことができるのか、その議論の素材を提供することができればと思う。同時に本書が、民主主義社会の維持・発展には不可欠な、ジャーナリズムのありようを考えるきっかけになれば幸いである。
 本書のタイトルである「沖縄報道」を語る上で、二つのお断りをはじめにしておく必要があろう。
 一つは、あえて〈新聞〉を主たる題材に上げていることである。すでに今日の日本社会においては(それは世界的潮流でもあるが)、紙の新聞はもはやメディアのトップランナーではなくなっている。少なくとも、若者層をはじめ一般市民がニュースを得る手段として接触するメディアは、インターネットであることが一般的で、それ以外だとテレビやラジオが日常生活に占める割合が高いことと容易に想像される。
 それでも現在において、多くの国ではインターネット上を含む、世の中の生ニュースを発信しているものの中核には新聞社が存在する。例えば、グーグル(Google)にしろヤフー(Yahoo!)にしろ、あるいはライン(LINE)やスマートニュース(SmartNews)にしろ、そのニュース提供元の多くは、いまだに新聞社や新聞社が経営上で支えていることが一般的な通信社であるのが現実だ。すなわち「報道」機関としての新聞社は、賞味期限が切れているどころか、そのど真ん中に居続けているということだ。
 それは当然、沖縄関連ニュースにも通じ、だからこそおそらく、普段は沖縄地元紙を読まない(もっといえば新聞そのものを読む習慣がない)にもかかわらず、本土の一部市民から沖縄発の新聞情報が、大きな非難の対象となっているのだ。もし、全く社会的影響力がないならば、わざわざ批判する必要や、潰してしまえと声高に叫ぶ必要はないことになるからだ。
 もう一つは、あえて沖縄とそれ以外の日本を分離し、「沖縄」と「本土」という対立軸を設定していることだ。場合によってそれは、ためにする議論に陥る可能性すらあるが、現実の政治、社会、そして言論状況を見る限り、あえて対立構造を把握しておくことは大切だからだ。
 沖縄から見て沖縄以外の日本を指す、あるいは沖縄県民から県外の人を指す言葉としては、「ナイチャー(内地の人)」や「やまとんちゅ(大和の人)」などがあるが、本書では 「本土」を原則として使うことにする(ちなみに、沖縄県民をさす言葉としては、「ウチナーンチュ[うちなんちゅ]」がある)。
 いうまでもなく、沖縄以外の各道府県においても、さまざまな文化歴史を育んでいるわけで、沖縄だけを特別視し、そのほかを十把一絡(じっぱひとから)げにすることは好ましくないが、本書において「本土」は、日本の政治的中心であり、中央政府の所在地である「東京」とほぼ同意語であると捉えてもらいたい。
 いま沖縄は、日本の民主主義の試金石であるとともに、日本のジャーナリズムが試されている地だ。

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