荒内佑

第24回
鳩のロースト、インターネット

4th Album『POLY LIFE MULTI SOUL』が各方面で大絶賛!!! 今、もっとも注目されるバンドceroのメンバーとして多くの楽曲で作曲、作詞を手がける荒内佑が、〈日常〉とそこに流れる音楽の話を綴る大好評の連載。 更新は毎月1回、第4水曜日になります。

 
 先月はバンドのツアーでソウル、台北、そして初めて香港に行ってきました。アテンドしてくれたのは「White Noise Records」というレコ屋の店主、ゲイリー。どことなく春風亭小朝師匠を感じさせるフォルムをしてて、スキンヘッドにシュプリームのキャップ、短パンにTシャツ、VANSのオールドスクールという服装。口癖は「Yeah Yeah Yeah Yeah, like a~」で、聞き取り易い英語を話す。めちゃ良い奴、かつ仕事ができる。言わずもがな音楽も詳しい。到着した日、そんなゲイリーが夕飯へ連れて行ってくれた。


 滞在したのは九龍地区(多分)で、繁華街。ネオンと高層ビルと、古い西洋建築があるような場所で、外人がイメージするような香港です。で、ゲイリーに連れられ街を歩くこと数分。日本でも入るのが躊躇われる薄暗い雑居ビルの階段を登り、一室のドアを開けた所が店だった。蛍光灯が明るく灯り、回転テーブルが3つ置かれ、壁にはHAPPY BIRTHDAYのデコレーション(毎日誰かの誕生日である)。豆をつまんだり、店主らしきオッサンが瓶ビールの開栓に失敗したり、乾杯したりしてると一品目が出て来る。鳩のロースト。調べたところ丸揚げが主流らしいけど、この時は手羽先くらいのサイズのやつが山盛りになっていた。味はレバー、食感はもも肉で美味かったです。自分は胃が疲れてたのでそんな食えなかったけど隣にいた厚海義朗さんはガンガンいってた。ゲイリー曰く「香港人は中国人と一緒にされるのを死ぬほど嫌がる」「ジャッキー・チェンは(政治的な背景があって)香港を中国の一部として語るからみんな大嫌いなんだ」と弁を振るう。


 皿の上で骨になっていく鳩を眺めながら、僕は最近読み直した岡崎京子の短編「香港コーリング」(『退屈が大好き』所収 1987年)を思い出す。探偵もののパロディ(というかパスティーシュ)なんだけど、登場人物である香港人が「早く東京帰るあるネ」「ワタシアナタ助けたいあるネ」「愛する人の姉さん救う コレトーゼンネ」ていう懐かしすぎる戯画化された中国人の喋り方をする。当然、そんな奴は香港に一人もいないんだけど、最近日本で聞かない(見ない)な~、「〇〇あるネ」って。やっぱりポリコレ的にマズいんだろうか。もし自分がコメディの脚本家だったとして、香港人(中国人)の料理人が出てくるとする。そいつに「コレは鳩あるネ、そんでこっちはシャコあるヨ」って台詞を書くだろうか……<ナシ>派と<アリ>派の割合の予想がつかないけど、僕は一瞬悩むがまぁ書かないと思う。


 岡崎京子を弾劾したい訳ではなく、自分の興味は今日のエキゾティシズムの在り方です。エキゾティシズムはある意味、(前時代の)おおらかな勘違いや思い込み、もしくは文化の戯画化といえる。件の「中国喋り」なんか典型的なやつである。
 エキゾティシズム=メディアの未成熟さによる情報不足から勘違いや思い込みが起こるとされて来た。そしてネットに溢れる情報によって未知なるものは既知に代わり、エキゾティシズムは駆逐される、という定説がある。しかし、本当にそうだろうか。例えば、自分がGoogleマップマニアで世界の街を徘徊し、情報をかき集め、いざ香港へ赴いた時に「ネットで見飽きた光景だわ~」ってなるだろうか。まぁなる人もいるだろうが、情報が多いことと理解することは根本的に違う。だって鳩のローストをいくら検索したって食ったことにはならないでしょう。それよりもエキゾティシズムを強く動かすのは文化を戯画化したい欲望だろう。それがネットによって(自主)制限されている結果、「〇〇あるネ」喋りがなくなった、ということでしょうか。社会のリテラシーが上がったとも言えるし、堅苦しくなったとも言える。映画の『ブラックパンサー』なんて、戯画化したい欲望とリテラシーのせめぎ合いで出来ている作品だと思う……実はコレが一番言いたかったりして。


 ところで海外から自国に戻って来ると見慣れた街並みもエキゾティックに見えるって話がある。そこら辺にいる鳩もローストされてテーブルに上がると異国に来たなぁ、とそれなりに感じる(もちろん食用なんだろうけど)。ただ口にしたら普通に美味いんで、日本でケンタッキーとか手羽先食べてるのと大して変わらなくなってくる。ネオン煌めき雨が降る街を歩いてて「ブレードランナーや……」と思ってても、路地を入ると誇張抜きに死ぬ程臭かったりして急に現実に引き戻される。海外に行くってそういうことなんだろうけど、香港は特にそのダイナミズムが大きい街でした。エキゾツンデレって感じだろうか。
 

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