【季節・冬 分類・生活(その他)】
湯使ふ
傍題 湯を使ふ 湯の温度上げる
実家では、基本的に給湯器の電源は切られていて、風呂に入るときにだけボタンを押すことになっていた。ガスの無駄遣い防止のためだ。だから一人暮らしを始めた私も、何の迷いもなくそうしていたし、よその家でもそれが当たり前だと思っていた。極寒の朝も、冷たい水で顔を洗っていた。
しかしあるとき、付き合い始めた相手の家に行くと、とくに水をつかっていないにも関わらず、給湯器の電源がオンなのである。聞くと、洗顔はもちろん、帰宅して手を洗うとき、昼ごはんの洗い物など、いつでもお湯をつかうという。そんな贅沢が許されていいのかと怒り、君の辞書に「節約」という言葉はないのかと問い詰めたが、「ガス代? そんなに変わらないでしょ〜。ちょっとぐらい高くても、僕はあったかいのがいい」と言われた。水のあたたかさを金で買うという発想に、衝撃を受けた。もしかして私も、朝お湯で顔を洗っていいのか……?(いいに決まっている)。
それ以来、給湯器は常時オン派に寝返った。冬、日常的にわびしい思いをしなくて済む。それどころか、手先が冷えてきたら洗い物をすることで、家事をして温まるという技まで身につけた。冬でも水で洗い物をしている人に言いたい。「ぬくもりは金で買える」。毎月1個コンビニスイーツを我慢すれば、あなたもいつでも湯をつかえる世界の住人になれるのだ。
夏は冷たい水の方が気持ちいいので、油汚れがひどい洗い物でなければ水を使っている。私がお湯をつかいはじめるのは11月初旬。風呂の湯の温度を1度上げるのもこの時期だ。人によって時期に差はあるだろうが、ハンドルの角度を変えるだけで「湯を使ふ」、ボタン一つで「湯の温度上げる」ことで、冬を実感することも多いのではないだろうか。
〈例句〉
横綱の負けを聴き湯を使ひけり 佐藤文香
湯を使ふ手のみづかきを広げては