ちくま新書

地域の活力を高めるアイデア

都市の栄枯盛衰やライバル関係を振り返り、従来の議論を整理。その先へ……

東京一極集中と少子化で苦しい状況にある地方都市。煮え切らない国の政策に翻弄されず、かつての活力を取り戻すにはどうしたらよいでしょうか。各地方の来歴をデータで振り返りながら、これからの地方都市を考える10月刊ちくま新書『地方都市の持続可能性――「東京ひとり勝ち」を超えて』の冒頭を公開します。

はじめに

 地方と東京を毎週のように行ったり来たりするようになって、かれこれ20年近い年月が経過した。留守宅がさいたま市にあるということもあって、17年間勤務した新潟大学のある新潟市とさいたま市の間を毎年50往復ほど、それもほとんどが上越新幹線を使ってだった。
 私の研究分野は地方自治や公共政策、そして全国各地のご当地グルメなどの食文化に関するものである。当然のことながらフィールドが地方ということもあって、この間、全国各地を飛び回っていた。研修講師を引き受ける機会も多く、国内の出張も年間20〜30回はコンスタントにこなしていた。
 そのたびに地方都市をつぶさに観察してきたが、ここ数年、潮目が変わってきたように感じられるのだ。もともと、過疎の市町村などではすでに人口減少が進み、地域経済が厳しい状況となっていることはだれの目にも明らかだったが、それが中規模の都市や県庁所在市などの多くでも人口減少が本格化し、地域社会が縮み傾向となっていることが目にみえてきているのだ。地方都市の空気は、重くよどんでいると感じられる。停滞感と閉塞感にあふれているといってもいいだろう。
 その一方で地方から東京圏に戻るといつも風景が異なる、というくらい、高層ビルの建設ラッシュで、主要なターミナルは来るたびに工事中で通る道が毎回変わるような有り様になっている。交通アクセスも日々便利になっているような状況で、都市部の賑わいはバブル期の再来を彷彿させる。まさに東京ひとり勝ちの状況なのだ。
 もちろん、地方都市の中にも活気にあふれているところもないわけではない。また、中山間地や離島の中にも若者が少しずつ戻り、元気を取り戻しているところもある。だが、全般的にみれば、地方の衰退は火をみるよりも明らかだ。
 そのような中で2014年に日本創成会議が「消滅可能性都市」の問題を提起し、地方創生がクローズアップされたのだった。
 私自身も地方創生の取組みに関わるべく、国が創設した地方創生人材支援制度に応募し、2015年から一期生として大学の仕事の傍ら、群馬県みなかみ町の非常勤参与として派遣され、現在も地方創生の総合戦略を実現するための手伝いをしているが、人口減少の流れがそう簡単に変わるわけもなく、地域の活性化に向けて、地域の人たちと手探りの中で様々な試みに取り組んでいる状況にある。地方創生は一日にしてならず、ということを皮膚感覚で体感する毎日である。
 本書は、改めて都市の豊かさとはどのようなものなのか、これまで様々な都市が栄え、そして衰退してきた歴史を振り返りつつ、国全体が本格的な人口減少時代を迎える中で、今後の都市のあり方について考察を加えたものである。
 まず、第一章では、東京ひとり勝ちの状況について客観的なデータに基づいて詳細な分析を行った。
 都市の活力を示すデータは様々あるが、よくある都市ランキングのようにあまり複雑な算出方法にしてしまうとかえってわかりにくく、しかも、実態をストレートに示すことから遠くなりがちなため、ここでは人口という一番分かりやすい指標を基本として、このほか、人口増減率、昼夜間人口比率、平均年齢、外国人人口比率、平均所得、財政力指数といった7つのデータを用いて、日本の都市の栄枯盛衰の現状について2015年の国勢調査の結果を中心として分析を試みた。
 次に、第二章では、消滅可能性都市が想定された2040年からさらに5年が経過した2045年に日本がどのような状況になっているかについて、国の推計を踏まえ、都道府県、そして市区町村の衝撃の未来像を明らかにした。
 まさに東京ひとり勝ち、それも都心3区の独走状態が顕著になり、地方都市のほとんどは壊滅的といってもいいような状況に追い込まれていくことが見込まれる中で、国が取り組んできた様々な地方自治などの改革、すなわち、平成の大合併と道州制論議、さらには首都機能移転論の顚末を俯瞰し、結果としてこれらの改革が地方の衰退に拍車をかけたのではないかということを検証する。
 第三章では、国策が地方都市をどのようにして翻弄してきたか、その栄枯盛衰の歴史を眺めることで、今後の都市のあり方を再検討するための教訓を考察した。
 まずは江戸時代以前からの都市の栄枯盛衰について、特に江戸時代に入ると北前航路などによって日本海側の都市が存在感を示していたことに言及した。明治維新以降は、富国強兵と殖産興業という国策の中で、中心が日本海側から太平洋側に移り、さらには全国各地の炭鉱などを抱える工業都市や開拓によって発展した北海道の各都市、軍港などによって栄えた軍事都市が国策に翻弄されていく様を分析することで、都市のあり方を考えるにあたって、教訓とすべき点を明らかにした。
 第四章では、今、繁栄している都市はどのような状況になっているのか、そして特に都市間競争の時代ともいわれる昨今、都市のライバル関係はどのようになっているのか、これらについて分析を行った。
 具体的には企業城下町と称されるような都市の繁栄と衰退や、県都やブロックの中心を競い合うライバル都市同士の関係について、時代とともにどのように移り変わっていくか、また、ライバルの存在が都市の成長にどのようなプラス面、マイナス面をもたらしているかについても言及した。
 最後に第五章では、これまでの詳細な分析を踏まえ、このような厳しい時代にどのような都市が生き残るのか、その条件について検討を加えた。人口減少が本格化する中で、もはや人口増だけが都市の豊かさのバロメーターではなくなると考えられる。むしろ、様々な人や場所と関わり、様々な関係性を持つ都市こそが豊かであり、交流人口や関係人口というものを増やすなり維持することが都市の価値を高めることとなっていくだろう。
 ここでは地方都市の生き残り策を中心にいくつかの可能性について事例を挙げて言及するとともに、ベッドタウン都市や東京などの大都市の生き残りの視点、特に災害などの可能性を踏まえれば、改めて首都機能の一部移転などを進めるなど大都市のスリム化こそが、都市と地方相互にとっての唯一といってもいい選択肢であると考え、今後の都市のあり方を考える論点を提供することでまとめとしている。
 本書は、地方都市をこよなく愛する一介の地方自治研究者が、地方と東京、双方の課題と今後のあるべき姿について、様々なデータや歴史を紐解く中で想いを綴ったものである。これまでも再三述べてきたように、地方あっての東京であり、東京あっての地方である。無用な対立を乗り越え、地方、東京の双方が持続可能な地域社会であり続けるための方策を私なりに述べたつもりである。本書を特に毎日の痛勤ラッシュにお疲れ気味の、それも地方出身のサラリーマン・サラリーウーマンの方々に読んでいただければ望外の幸せである。

【本書の目次】

第一章 データにみる東京ひとり勝ち
第二章 だれが都市を殺すのか
第三章 国策と地方都市
第四章 都市間競争の時代へ
第五章 人口減少時代に生き残る都市の条件