佐藤文香のネオ歳時記

第10回「ダークマター」「天道虫集ふ」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・動物】
天道虫集ふ
傍題 亀虫家に入(い)る

 文香さん、「テントウムシ 越冬」で画像検索してみてくださいよ、と言われた。みなさんもぜひ、検索してみてください。ご覧になりましたか? すごい量のテントウムシが身を寄せ合っているでしょう。一言で言えば、キモいですね。テントウムシといえば羽に模様があって、それだけで集っているイメージがある虫なのに、それが仰山いるのですよ。わたしゃ一匹で十分だよ。写真で見ると、同じ模様のテントウムシが集まっているのと、違う模様のテントウムシが集まっているのがあって、違う模様のやつは違う種類同士なのかと思いきや、みんなナミテントウらしい。ナミテントウは、黒に赤の丸ふたつとか、朱色に黒の点たくさんとか、いろんな柄があるようだ。
 もともとテントウムシは嫌いじゃなかったのだが、テントウムシに擬態する「テントウゴキブリ」というゴキブリがいるということを知ってからちょっと怖くなった。羽根はたしかにテントウムシっぽいんだが、腹がヤバいし、触覚が長すぎる(こちらも画像検索してみてください)。いや、テントウムシに罪はないし、テントウゴキブリは集団越冬しないだろうからいいのですが。ちなみにゴキブリは夏の季語。私の一番嫌いな季語です。
 俳句界の虫博士・クズウジュンイチさんによれば、カメムシやゴミムシの一部、蝶でもムラサキツバメは集団越冬するとのこと。これらの虫たちは夏から秋にかけて成虫になり、越冬したら春に産卵して死んでいく。産卵まで生きながらえねばならないので、あまり風の当たらないところに集まって、みんなでがんばるのだろう。ヨコヅナサシガメというカメムシの一種は幼虫で集団越冬するのだが、これまた見た目が凄まじい。
 中学時代、コーラス部の全国大会で福島県に行ったとき、あれは秋の終わりの寒い日だったと思うが、ホテルの部屋にでかいカメムシが十匹以上入っていて、同室の子と一緒に悲鳴を上げながら退治した思い出がある。カメムシもあたたかいところで冬を越すために入ってきていたのだなあ。秋の季語に「蛇穴に入る」というのがあり、これは冬眠のために蛇が穴に入ること。「亀虫家に入る」も、たいへん季語っぽいので、傍題として提唱します。

〈例句〉
天道虫集ふをマジで伝へたく 佐藤文香
iPhone画面割れて亀虫家に入る