加納 Aマッソ

第8回「わざと外したん?」

 子どもというのは何かにつけてミスをするが、善の取り扱いミス、これがとにかく恥ずかしい。
 小学校の頃、地域のバスケットボールチームに入っていた。厳しいコーチの下で毎日の練習はかなりしんどかったが、最高戦績は大阪市内で3位という、なんとも微妙なもんである。しかしうちのチームは、フリースローだけはうまかった。年に一回行われる、各チームの代表者で競われるフリースロー大会で、数度の優勝を経験していた。その大会の代表者を決めるチーム内選考で、6年の時に運よく最後の二人まで残ったことがあった。相手はチームのエース、カナである。あとは私とカナが交互にフリースローを行い、外したほうが負けという状況だった。
 その時ふと、見学に来ていたカナの母親が目に入った。うわっ、カナのオカン見てるやん。えー。カナのオカン、カナが負けたらガッカリするんとちゃうかなぁ。うちのオカンは来てへんし、こんな大会あるの知らんしなぁ。ていうか、たかがフリースロー大会やん。フリースローじゃ飯食われへんし。いやでもカナのオカンは、将来この子にはフリースローで飯食わせてもらいたいわぁ、みたいな顔してるなぁ。そんなことを考えていたら、合図の笛が鳴った。私はシュートを放ったが、その球はゴールから大幅に外れた。
 そこでうまく悔しそうな顔をして終わり、ということであれば問題はなかったが、その外し方がまずかった。雑念が多すぎて、なんというか、「なんやそれ!」みたいなフォームで投げてしまったのだ。見守っていたみんなも「なんやそれ!」みたいな顔になっていた。予選ではポスポスとシュートを決めていた綺麗なフォームが、なんで決勝でこんな崩れんねん? なんか阿波踊りみたいになってなかった? え? そんな微妙な空気の中、後攻のカナがきっちりとシュートを決め、チームの代表はカナに決まった。
 練習後、トイレに入ると、カナが後を追うように入ってきて、「わざと外したん?」と聞いてきた。もう最悪である。本人にバレたばかりか、私には明日からチームメイトに「徳島」みたいなあだ名をつけられる未来が待っている。失意の中で、どうにかこうにか「なんで〜? ちゃんとやったで〜」と言葉を絞り出したが、カナはビビるほど納得していなかった。窮した私は、コントのようなタイミングで「ぅう!」とお腹が痛くなったフリをして、二回目の「なんやそれ!」の顔をしたカナを尻目に、個室に飛び込んだ。そして、ヘタなことはするもんじゃない、と、冷や汗を拭った。

 大人になった今でも思い出す。あんなことになるなら、ちゃんとシュートを決めておけば良かった。1点ビハインドの私。そのままでは情けない。このあたりでどうにか、同点に持ち込みたい。

 美容室でカットしてもらい、お会計をする。私が座っていた席の周辺に散らばった髪の毛を、美容師のお姉さんがホウキで掃いて、ちりとりの前に集めていた。掃き方があまい。ちょうどつま先があった位置の奥あたりに髪の毛がもっとあるのに。椅子をどかせて屈んで掃かないと。お釣りを受け取った私は、元の席に戻る。「お忘れものですか?」と声をかけられた。私は無言で椅子を後ろに引き、ちりとりめがけて右足で思いっきり髪の毛を蹴る。

 リベンジの善シュート、その行方は。

 

次回の更新は1月23日(水)です