加納 Aマッソ

第9回「ベンチリーさん!? ベンチリーさん!?」

 友人二人が映画のメイキング映像について議論しているのを聞いた。一人は「本編を見るよりワクワクすることがある」と言った。上映中にも、今のシーンはどのように撮影されたのかが気になり、物語の展開よりも意識がそちらに向いてしまうという。その人にとっては、DVDの特典でついてくるメイキング映像を見ることが何よりの楽しみとなる。一方もう一人は「興醒めする」と言い捨てた。撮影の裏側を見ることは、映画の世界に浸っていた自分を現実の世界に戻すことだと言う。加えて、きわめてファンタジー色の強い映画などは、はじめから観る気もしないらしい。「ありえない」と思うと同時に気持ちが離れる。手品に至っては「絶対にタネがある」時点でもってのほかと、頑なに存在を否定した。
 双方の意見を聞いている間、私はかつて観た「作品としてのメイキング」を想起していた。そしてその映画の主人公であるロバート・ベンチリーこそが、私がこの仕事を志すキッカケとなった人物の一人である。
 映画のタイトルは『The Reluctant Dragon(おちゃめなドラゴン)』、1941年に製作されたディズニー映画である。実在の脚本家であるおじさん、ロバート・ベンチリーがディズニーの本社を訪れ、ウォルト・ディズニーに絵本「The Reluctant Dragon」の映像化をお願いしに行く途中で、社内で映像作りの様子を見学させてもらうという、セミ・ドキュメンタリー映画になっている。ベンチリーさんは案内係のハンフリー君から逃げて、デッサン室やセル撮影室に忍びこんでいく。ベンチリーさんがたくさん寄り道をしてくれたおかげで、私はバンビに色が塗られるところや、ドナルドの声の録音風景を見ることができた。この時、「大きくなったら私も絶対にこんな風に作品つくる〜遊んでるみたいに見える仕事する〜」と心に誓った。余談だが、ハンフリー君が探し回る時の「ベンチリーさん!? ベンチリーさん!?」というセリフのモノマネを兄ちゃんとよくやったが、土が悪いか水が悪いか、モノマネの種はひとつも芽吹かなかった。さらに余談だが、これほどワクワクする映画が戦時中に撮影されたと聞いた時が、私が「欧米いかつ〜!」と思った最初である。(二度目は『ギャング・オブ・ニューヨーク』を観た時、最近だと厚切りジェイソンのネタ終わりの「以上!」の声がデカすぎた時)
 結局「The Reluctant Dragon」は、ウォルト・ディズニーによってすでに映像化されていて、ベンチリーさんは大金を掴み損ねて妻に怒られる、というのが映画のオチである。
 いつかすごい単独ライブを作ったら、その準備中にふらっとベンチリーさんが覗きに来てくれないかなぁと、夢をみたりもする。ベンチリーさんがやってきたら、笑顔で歓迎しながらも、裏ではこっそりハンフリー君に居場所をチクってやろうと心に決めている。

 

次回の更新は2月27日(水)です