佐藤文香のネオ歳時記

第12回「カピバラ」「グラタン」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活(飲食)】
グラタン
傍題 牡蠣グラタン

 グラタンをつくるのは面倒くさい。かんたんに言っても、マカロニを茹で、玉ねぎなどの具を炒め、ホワイトソースをつくり、それらをうまいことオーブンで焼かなければならない。手を抜くためにホワイトソースを市販品で済ませようとすると、劇的にカロリーが高くなる。我が家の料理は私が担当してるが、はっきり言って料理が好きなわけでも得意なわけでもないので、ハンバーグや天ぷらなど、つくるのが面倒なものは「家でつくらないメニュー」として登録されており、グラタンももちろんそこに含まれる。「家でつくらないメニュー」は、買ってきて食べるか外で食べるかのどちらかとなっている。なお、私がいないとき、夫は必ずと言っていいほどセブン-イレブンのハンバーグを食べている。
でも、グラタンは好きだ。母親がつくってくれたのは牡蠣グラタンが多かったと思う。今でも好きな食べ物ベスト3に入るほど牡蠣が大好きだが、当時からグラタンといえば牡蠣、鍋といえば牡蠣、というくらいに牡蠣を欲していた。自家製の牡蠣グラタンにはとろけるチーズを大量にふりかけるのがコツで、というのも実家のグラタン用の耐熱皿は深かったため、下の方を食べるときにチーズがなくなるのを避けたかったのであった。グラタンはなんといってもタマネギをバターで炒める匂いに心があたたまる。冬だ。そしてホワイトソースにダイブしたくなる。冬だ。牡蠣はすでに冬の季語だが、牡蠣グラタンはグラタンの傍題にしておきたい。
 最近食べたものとしては、里芋のグラタンが秀逸だった。芋のねっとり感にホワイトソースがからみ、さらにチーズがのびる。里芋は秋の季語だが、この料理は絶対に冬のものだ。ねっとりもったり、ちょっとくどいぐらいが冬らしい。
 しかし、グラタンを食べて残念だったという経験がある。私はセブン-イレブンのドリアが大好きで、298円のミートソースドリアやエビドリア、カレードリアなど、全種類制覇するぐらいなのだが、あるとき、エビドリアを買ったつもりがエビグラタンだったのだ。グラタンは好きだけど、ドリアと間違って買ってしまったグラタンには興味がない。思うに、ドリアはご飯、グラタンはおかずなのである。そして、グラタンに似てはいるものの、ドリアにはあまり季節感が感じられないのは、私だけだろうか。


〈例句〉
グラタンに乗るかねふくの明太子  佐藤文香
鍋敷のコルクに重く牡蠣グラタン