佐藤文香のネオ歳時記

第13回「冬太(ふゆぶとり)」「冬季限定チョコレート」【冬】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・冬 分類・生活(飲食)】
冬季限定チョコレート
傍題 Meltykiss(メルティーキッス)  Rummy(ラミー)  Bacchus(バッカス)

 冬になると、狂ったように各種冬季限定チョコレートを食べ漁る大人がいる。誰のことだろう……。冬の季語に「名の木枯る」というのがあって、「名の木」というのは名の知られている種類の木、という意味。「銀杏枯る」「蔦枯る」のように、木の種類を当てはめて使う。今回、「冬季限定チョコレート」をネオ季語としたが、これもそのまま用いるのではなく、それぞれの商品名を季語として使っていただきたい。ただし、あまりマイナーなチョコだと季語の持つ共通認識の効力は薄くなってしまうので注意されたい。
 9月〜10月になると、RummyやBacchus(どちらもロッテ)をはじめとしたお酒入りのチョコレートが発売されるようになる。今冬は1月から同じシリーズでCalvadosの発売も始まった。昼から酒を飲むのはためらわれるが(ためらいつつ飲むが)チョコレートなら誰にも後ろ指を差されることなくアルコール分を摂取でき、心も体もあったかくなる気がする。ただ、Rummyはちょっと甘すぎると思う人もいるだろう。そんな大人なあなたにオススメしたいのが、「Meltykissくちどけラム&レーズン」(明治)。これはアルコール感はしっかりありつつもチョコレートがRummyよりビター。また、Rummyは太いチョコバー2本入りであるのに対して、こちらは4つの個包装なので、少しずつ食べられる。コスパでいえばもちろんRummyなのだが、Meltykissの方もお試しいただければ幸いである。
 今では多彩な形式で売られているMeltykissだが、もともとはやわらかめの立方体チョコで、ココアがまぶされ、個包装されていて、立方体に近い四角い箱に入っていた。1992年発売当時、本当におしゃれで、とても美味しいと思った記憶がある。その頃の冬を彩っていたのは広瀬香美だ(「ロマンスの神様」は1993年。もしその頃ネオ歳時記連載があれば、夏はTUBE、冬は広瀬香美がネオ季語に選ばれただろうが、今の若い人は広瀬香美を知らないかもしれない)。Meltykissは25年以上経った今でもコンビニの第一線で売られている。お酒が苦手でホワイトチョコレートがお好きな方は、「Meltykiss とろけるホワイト」を、イチゴが好きな方は「Meltykiss フルーティー濃いちご」をどうぞ。
チョコレートといえばバレンタインデーだが、2/14は俳句の季節としては春にあたり、「バレンタインデー」はすでに春の季語。こちらはチョコレート自体に季節感はなく、あくまで贈答行事と捉えたい。冬季限定チョコは、味の濃さやパッケージの粉雪感など、チョコレート自体に冬らしさが溢れている。


〈例句〉
ひとりゐのラミーを折れば崩れけり  佐藤文香
口蓋に当るメルティーキッスの辺