漫画家入門

第9回 原画展と謝恩会と缶コーヒー

2018年年末~2019年年始

年末年始の(ほぼ)日記、特盛でお送りします。

2018年 年末

 前回の日記からずいぶん間が空いてしまった。今これを書いているのは2019年の3月だ。となると、もはや日記の体を成していないのだが、それでも思い出せるかぎりのことを書いておこうと思う。
 スケジュール帳代わりに使っているMacのカレンダーを確認すると、2018年10月から年末にかけての書き込みが普段に比べて多く、比較的忙しかったことは容易に見て取れる。その主な理由の一つは「デデデデ」という漫画の連載が再開したことにある。
 僕の連載ペースはかなり遅い。単行本1冊分を3カ月ほどかけて雑誌に掲載させてもらったのち、休載期間を同じく3カ月ほどもらい、その間を他の仕事や連載再開の準備期間に当てる。それがここ数年の、自分で決めた余裕を持たせた仕事のペース感なのだ。しかし事前に描き溜めた原稿が多少あるとはいえ、いざ連載が再開してしまうとそのストックを消費しながらの作画作業となるので、常に追い詰められているような気分で気が気じゃない。
 最終的にはストックがなくなりいわゆる一般的な週刊連載漫画家的なスケジュールになるので、普段の無味乾燥な生活がさらに輪をかけて地味になり、忙しさも相まって日々を振り返る気分になれなかった。ある程度キャリアのある漫画家なら、平常無理のない作業ペースを築いていて然るべきなのだろうが、僕の現状は、というか一度もできた試しがない。この点においては自分がポンコツ作家であるという自認があるので、こと漫画家界隈にいると肩身が狭いのだ。とにかく、日記どころではなかった。
 また年末にかけて、連載以外に二つほど手間のかかる仕事を並行して準備していた。一つは小学館でシリーズ刊行している「漫画家本」というムック本があり、毎号一人の漫画家を取り上げ、作家インタビューや書評をまとめたものなのだが、その「漫画家本vol.10」を「浅野いにお本」として年明けに刊行予定だった。10月ごろからこれまでの自分の作品について毎回2時間程度、6回ほどに分けインタビューに答えていたのだが、自分の話を聞いてもらえるというのは嬉しい反面、いい加減自分語りに辟易してしまったことは否めなかった。
 もう一つは年末に池袋のサンシャインシティで開催された原画展と、それに併せて発売したイラスト集の準備だ。イラスト自体はすでにあるものを収録するのみなので手間ではなかったが、原画展に関しては手描きのアナログ原稿のピックアップ作業や展示内容の監修などなかなかに骨が折れた。もちろん連日現場で行われていた実作業と比べると瑣末な労働であるし、イベント関係者各位に頭が上がらないが、本来一つのことしかできない自分にとっては連載との平行作業は結構な負担だった。
 会場が広かったので僕自身は5倍くらいの展示量があってもいいんじゃないかと内心ずっと思っていたのだが、実際に会期が始まると、来場者にとっては概ね満足感のある展示だったようで、空白恐怖症気味の自分の感覚はあてにならないと痛感した。不慣れなぶんトラブルもあったが、イベント自体は滞りなく終了した。しかし会期中、ずっと頭に「身の丈にあっていない」という思いが拭えずにいたので今後は今回のようなイベントごとには消極的になるかもしれない。
 それと期間中、3回ほどトークショーで登壇する機会があった。実際に会場に足を運んでトークショーに参加してくれた方の中にはそう感じた人がいるかもしれないが、僕は意外とよく喋る。自分が抱いている自分のイメージより、自分はよく喋る。無言やちょっとした「間」が恐ろしくて滑るように言葉を発してしまうのだ。口から出まかせというわけではないが、喋りながら「よく喋るなあ」と思っていることもしばしばだ。そういったことを踏まえ、デビュー20周年と銘打った今回のイベントとは何の関係もないことだが、「自分は詐欺師に向いているのではないか」という思いが特に強く残った。

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