加納 Aマッソ

第11回「雑談もせずに、」

 週の半分は人と会って打ち合わせをしている。大人はもう何かと言えば打ち合わせである。催すなら打ち合わせ、進めるのも打ち合わせ。なんなら滞るのも「どうやって滞ります?」で打ち合わせ。「打ち合わせします?」そうですねぇ。「打ち合わせるかどうか、一回ごはんでも食べながら……」「ちょっと! それは打ち合わせに入りますよ! ピピー!」でお縄。打ち合わせからは、どうしたって逃げられないようにできている。
 そんなわけで私もスケジュール帳だけは一丁前に黒かったりして、さびしい銀行口座と見比べては毎月「ふぇ〜〜〜〜〜」と言っている。「ふぇ〜」ではなく、「ふぇ〜〜〜〜〜」と長めに言う時間があるところが、真に忙しいわけではない証拠になっている。
 とは言いつつも、打ち合わせは別段嫌いではない。長時間にわたる不毛な会議には辟易するが、顔を突き合わせて他人とアイデアを出し合う作業は楽しいものだ。ゆっくりと冷めていくコーヒーも好きだし、お気に入りのボールペンの出番もたくさんある。さらに空調が最適温度だという状況が加われば、そこは決して悪い空間ではないと思っている。思っているのだけれど、その好印象は、相手には伝わっていないらしい。
 とある後輩芸人とファミレスで待ち合わせをして、ライブの打ち合わせをしていた。話をしはじめて20分くらい経った頃、ふいに「加納さんって、この後予定あるんですか?」と聞かれた。「ないよ、なんで?」と返すと「いや、雑談もせずに、すぐに本題に入ったんで。早く切り上げたいのかなって」と言われた。なるほど確かに、と思い、「最近、どうなん?」というカスみたいな質問をしたら、「無理やり聞かなくてもいいですよ」と気を遣われ、雑談はそれきりで終わった。
 打ち合わせはスムーズに進んだのだが、その帰り道、どうも良くないことをしたような釈然としない気持ちになった。後輩の「雑談もせずに」が私には「野暮ですね」と言っているように聞こえたのだ。いや、実際そう思っていたに違いない。私は野暮だった。アイドリングトークもなく、直接本題にいくなんて。待てよ、あれがデートだったらどうなっていたのか。女子大生同士の会話で聞いたことがある。「あの人ったら、キスもせずに押し倒してきて〜」うわー。完全にそれやん。私がしたことは、ムードもへったくれもない盛りのついた青年と同じなのだ。「最短でヤりたい」と思われた男と、「最短で打ち合わせしたい」と思われた私は、限りなく同じ顔をしていたに違いない。できるなら、時間を巻き戻して、二人が席についたところからやり直したい。やり直して、後輩が着ているありふれたシャツのひとつでも「よく似合ってるね」と褒めたい。
 とそこで、野暮とは何かと考えた。私はずっと野暮なのだろうか。辞書を引くと「遊里の習わしに通じていないこと。」とあった。遊里やん。私が野暮だったのは、打ち合わせという「仕事」の場においてである。となるとそれは別に野暮ではないのである。そう思うと、だんだん腹が立ってきた。なんやあいつ、先輩を遊里の習わしに通じていない奴扱いしやがって。私は効率的に話し合いたかっただけや。なんも野暮なことはないんや。絶対そうや。

 先日、昔からの友人と久しぶりに映画に行くことになった。前日LINEが来て「またいつもの現地集合現地解散?笑」と来た。「ふぇ〜〜〜〜〜」とだけ返した。