82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』、『ヒョンナムオッパへ――韓国フェミニズム小説集』刊行・著者来日記念トークイベント
チョ・ナムジュ×川上未映子×斎藤真理子×すんみ 

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュ氏来日を記念して、チョ・ナムジュ氏×川上未映子氏の対談が、斎藤真理子氏、すんみ氏を交えて、2019年2月19日(火)、新宿・紀伊國屋ホールで行われた(筑摩書房・白水社・紀伊國屋書店・韓国文学翻訳院 共催)。  韓国文学と日本文学における社会問題の影響、「正しさ」についてという話題から「オッパ」「主人」という恋人や夫の呼称についてまで、大変刺激的なトークイベントとなった。(通訳:宣善花(ソン・ソナ)、延智美(ヨン・ジミ))

『82年生まれ、キム・ジヨン』と『ヒョンナムオッパへ』

斎藤 きょうは、こんなにもたくさんの方にお集りいただき、本当にありがとうございます。ようこそいらっしゃいました。
 韓国からいらっしゃったチョ・ナムジュさんに、拍手をお願いします。
 まず、『キム・ジヨン』と『ヒョンナムオッパへ』、まるで人を紹介するみたいですけど、2冊の本についてご紹介します。
 『82年生まれ、キム・ジヨン』は2016年秋に韓国で出て、去年の秋に100万部を超えました。韓国の人口が約5200万人で、その中での100万部ですから、どれだけすごいヒットかご想像いただけると思います。韓国の小説からミリオンセラーが出たのは、2009年以来、9年ぶりです。ミリオンセラーはそんなに多くはないので、大変な存在だと言えます。
 現在、17カ国が版権を取得しています。台湾ではベストセラーになっていて、日本では2018年12月に出てから、現在発行部数は8万部が決定しています。これはアジア文学としてというよりも、海外文学の翻訳作品としても異例のヒットだと思います。
 この反響にもいろいろな側面がありますが、韓国の国会議員が全議員にこの本を読んでくださいとプレゼントするなど称賛を浴びる一方、例えばK-POPのアイドルがこの本を読んだと発言したらそれだけでバッシングを浴びるなど、非常に多様な反応を生みました。本当に社会的現象と言えるような本です。
 『ヒョンナムオッパへ』は、2017年に刊行された短編集で、「韓国フェミニズム小説集」と副題がついていますが、原書も「フェミニズム小説」と銘打っています。そのように銘打った本としては初めてだと聞いていますが、7人の女性作家の短篇を集めていて、トップにチョ・ナムジュさんが書かれた「ヒョンナムオッパへ」が入っています。
 日本版はまだ発売前ですが、きょうは特別、こちらで購入できるので、お帰りの際にでもお求めください。
 
『82年生まれ、キム・ジヨン』の反響

斎藤 次に、『キム・ジヨン』が日本でどのように受け入れられたか、少しお話ししたいと思います。私がこの本の翻訳を検討し始めたのが2017年でした。最近、韓国の文学もいろいろ翻訳されるようになってきましたが、できるだけ多様な作品を紹介したいと思っていますので、この大変ユニークな本は打って付けでした。
 ただ、これを翻訳しているうちにどんどん日本の状況も変わってきて、2018年、ちょうど翻訳の真っ最中だった5月に、財務省事務次官のセクハラ事件の暴露がありました。次に夏になったら、東京医大の不正入試事件が明らかになって、全然他人事ではないという感じになってきたんです。
 偶然ですが、この本の編集チームは全員女性です。意図的にそうしたわけではないのですが、翻訳が私で、編集者の井口かおりさん、装丁の名久井直子さん、装画の榎本マリコさん、皆さん女性のチームで進めました。
 ちなみに、表紙の絵についてご説明しますと、名久井さんがこの絵を選ばれたコンセプトが、「社会の中で自分のプロフィール=顔が危うい状態を表したかった」ということだそうです。「透明人間になっているような状態を表現したい」と。裏表紙を見ると、鏡にも風景が映っていて顔がなく、「鏡にさえ自分が映らないという喪失感のようなものを表したい」という意図だったそうですが、それが見事に的中した、印象的な本になったと思います。
 私たちが手塩にかけたこの本を、世間という海に送り出したのですが、ただちに翌日から「この本を読みました」という反応がどんどんSNS上に出てきまして、海のあちこちで小さい舟が出てくるように、どんどん多様な声が出てきました。それも非常に迅速で切実なものだったので、本当に驚きました。
 そして、12月10日になると、順天堂大学が不正入試をやっていたことに対する説明を「女子のほうが精神的な成熟が男子より早く、コミュニケーション能力が高い」ので、ある意味、男子を救うために点数を不正に操作したと発表しました。これを聞いた女の人は全員怒っていました。
 そういう雰囲気の中、この本はどんどん売れて、売り切れてしまいました。それが韓国でニュースになって、それを見た韓国人が、日本のアマゾンのこの本のページにどんどん書き込みをして、「☆1つ」と「☆5つ」に完全に分かれて、皆さん、自動翻訳機などを使って一生懸命書き込んでくださって、ある一日は、アマゾンが日本語作文大会のようになってすごかったのですが、こんなにも注目を浴びる本は本当に珍しいと思います。
 きょうは、チョ・ナムジュさん、川上さん、すんみさんのお話を通して、この本がなぜそういう力を持っているのか、背景を知ることができたら嬉しいと思います。
 それでは、川上さんに『82年生まれ、キム・ジヨン』の感想をお話しいただければと思います。

2019年4月1日更新

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チョ・ナムジュ(趙 南柱)

チョ・ナムジュ

1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。卒業後は放送作家として社会派番組のトップ「PD手帳」や「生放送・今日の朝」などで時事・教養プログラムを10年間担当。2011年、長編小説『耳をすませば』で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。フェミニズムをテーマにした短篇集『ヒョンナムオッパへ』(タサンチェッパン、日本版は白水社)に「ヒョンナムオッパへ」が収録されている。 『82年生まれ、キム・ジヨン』で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』(タサンチェッパン)刊行。photo©MINUMSA

川上 未映子(かわかみ みえこ)

川上 未映子

1976年8月29日、大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。『早稲田文学増刊 女性号』では責任編集を務めた。最新刊は短編集『ウィステリアと三人の女たち』。

斎藤 真理子(さいとう まりこ)

斎藤 真理子

翻訳家。訳書に、パク・ミンギュ『カステラ』(共訳、クレイン)、『ピンポン』(白水社)、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社)、ファン・ジョンウン『誰でもない』(晶文社)、ハン・ガン『ギリシャ語の時間』(晶文社)、チョン・ミョングァン『鯨』(晶文社)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)、チョン・スチャン『羞恥』(みすず書房)、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)などがある。『カステラ』で第一回日本翻訳大賞を受賞した。
photo:©Yuriko Ochiai

 

すんみ(すんみ)

すんみ

翻訳家。早稲田大学大学院文学研究科修了。訳書にキム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』(晶文社)、共訳書にリュ・ジョンフン他『北朝鮮 おどろきの大転換』(河出書房新社)、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)など。

 

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