ちくま新書

苦しい慢性便秘、通勤電車で下痢の急襲。

お腹が張ってつらい慢性便秘。よりによって通勤通学の電車内で起こる下痢症状。中高年のお腹は悲鳴を上げています。お腹の専門医が、痛みの見分け方、治療、予防法を解説するちくま新書『知っておきたい腹痛の正体』のはじめにを公開します。

はじめに

 腹部にはいくつもの大切な臓器があります。胃、小腸、大腸、肝臓、胆囊、膵臓、腎臓。女性なら、これらに加えて卵巣、子宮なども含めて、どれもこれも命に関わる臓器です。
 腹痛は誰でも経験したことがある痛みですが、ひとくちに腹痛といってしまうと、どの臓器の不調からくる痛みなのかわかりづらいものです。私が医科大学を卒業した1980年代にしょっちゅうお目にかかった腹痛の代表例は、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、上部消化管の病気でした。当時の日本消化器病学会の発表テーマも食道、胃、十二指腸および肝臓の研究が大多数でしたし、私が入局した大学病院の消化器内科では、胃内視鏡検査ができればほとんどの場合の診断が可能でした。
 ところが30年以上たったいまでは上部消化管の病気は減少し、小腸、大腸(結腸・直腸)といった下部消化管の病気が目立つようになっています。たとえば、難治性炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎やクローン病など、原因の特定が難しく、治療法もまだ発展途上の病気に苦しむ患者が急増しているのです。
 背景には複数の理由が考えられますが、私は日本人のライフスタイルの大きな変化があるとにらんでいます。食生活が和食中心から、いわゆる欧米化して肉類や乳製品を比較的多くとるようになったこと、ファストフードが珍しくなくなったこと、あるいは仕事や人間関係のストレス、またはその時代に流行している極端なダイエット等の影響も大いにあるでしょう。
 つらい慢性的な下痢や便秘による腹痛はもちろん、急で激しいお腹の痛みには不安が募るものです。本書は、そうした方々の心配を少しでも軽くしたいと執筆したものです。この不調は怖い病気の自覚症状なのではないか、お腹の検査は痛かったり辛かったりするのではないか、最近お腹が弱くなってしまったのはなぜだろう、どうしたらお腹の健康を保てるか、などの疑問にアプローチしました。また、私たち医師が腹痛のどこに注目して診察しているかについても言及します。本書が、読者のお腹の悩みを解消する一助になれば幸いです。

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