佐藤文香のネオ歳時記

第17回「ジム通ひ」「生ハム」【春】

「ダークマター」「ビットコイン」「線上降水帯」etc.ぞくぞく新語が現れる現代、俳句にしようとも「これって季語? いつの?」と悩んで夜も眠れぬ諸姉諸兄のためにひとりの俳人がいま立ち上がる!! 佐藤文香が生まれたてほやほや、あるいは新たな意味が付与された言葉たちを作例とともにやさしく歳時記へとガイドします。

【季節・春 分類・生活 飲食】
生ハム

傍題 プロシュート ハモン・セラーノ ハモン・イベリコ

 ハムにおけるハムらしさとは肉々しさだが、では一体、生ハムとは何者なのだ、と思っていた。ハムのくせにスケスケじゃんか、お前はセロファンの仲間だろうと。が、あるイタリアンのお店で食べてみて、その印象は一変した。ふわっとした舌触りからほどける味わい、これはまぎれもなく肉だ。
 日本では保存用に加工される豚肉のうち加熱処理していないものを生ハムと呼ぶ。一般的に食べる機会が多いのはイタリアのプロシュート、スペインのハモンあたりだろう。ハモン・セラーノとハモン・イベリコでは豚の種類が違い、流通量は9:1くらいだそうだ。ハム屋でバイトしていたとき、店長が「イベリコはどんぐり食うとるけんうまいんよ」と言っていたのを覚えている。どんぐりの木のもと放牧され、どんぐりをたくさん食べている豚ほど高級らしい(最高級のものはベジョータと呼ばれる)。
 生ハムは長期間乾燥・熟成させており、塩分量が多く日持ちする。カウンターの前に堂々と原木(薄く切られていない肉本体)が置かれているお店に行ったことがある人も多いはず。ちゃんと管理されていれば、スライスしてすぐ食べるのが美味しい。プロシュートの方がやわらかく、ハモンはコクがあるので、前菜として食べるならプロシュート。生ハムメロンに使うのもだいたいプロシュートだ。ハモンはチーズと一緒に、重めのワインをちびちびやるのにいい気がする。余談だがコッパというのが美味しかった記憶がある。後頭部から背中にかけての肉だ。パンチェッタも最高、こちらは生ベーコン。少し火を入れてもいい。
 常々美味しいものの3要素は「塩味」「脂」「コク」だと思っており、中トロの炙りに醤油、レバーにごま油と塩、など本当にうまいが、生ハムのうちのいいものは、なにもほどこすことなくこの3要素を実現するという意味で素晴らしいものだ。エキストラバージンオリーブオイルを少し垂らすと、さらに鮮やかな味になる。
 完全に食べ物の紹介になってしまった。いかんいかん。生ハムの春らしさは、やはり軽さと色。生ハム盛り合わせなどだと、さまざまな肉色に脂の白が散りばめられ、春らしい明るさがある。また、春になると、夜が少し暖かくなり、ちょっとウキウキして、2軒目に行ってみようという気分になる。そこで頼みたいのが生ハムだ。夜は炭水化物を控えているという人にも、もってこいのおつまみである。家で食べたいときは、ぜひハム・ソーセージ専門店で切りたてのものを購入してみてほしい。あわせる野菜としてはクレソンがオススメ。

〈例句〉
生ハムに透くるアボカド婚約す  佐藤文香
プロシュートちかくの風をさはりにゆく
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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