漫画家入門

第10回 鶏のからあげ

4個でひとつ!!

今回は番外編で、浅野さんのコンビニ愛あふれるエッセイをお送りします。

 公園でからあげを食べつつ、僕は反省していた。自分の機転の利かなさはもちろんだが、間違いを間違いと言わない自分の無責任さにだ。けど僕は、あの場にいた登場人物が、それぞれ別の世界線に立っているような居心地の悪さに居ても立ってもいられなかった。しかしいずれ近いうちに他の客とまた同じような重い空気になり、同じことが繰り返されるのは間違いない。
 もしくはその勘違いを指摘され、彼女はようやく間違いに気づき、過去に4倍の値段で客に鶏のからあげを売ってしまった自分を責め、枕を濡らすのかもしれない。食べ物が喉を通らず栄養失調になり、布団から出られなくなってしまうかもしれない。すると母親が心配して実家から駆けつけてくる。憔悴しきった娘は何があったのか一向に話そうとしない。母親は娘に少しでも元気になってもらおうと小さなワンルームのキッチンに立つだろう。久しぶりの手料理、そして娘がいちばんの好物だったものを必死に思い出そうとする母親。そして小一時間の煩悶の末、彼女の枕元に差し出されたのは奇しくも鶏のからあげであった。恐る恐る鶏のからあげを頬張る彼女。思わず溢れる涙。そして彼女は実家に戻る決意をした。
 適当な妄想をしているうちに授業の時間になった。授業が始まったら全部どうでもよくなってすぐに忘れた。

 話は少しずれるが、僕が中学3年の時の大晦日、クラスの友達の親戚が営む蕎麦屋で1日だけお手伝いでアルバイトをしたことがある。その店は大きな神社の近くにあり初詣の客も多く、おそらくいちばん繁盛する日で人手が足りなかったのだと思う。僕の仕事は簡単な注文取りだけだったが、ろくにメニューが頭に入っていない状態の接客だったので、僕はミスを連発した。中にはメニューにないものを注文する客もいるので完璧主義者の僕は内心かなり動揺し、終始その場で首を切って自殺したいと思いながら仕事をしていた。
明け方になり客もまばらになった頃、一緒に働いていた高校生くらいの女子と世間話をしていたら「落ち着いているから浪人生かと思った」と言われた。老け顔なのは承知していたが、落ち着いていると言われるのは心外だった。感情を押し殺していつも無表情なのは、自分の笑い顔が嫌いだったためできてしまった癖で、あまりいい癖だとは思っていないが、それは今も続いている。しかしこの頃は特に顕著だった。
 帰り道、元日早朝のまったく車の走っていない道路で自転車を全速力で漕ぎ、白い息をボウボウと吐き出しながら「自分は二度と接客はしてはならない」と心に誓った。実際それ以来、一度も接客の仕事をしたことがない。
 さっきもこの文章を書いている途中、気分転換にコンビニへ行ってきた。わさびクリームチーズ味のポテトチップスと、宇治抹茶のパフェ。それと紙のパックに入ったコーヒーを買い物カゴへ。レジは当然何事もなく完了した。コンビニ店員の経験はないのでなんとも詳しいことは分からないが、見ている分にはそのタスクの多さにいつも平伏する。それならば客は客で、できるかぎり簡素でありたいと思う。コンビニとはそういう場所だと思う。しかしあえていうなら、鶏の唐揚げは今回のような事故を避けるため、「4個でひとつ」ではなく、「握りこぶし大の1個」とし、食べやすいように照り焼き風にしてみたらどうだろうか。それじゃただのファミチキじゃないか。

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