加納 Aマッソ

第12回「そろそろ1kmぐらいですかね?」

 ジョギングが楽しい。後輩芸人数人と一緒に、好きなペースで走りはじめて早2年。冬も終わり走りやすい気候になったので、最近では週2回の皇居ランが欠かせない。体力はつくし、運動した後は脳が活性化し思考がクリアになってネタ作りも捗る。一石二鳥とはこのことと、いつも仕事終わりの22時頃に弾む気持ちで霞ヶ関に向かうのであるが、今日は雨で走れそうにないとなると、人の2倍落ち込んでしまうのが難点である。夜中のニュースでその日めざましい活躍をしたスポーツ選手を扱っているのを観ても、感嘆することも忘れて「こいつは今日こんなに動けてたんか、ええなあ」と嘆く有り様。そのうち梅雨をむかえた私は、時計屋のショーウィンドウに張りついて、止まらない短針を羨望の眼差しで見ることになりはしないかと心配している。
 それにしても、走っている最中の発言も、それぞれに癖があって興趣が尽きない。
 走り始めて6分ほどすると、A子は必ず「そろそろ1kmぐらいですかね?」と言う。毎度のことなので、私は6分ほど経ったときに「そろそろA子の“そろそろ1kmぐらいですかね?”がくるなぁ」と思う。そして実際にくると、にんまりして「そうやなぁ」と言う。皆も口々に「多分そうですね〜」なんて言うが、お気楽なジョギングなので、誰も確認はしない。確認したが最後、ジョギングがマラソンになってしまう、と皆うっすら感じているようだ。
 2回目の角を曲がった中盤の坂道あたりで、B美はたいてい「前回より楽に走れているか否か」を報告してくれる。「昼ごはんを多めに食べてしまったので、今日はなかなかキツいです!」と聞くと、「あちゃ〜」なり「げげげ」なりのヤワい反応をするが、この返しのレパートリーがだんだんなくなってきており、次こそは「前回より楽に走れています!」の日であってほしいと願っている。「やったね!」も「やるぅ!」も「ひゅーひゅー!」だって、楽しい相槌のほうは引き出しは無限である。
 Cャーリーズ・セロンは、ロサンゼルスのグリフィス・パークを毎朝走るのが日課だ。並走している女マネージャーに向かって、同世代の女優たちが自分のようにプロポーションを保てなくなってきたことを嬉しそうに話す。私がそばにいればここでもB美への「ひゅーひゅー!」を使い回すのだけれど、時差16時間と距離9000kmの隔たりがそうはさせない。私が布団の中でようやくまどろみ始めた頃、セロンは朝の光をあびながら、「60歳までに全てを充実させる」という口癖を息を乱しもせずに言う。何から何まで充実させるの。ただし、食事量以外はね。
 寒い冬を越えて、Dンゴムシは繁殖期のピークを迎えている。仲良しのダンゴムシ娘・ウニウニとハウハウは、今日もタイプじゃないオスから逃げ回る。「ぎゃー!! やめてー!! 足多すぎる奴まじむりー!!」「あいつ丸まるタイミングまじでセンスないー!!」「でもこれ続いたら痩せるんじゃねー!?」「レッツゴー!!」
 Eンヤ。Eンヤは走らない。知らんけど。